共同通信社:KyodoWeekly


2008/12/08号■政治インタビュー「渡部恒三民主党最高顧問」より

麻生首相の統治能力に疑問符
“ 成り行き政権”の限界

 麻生太郎首相は「政局より政策」と強調していたが、2008年度第2次補正予算案の提出を年明けの通常国会へと持ち越した。野党が迫っていた衆院解散・総選挙も米国発の金融危機を理由に先送り。麻生政権に対する評価と12月下旬まで延長が決まった臨時国会への対応などについて、民主党の渡部恒三最高顧問に話を聞いた。

▽前代未聞の事態
 〈麻生首相は、道路特定財源の一般財源化や定額給付金をめぐる迷走や失言が目立ち、閣僚が「不適切だった」「慎重にやってほしい」などと首相に“注文”。自民党の中堅・若手議員も第2次補正予算案を臨時国会へ提出すべきだと政府に迫るなど、政府、与党内の空気は穏やかではない〉

―麻生政権をどう見ますか。
 「年末を控え、商売をしている人たちは政治に期待している。『何より景気対策という声が圧倒的に多い』『ポイントはスピード』と言っていた首相が発言を翻して、第2次補正予算案は来年1月に提出すると平気で言う。これほどひどい首相、内閣は前代未聞だ。金融危機の引き金となった米国でも大統領選を行った。第2次補正予算案を今国会へ提出しないのなら、衆院を解散すべきだ」
 「閣僚ならば首相をかばうものだ。首相の発言を批判する場合には閣僚は辞表を出すのが政治の常識。しかし、定額給付金などで異論を唱えながら、辞表も出さずに閣僚を続けている。自民党内からは第2次補正予算案を臨時国会に出すべきだという声が噴出するなど、麻生首相が閣内、与党内を統治しているとは思えない」

―首相の失言が多すぎます。
 「永田町では森喜朗元首相と比べる向きもあるが、森君がかわいそうだ。麻生君の失言の内容、数たるや、その比ではない。安倍、福田内閣が立て続けに理由なく退陣してしまい、成り行きで発足してしまった麻生内閣の限界なのかもしれない」
 「最も許せないのは『何もしない人の金(医療費)を何で私が払うんだ』との思い上がった発言だ。『医師は社会常識がかなり欠落している人が多い』という発言も、言う必要のない言葉だ。常識が欠けているのは首相の方だ。こうした発言だけでも首相として不適格で麻生内閣は相手にできないと審議拒否してもいいぐらいだ」
 「われわれだって地名や人名を読み間違うことがある。会津に坂下という町があって『ばんげ』と読むが『さかした』と言い間違えたり、渡部恒三も『わたべつねぞう』と読んでも不思議はない。しかし、教育を受けた者であれば、当然、誰でも読めるような字を1度のみならず4、5回も間違える。一国の首相として恥ずかしいことだ」

▽政府、与党との協議不可能
 〈麻生首相は先月の民主党の小沢一郎代表との党首討論で、麻生内閣の閣僚、与党の幹事長、政調会長らと民主党のネクストキャビネットとの政策協議を呼び掛けた。衆院選が遠のいたこともあり、政策協議を呼び水に政界再編を仕掛けたいとの思惑もちらつく〉

―民主党が政府、与党と政策協議に入る可能性は。
 「民主党が協議に応じてしまったら公明党と同じになってしまう。ただ、外交・安全保障に関しては国益優先で党首対党首で話し合いをすることはあり得る。新テロ対策特別措置法改正には反対だが…。個々の政策課題について、政府、与党と協議の場を持ってくれというのはできない相談だ」
―政府、与党の打ち出した定額給付金に関する国民の評価は高くありません。
 「財政が厳しいからといって、社会保障費の伸びを毎年2200億円ずつ削ってきている。年金は削減され、介護を担う人も減り、医療は崩壊状態だ。国民1人当たり2万円ずつ支給しても経済対策にもならないし、国民生活にも役立たない。極めて姑息なメ選挙対策経費ヤだと言わざるを得ない」
 「社会保障費の2200億円の削減をやめて、後期高齢者医療制度を廃止すれば、年金・医療・介護に対する国民の不安は和らぐ。日本の個人金融資産は1300兆円だが、これで老後や病気に備えている。不安が解消され、その1%でも使ってもらえば13兆円の内需拡大が期待できる」
―道路特定財源の一般財源化についても政府と与党との調整が難航しそうです。  「地方交付税として新たに1兆円を増やすことには大賛成だ。しかし、麻生君は交付金と交付税の違いが分かっていない。交付税なのか交付金なのかと記者に問われて『自由に使えるなら何でもいい』と答えている。これも恥ずかしい話だ。首相以前に国会議員として失格だ。首相のひと言は世界に向けて発信され、重い責任を伴う。取り消したり、謝罪したりばかりでは信用されなくなってしまう」

