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【暮らし】

どうなる学校 学童保育の現状(下) 課題多い『子どもプラン』

2008年11月11日

 厚生労働省と文部科学省が共同で始めた「放課後子どもプラン」。学童保育の待機児解消とすべての子どもの放課後の安全な居場所づくりをする事業だが、学童保育機能の低下、自治体の費用負担など課題も多い。 (井上圭子)

 「こんにちはー」

 東京都品川区立大井第一小学校。授業を終えた一年生が、校舎二階にある放課後の居場所「すまいるスクール」に続々とやってきた。受付で名前と下校時刻を申告し、空き教室を改装した三部屋に分かれて入っていく。

 絵本を広げる子、パソコンに向かう子、廊下に飛び出す子。音楽室では沖縄の伝統芸能エイサーのけいこが始まり、校庭ではボール遊びや一輪車などに興じる百人以上の子どもたちを二人の指導員が見守る。

 同区は二〇〇一年度、全児童を対象とした放課後子ども教室「すまいるスクール」を一校で試験開始、〇六年度に全小学校に拡大した。同時にそれまでの学童保育を廃止し一体化した。

 「専業主婦家庭の子も利用でき、安価で安心して遊ばせられると好評」と同区教委の小沢一雄主査は胸を張るが、学童保育を必要とする家庭からは不満も聞こえる。

 指導員が「お帰りなさい」と子どもを迎える学童保育は、メンバーも固定され「毎日の生活の場」として家族的な集団生活を営む。指導員も子どもたちの状況把握がしやすい。

 一方、放課後子ども教室はすべての子が対象で幅広いニーズに対応するが、不特定多数が好きな日に来て好きな時間に帰るため、一人一人に目を配れない。大規模化もしやすい。大井第一小の同教室専任指導員、別城宏さんは「子どもの名前と顔、どこで何をしているかも把握しきれない。居場所の提供と安全監視で手いっぱい」と言う。

 放課後子ども教室と学童保育の一体化は、別の課題も生む。〇三年度に、学童保育への補助金を打ち切り一体化に踏み切った川崎市では、資金繰りに困った民営学童保育の閉鎖が相次いだ。通っていた自宅近くの施設が消え、切迫した共働きやひとり親家庭から学童保育への補助金復活を求める請願が出た。

 品川区も川崎市も一体化施設の指導員は、人材派遣業者に外部委託する。同区では、小学校全三十八校の年間予算約十二億円の半分が人件費。国の