▽日本もチェンジの時

―米大統領選が日本の政治に与える影響は。
 「ある。日本もチェンジの時だ。年金記録の改ざん、汚染米の問題など、戦後60年間、自民党を中心とした政官業の癒着による行政の弊害が噴き出ている。大胆な予算も組めない。政権がチェンジし、野党が政権を担うようになれば、官僚は無責任なことはできなくなり、行政は公正、公平になる。国民のためには政権交代しかない」
―臨時国会最終盤で、麻生首相問責決議案を出しますか。
 「決議案を出せば一切審議に応じないことになるが、政府、与党は『民主党のせいで審議が停滞している』と言うだろう。金融機能強化法の改正も新テロ特措法の改正も審議の引き延ばしはしない。首相相手に力で解散させるには審議拒否しかないが、国民にもマスコミにも受けない。判断が難しい」
 「当分、衆院を解散しないとなると、政府、与党が民主党に対して“仕掛け”てくることが考えられる。民主党は挙党態勢で事に臨まないといけない。党内の中堅・若手議員もそういう認識では一致している。徹底審議をして、民主党の政策が、万年野党時代のような内容ではないことを訴えれば、民主党の支持率が下がることはない」
                                                 (聞き手 編集部 松浦 義章)


2008/12/01号■対論 座標軸「医療崩壊」より

 ことし10月、24時間対応可能な「総合周産期母子医療センター」に指定された都立墨東病院で急患を受け入れられず、妊婦が死亡する悲劇が起きた。医療の現場で一体何が起きているのか―。与野党の議員に“医療崩壊”の現状と対応策について聞いた。(聞き手:ジャーナリスト 伊藤達美)

▽医療費抑制から転換を
三ツ林 隆志氏(自民党)

―患者の受け入れ態勢不備が問題になっています。
 「非常に残念であり、事態を深刻に受け止めている。ただ『受け入れの拒否』というメディアの言い方は、最前線にいる医師に対して気の毒だ。医者がいなければ診るわけにもいかないし、手術もスタッフがいなければ当然やれない。受け入れたくてもできないというような状況もある。それを単に『拒否』というような言い方をしてしまうと、医療の最前線にいる医師がかわいそうな面もある」
―医師不足、医師の偏在のどちらなのですか。
 「基本的には医者が少ない。産婦人科医、小児科医に加え、最近は麻酔科医、外科医もこれから不足になるといわれている。危機的といった状況を超え、医療崩壊が始まっている感じだ。医者がもう踏ん張りきれなくなって、病院からいなくなりつつある」
 「産婦人科も以前はもっと家の周りにあり、何かあれば近くで診察とか処置ができた。それができなくなってきたから、産科と新生児科が連携して出産や小児医療を行う周産期センターのような形になってきている。どこでも診察、処置が可能な環境だったら、わざわざ集約化する必要はなかったが、それだけ地域を担う医師たちが本当に減ってきている」
―原因は何ですか。
 「まず医者を減らしてきた。医療費を抑制していることも影響している。僕は30年前に小児科を選んだが、その時、周りの医師らから『どうして忙しいだけでお金にならないところに行くの』と言われた。そのころから、小児科はあまりいい職場環境ではないといわれていた。小手先のことはしたが、根本的な改善がなされていない」
―有効な対応策は。
 「財政再建、財政健全化という目標もあって、何しろ医療費を抑えることになっている。(小泉内閣時代から)毎年2200億円ずつ社会保障費を削る方針がずっと続いている。医療費を抑えるという考えが根本にある限りは抜本的な対応はできないのが現状だ」
―医療費の抑制は限界に来ているのでは。
 「高齢化が進むわけだから当然、医療費は掛かるようになる。医療費抑制策を思い切って転換、医療費を増やす形にしていかないと問題は解決しない。英国などもいったん医療が崩壊したが、ここのところ医療費に対する支出を増やしている。先進7カ国の中では、今、日本が対国内総生産(GDP)比では最低となっている」
―社会保障費の財源として消費税の引き上げも議論になっています。
 「逆進性のことが取り上げられるが、お金のある人はたくさん消費し、その分、消費税を多く払うことになる。そう考えると、消費の少ない人にはかなりのメリットがある。払う余裕がある人にとってみれば、かなり自分が出した分が戻ってこないが、余裕がある。ある程度みんなで分担し合うという考え方へと持っていかなければいけない」

▽給付金中止し医療費に
阿部 知子氏(社民党)

―医師不足の問題をどう受け止めていますか。
 「産科医療の惨状が露呈した。周産期センター病院が最後のとりでなのに、医師がいなくて患者を受け入れられない。器はあっても、マンパワーが不足している。新生児医療は8時間ずつ3交代勤務は必要だが、医師の数を抑制し続けて、結局、3交代でないと担えない分野の医師に負担がかかり過ぎている。社民党は今年、全国の病院5カ所を視察したが、お産ができない現状をつぶさに見た。医療現場のベースがまさに崩壊しており、深刻だ」
―原因は何でしょう。
 「1982年の閣議決定で医師の数が抑制された。90年代に入ってバブルが崩壊し、医療現場にも採算性が強く求められるようになったとき、小児医療の入院病棟が次々に閉鎖されていった」
 「さらに小泉構造改革と称して、病院の診療報酬の引き下げなど病院自体の運営を圧迫した。産科は小児科とタイアップしないとできない分野。少子化となっているから子供の数は少なくなったとはいえ、手間がかかる。夜間救急などの在り方も含めて小児医療の担い手がある種、冷遇された」
―医師不足に対する具体的な対策は。
 「外来中心の1次医療、入院可能な2次医療、先進的な技術を要する3次医療と、病院の機能は分化されるべきだ。今、集約化してセンター病院にどんどん医者を連れていっても、その後が“空白”のままでは結局、センター病院が忙しくなる。そして過重労働の反復再生産が続き、医者が辞めていったのが墨東病院だ」
 「3交代制にしようにも医師不足でできなければ、院内に助産師さんたちの力を活用する『バースセンター』を置く。それから、地域の行政機関の中に母子健康センター助産師を複数集めて、そこで出産してもらい、病院、医師と連携するなどしていくことが必要だ。カナダ、ニュージーランド、オーストラリアでは助産師さんをきちんと教育している」
―病院の経営はどうなっているでしょうか。
 「公立病院は危機的状況だ。1700余の自治体のうち973が公立病院を運営しているが、8割が赤字といわれている。累積赤字は1兆8000億円に上る。これまでの経営上の問題はあったにせよ、生命のとりでとしての医療拠点を国が守るべきだ。人の生命が一番と考えるなら、定額給付金として2兆円をばらまくのではなく、医療拠点に向けるべきだ」
―政府はどのような施策を取るべきだと考えますか。
 「まずは医師抑制、医療費抑制の方針を転換することだ。医療は国の根本政策にもかかわらず、日本の政治リーダーはその現状の深刻さを理解していない。医療に対する危機感のなさが『医療無策』『誤った医療政策』を生み、その帰結が現状となって現れたとの認識がない。政治の場で根本対策を講じなければならない」




2008/11/24号■政治記事より

急ピッチで支持と不支持逆転
麻生人気わずか1カ月半?

 麻生内閣の支持と不支持が逆転した。追加の経済対策に盛り込んだ定額給付金の支給方法をめぐってもたつくなど迷走ぶりも目立ち、看板の「景気対策」は色あせ気味。働き盛り、子育て世代である40代の内閣不支持率は51・8%と「麻生離れ」が際立つ。衆院解散・総選挙時期のタイミングを計る麻生太郎首相の政権運営に大きな陰りが生じてきたようだ。

▽かじ取り一層難しく
 共同通信社が麻生内閣発足後1カ月半の11月8、9両日に実施した全国電話世論調査で、内閣支持率は前回10月18、19両日調査と比べ1・6ポイント減の40・9%、不支持率は3・2ポイント増の42・2%と、わずかながらも支持と不支持が逆転する結果となった。
 福田前内閣で支持率が不支持率を下回ったのは発足後3カ月近くの時期。安倍元内閣は4カ月余で支持と不支持が逆転する事態を迎えており、これらに比べて麻生内閣は急ピッチで支持と不支持の逆転に至ったことになる。
 安倍、福田両政権とも、発足から1年の間に「支持と不支持が逆転」した後、支持率が30%割れによる「危険水域入り」し、最後は「政権の投げ出し」と、崩壊の軌跡をたどった。それだけに、衆院の解散・総選挙を先送りしたばかりの麻生首相にとっては、今後難しい政権運営のかじ取りを迫られる局面を迎えたともいえよう。
 安倍、福田、麻生各内閣の「不支持の高さ」は、13世紀の神聖ローマ帝国で皇帝不在、国王権力が衰退して混乱した「大空位時代」の到来になぞらえたくもなる。
 一方、米国では次期大統領選の結果、民主党のオバマ上院議員が共和党のマケイン上院議員を制した。オバマ次期大統領は勝利演説で「米国に変革がもたらされた。この勝利はあなたたちの勝利だ」と支援者をたたえるとともに「米国の真の強さは軍事力や富ではなく、民主主義と自由、機会、希望という理想が持つ不朽の力だ」と、人種の壁を乗り越えた米国が掲げる理想の強さを再確認するメッセージを表明した。
 このように政治の可能性を力強く誇示できる米国とは対照的に、閉塞感を打ち破れずに混迷する日本の政治の貧困ぶりを思い知った国民も少なくないのではないだろうか。

▽色あせた金看板
 麻生内閣の不支持理由で最も多かったのは「経済政策に期待が持てない」の27・9%で、前回10月調査比5・3ポイント増えた。9月の内閣発足時には14・9%だった。支持理由の「経済政策に期待できる」は13・3%で、10月比1・2ポイントの減。9月は17・6%と、2001年4月以降の電話世論調査では最高を記録していた。
 事業規模では約27兆円に上る追加経済対策を政府が打ち出し、総額2兆円の定額給付金などを盛り込んだ。一方、麻生首相自身が「経済状況を見た上で3年後には消費税率を引き上げる」との方針を表明。定額給付金の経済効果などをめぐる疑念も重なり、「景気優先」を掲げた麻生内閣の「金看板」が色あせ、支持の低下につながっているようだ。
 年代別に不支持率を探ると、40代の51・8%が最も高く、次いで30代、50代が共に45・4%で続く。最も低いのは20代の32・2%だった。
 不支持理由で「経済政策に期待が持てない」を挙げた人を年代別で見ると、やはり最も高かったのは40代で、46・4%を占めた。男女別では、男性17・8%に対して女性38・8%で、女性の不満の強さが浮き彫りになる。さらに40代について男女別に探ると、男性が33・4%に対して女性は59・7%に達した。働き盛りで、子育て真っ最中の世代が麻生内閣に対する最も厳しいまなざしを向けていることが分かる。
 内閣支持率を職業別で見ると、支持と不支持が逆転したのは「商工サービス業」「事務・技術職」「自由業」で、商工サービス業は支持が32・1%に対し不支持は56・0%に達した。
 政党支持層別での内閣支持は、自民党78・0%、公明党64・6%、民主党17・9%、「支持政党なし」の無党派層で22・2%だった。

▽郡部でも民主支持
 「望ましい政権の枠組み」では「民主党中心の政権」が43・2%(10月調査43・0%)で、「自民党中心の政権」36・1%(同38・3%)を上回った。次期衆院選での比例代表投票政党についても、民主党が35・5%(同35・9%)に対し、自民党は33・6%(同32・7%)で、民主党が優位の状況が続く。
 年代別で「望ましい政権の枠組み」を探ると、「自民党中心の政権」が上回ったのは70歳以上だけで、そのほかの年代ではすべて「民主党中心の政権」が優勢だった。前回は30代、50代、70歳以上で「自民党中心の政権」が上回っていた。
 市郡別では「自民党中心の政権」が最も高いのは「郡部」の39・2%(前回41・6%)。「民主党中心の政権」が最も高いのは、政令指定都市と東京都区部の「大都市」で45・8%(同47・2%)。前回は「郡部」と「小都市」(有権者10万人未満)で「自民党中心の政権」が上回ったが、今回は「中都市」(同10万人以上)を含めたすべての市郡別で「民主党中心の政権」が優位を占めた。 「地方の声を直接聞きたい」。麻生首相は9日の茨城県訪問を皮切りに次期衆院選へ向けた全国各地での遊説行脚をスタートしたが、小沢一郎民主党代表も地方行脚を数多くこなしており、「政権交代」をめぐる選挙本番に向けた地方でのせめぎ合いに拍車が掛かる。           (共同通信総合選挙センター 國井 正浩)




2008/11/17号■「実況・太郎官邸」より

▽何となく、こう何となく

 べらんめえ調の演説が持ち味の麻生太郎首相。官邸の主となり、1日2回の記者団とのぶら下がり取材や来訪者との会話を身近で聞くたびに気になる言葉がある。
 「何となく、世界で最も大事な2国間関係といわれる相手側の人ですが、何となく、きちんと勉強して、これからの世界とかに対して、意欲があるし、そういった感じですかね」。11月8日のオバマ次期米大統領との電話会談について感想を述べたときのこと。米国との2国間関係は最も大事と思っているのだろうが、「何となく」が入り込んで、あいまいだ。
 10月26日、秋葉原でのイベントの際にも「何となくそういう意識」「何となく、こう何となく」などと「何となく」を連発。対談した漫画家の弘兼憲史さんから「何となくが相当出てますね」と指摘されるほどだ。
 古くから麻生氏を知る人は「昔からの口癖。政治家なんだから、はっきり言った方がいいと言ってるが直らない」と話す。そのへんのあいまいさが解散時期や消費税率引き上げをめぐる「ぶれる首相」との批判を生んでいるのかもしれない。

▽言葉尻つかまえれば、そう
 麻生氏は10月30日、金融危機に対応する追加経済対策の会見で「定額減税については、給付金方式で全所帯について実施します。規模は約2兆円」と言い切った。しかし、連休が明けた11月4日になると「貧しいとか、生活に困っているところに出す」と所得制限設定へと方針を変えた。
 野党から「ばらまき」批判が出て、給付金に否定的だった与謝野馨経済財政担当相が所得制限を主張したためで、全世帯と所得制限の食い違いを聞かれた首相は4日午前のぶら下がりでは「言葉尻をつかまえればそうですよ」と答えるのが精いっぱいだった。「全所帯というのはおれも入るわけだろ。私のところにくるはずがない」。確かに“セレブ首相”の麻生氏には不要なのだろうが、「ぶれる首相」のイメージが残った。

▽今、400円ぐらい?
 連日のホテルでの夜会合も「庶民感覚を理解していない」と批判を浴びた。10月26日からの1週間で、ホテルでの食事は計6日、帰宅時間の平均は23時15分、「午前さま」は2回を数える。
 首相周辺が「バーでのひとときはクールダウンのためで、昔からのスタイル。変えるつもりはないようだ」と明かすように、葉巻とブランデーのロックを1、2杯楽しむ時間を大切にしているようだ。国会の質疑でカップめんの値段を「今、400円ぐらい?そんなにしない?」と答弁したことも話題となったが、ホテル通いもカップめんの値段を知らなくとも、そのこと自体はことさら問題と思わない。
 だが、「幸いにして自分のお金もありますから」と言う必要があったのか。カップめんの値段を知ったかぶりする必要があったのか。170円のカップめんをすすり、ネットカフェで一晩過ごす若者にはどう響いただろう。
                                                   (共同通信政治部 岡村 康隆)




2008/11/10号■「政治反射鏡」より

麻生首相の使命感
与党の脱力感

 衆院解散・総選挙の先送りで、永田町の住人は言わずもがな、政治を注視してきた人は誰もみんな脱力感に襲われている。「これで選挙は来年9月の任期満了までできないよ」と、あまり根拠のない、先走った声がやけ気味に聞こえる。この間、地元選挙区をせっせと回っていた自民党の議員や秘書からは「選挙事務所を借りて、人を雇って電話を引いて、ビラを作り、はがきを書いて、月数百万円は掛かっている。5月から準備を始め、9月に入って全力疾走してきた。どうしてくれるんだ」といった悲鳴も届く。
 解散権は首相の専権事項とはいえ、何度か早期解散の機会をうかがった末に翻意した麻生太郎首相も罪つくりではある。公明党の太田昭宏代表に「福田政権のときは『選挙は年末年始に』と言っていたんじゃなかったんですかねえ」と言ったという。首相はまだ約束を違えていないということになるのだろうか。
 麻生氏は消極的だったり、慎重居士だったり、引いたりすることを嫌う。どう攻め手をつくるかと積極的な発想をする人だ。どこでリーダーシップを発揮できるか、存在感を示せるかを考えている。それは総選挙なのか、それとも未曾有の世界金融危機への対処か、目の前にはふたつの舞台があった。
 麻生氏は100年に1度ともいわれる世界金融危機への対処でまず自分の存在感を見せるという方に傾いていったのだろう。もちろん、そこには選挙に突入しても自民、公明両党で過半数を維持できない可能性が高いとの調査結果があった。選挙区での調査の回数を重ねるほど結果ははかばかしくなかったようだ。切り替えの早い麻生氏は、政権を手放すことが分かっていて総選挙に突入するばかがいるかと考えただろう。そう推測するのはたやすいことだ。
 麻生氏は10月26日夜、JR秋葉原駅前を埋め尽くした聴衆の前で演説。2年前の自民党総裁選の際に漫画、アニメの「おたく文化」を高く評価して人気を博したのが秋葉原での街頭だった。その気分のいい場所での今回の演説で、金融危機に臨む姿勢を鮮明に出した。「世界中で最も期待されているのは日本だ」「経済力をバックにした外交が力になる」と。北京でのアジア欧州会議(ASEM)で強めただろう金融危機への対処の使命感が伝わってきた。
 11月15日には、米国での緊急金融サミット、22、23日にはペルーでアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議、12月には日中韓首脳会議とめじろ押し。麻生氏の関心は当分こちらに集中することになるのだろう。秋葉原演説で「いま政治家の中では、麻生太郎が一番使える、そう思っているんだがね」と言い放った。このへんが麻生氏の真骨頂だ。自民党ベテラン議員が「麻生さんにとって政治は遊びだからな」と言っていた。国際舞台で存在感を示す方が楽しいということなのだろうか。
 麻生首相は金融危機対処では、追加経済対策など次々と指示。こういう遅滞なき指示は悪くない。この点では“小沢一郎首相”より、頼りになりそうにも思える。しかし麻生氏はこれからどのような政策を打ち出しても「それで解散・総選挙はいつ」という問いを突き付けられ続けて、政権は不安定感を増していくことになろう。 (榊原 元廣)




2008/11/03号■きさらぎ会講演要旨より

金融不安逆手に麻生主導演出
総選挙勝敗ポイント220議席

 政治評論家の浅川博忠氏は10月24日、大阪市内で開かれた共同通信社「きさらぎ会」で講演し「麻生政権には致命的な欠陥がある」と述べ、政局の混乱は今後も続くとの見方を示した。次期衆院選の与野党勝敗の分け目を「220議席」と分析、政界引退を表明した小泉純一郎元首相が政界再編を仕掛けていく可能性も指摘した。
 講演「衆院解散・総選挙と政権の行方」の要旨は次の通り。

▽総理の座できるだけ長く
 平成になってから20年で総理大臣は14人も誕生している。小泉氏を除けば、残り13人の総理としての平均寿命は1年ちょっと。この20年で日本が国際社会で一時的に占めていた栄光の地位はどんどん後退している。それもひとえに政局が混乱して総理がくるくる代わるからだ。
 4度目の正直で総理大臣に就任した麻生太郎氏だが、明らかな欠陥がふたつある。ひとつはすぐに祖父の吉田茂氏の自慢をすること。もうひとつは金払いが悪いということだ。
 麻生氏の派閥はわずか20人ほどの小派閥にすぎない。本来であれば50人くらいの派閥の会長になっていてもおかしくない。この点は、自民党総裁として唯一、総理になれなかった河野洋平氏に似ている。彼も金払いが悪いと有名だった。この欠陥は今後、典型的な致命傷となってくるだろう。
 総裁選で麻生氏は圧倒的な勝利を収めた。それは、ほかの自民党議員たちが国民的な人気がある麻生氏を総理に据え、就任直後の支持率のご祝儀相場が高いうちに解散してもらい、少しでも有利に選挙戦を戦いたいという保身からだった。しかし、麻生氏の最初の支持率は各新聞社平均で48%。63%はあると思っていた麻生氏もこれにはぶるってしまった。
 自民党内部では、森喜朗元首相や古賀誠選挙対策委員長も麻生氏への反感を強めている。古賀氏は麻生氏と同じ福岡県出身で、ライバル意識が強い。古賀派からは1人しか入閣しなかった。「早期解散説」を意図的に流したのも古賀氏だ。森氏は組閣時に幹事長就任を打診されたが、以前、会食した際「総裁経験者に対して失礼じゃないか」とぼやいていた。公明党だって総選挙の時期をめぐって麻生氏に不信感を募らせている。
 麻生氏は外交面にしても経済面にしても自信過剰気味だ。世界中を金融不安が襲う中、11月4日の米大統領選以降、政治的空白が続くであろう米国に代わってリーダーシップを発揮し、主役の1人になりたいという野望を持っている。これを担保に総理の座をできるだけ長く維持したいと思っている。
 しかし、前述の通り、反麻生勢力は増えつつある。小派閥を基盤とする麻生氏が今後、党内からの揺さぶりに耐えられるか。結論を言うと、この政局の混迷はしばらく続くだろう。

▽小沢政権イコール岡田政権
 さて、対局にいる民主党の小沢一郎代表だが、小沢氏はここのところ本当に張り切っていた。「今度こそ総理になりたい。ラストチャンスだ」という思いでいっぱいだった。
 昨年の今ごろの自民党との大連立の失敗以来、党内の一部から背を向けられながらも孤軍奮闘してきた。民主党の渡部恒三最高顧問によると、小沢氏は、同期当選の羽田孜、森喜朗両元総理、国民新党の綿貫民輔代表、そして渡部氏に比べ、入閣したのはわずか1回。これを快く思っていないのだという。何としても総理になりたいのだ。
 しかし、小沢氏は健康不安を抱えている。解散総選挙の時期が遅れれば遅れるほど弱っていく。マイナス材料になるのは事実だ。たとえ政権を取れたとしても、1カ月程度しかもたないだろう。小沢氏の中では、次は岡田克也元代表と腹が決まっている。小沢政権誕生は岡田政権の誕生とイコールなのだ。鳩山由紀夫幹事長や菅直人代表代行は自分に譲ってくれると期待しているが…。
 その小沢氏が次期総選挙で獲得を目指しているのが300ある小選挙区で150議席。そうすると180ある比例ブロックで70議席ほどが加わり、計220議席となる。衆院の過半数は241だが、自民と民主にとって、220が勝敗のポイントになる。自民が220議席獲得すれば29議席は取るであろう公明党と組んで、過半数に達する。民主の場合は、社民党や国民新党に働き掛けて過半数を狙える。
 小沢氏が政権を取ったとして、まだ気力と体力を保っていれば、次は自民党に手を突っ込んで分裂させていくだろう。彼にとってはこれが一番のウルトラCだ。つまり、次の選挙は220議席取った方がより政権を取る可能性が強いということだ。私の分析では、現在209対207でわずかに民主党がリードしているが、ほぼ互角だ。

▽第3極で小泉氏暗躍?
 そこでキーマンになってくるのが小泉純一郎元首相だ。小泉氏は今回も裏から小沢氏をたたきつぶすという気持ちを持っていたが、「小泉氏がぶっ壊した自民党を立て直す」と言った麻生氏があっさりと総理になり、半分嫌気がさして国会議員を辞めた。麻生氏を政権で重用したのが小泉氏だ。「誰のおかげで総裁選に何度も出られるほどになったんだ」と怒っている。
 ただ、小泉氏は「議員は辞めても政治活動は続ける」と話している。麻生政権が維持されても、小沢氏が政権を奪取しても、小泉氏は財界と連携していずれの政権にも揺さぶりをかけていくだろう。場合によっては小池百合子元防衛相や自民党の中川秀直元幹事長を動かし、その周辺にいる20人ぐらいの自民党議員を引き連れ、第3極を目指すかもしれない。
 民主党で小沢―岡田ラインが前面に出てくると前原誠司前代表あたりは居場所を失い、党を飛び出し、小泉氏が裏にいる政党に合流する可能性だってある。この政党がキャスチングボートを握って連立のパートナーとなるのではないか。小泉氏は度胸があり、百戦錬磨。政局が好きで好きでたまらない。国会議員を辞めても、つまり役者を辞めても、シナリオライターとして政界を裏で操っていくことになるだろう。





2008/10/27号■政治コラム「It's小タイム」より

社民党 福島 みずほ党首

しっかり審議、そして解散

 「そわそわ国会」「ジタバタ国会」となってきている。「今日の天気予報」ではないけれど、毎日いろんな情報が飛び、微妙に解散の日についての予測が変わっていく。今の時点では11月30日説が濃厚となっている。
 株価がどーんと下がって、今とても首相は衆院を解散できる状況ではないと考えている節もあり、また、4度目の挑戦で首相になったからには1日でも長くやりたいと思っているようにも見える。これに対して、民主党は「解散をしろ」と迫っている。
 私が国会の中で痛感しているのは、どちらもどっちが自分たちにとって選挙が有利かということがともすれば優先し、国民のことが忘れられがちだということである。
 2008年度補正予算案と、海上自衛隊によるインド洋での給油活動を継続するための新テロ対策特別措置法改正案はしっかり成立させたい自民党。「早く解散を」ということで、衆院での新テロ特措法案の審議を2日間で終わらせることに合意した民主党。やっぱり変だ。
 前回、新テロ対策特別措置法が参院で議論になった時には2カ月かけた。日本が提供した油が一体何に使われているのか情報公開を求めて大議論になったことを覚えている人も多いだろう。それがなぜ今回ちゃちゃちゃと成立させてしまうのか。
 米国のアフガニスタン攻撃とイラク攻撃はきちんと検証されなければならないことだ。しかも日本は名古屋高裁の違憲判決ではないが、戦争に加担してはならないのだ。おまけに多額の税金を使っている。今までインド洋で給油に使った税金は700億円。油代だけでは234億円。きちんと議論をすべきである。
 解散権を持っている首相に「解散、解散」と迫っても「その手に乗るか」と、反対の態度を取られるのは当然である。また、国会は審議をすべきことはきちんと審議すべきである。
 米国のサブプライム住宅ローン問題や今の金融危機はグローバリゼーションの中で、新自由主義で突っ走ってきた米国経済が破たんをきたしたということである。「暴走する資本主義」ではだめだということである。高所得世帯の上位1%が総収入の20%を占める社会が多くの人にとって住み良い社会であるわけがない。
 日本でも政策の転換が今こそ必要である。この10年間くらいの間に、日本はすっかり変わってしまったと私は思う。大企業が潤えば働く人が潤い、大都会が潤えば地方が潤うという関係はなくなってしまった。
 サラリーマンの給料は10年間下がり続け、労働分配率は下がった。働く人の3人に1人が非正規雇用。今、真っ先に派遣の人たちが切られている。株式配当は4兆円から16兆円と4倍になり、内部留保も増えたのに働く人たちは使い捨てである。
 2003年から始まった「三位一体改革」ならぬ「三位バラバラ改悪」で、地方に行く財源は交付税で5兆円、補助金で1兆円、合計6兆円減った。
 自治体病院の休止や民営化も進んでいる。地域に住めず、人口移動すら起きている。だから政策転換こそ必要なのである。まっとうな政治へと変えることこそが最大の景気回復なのである。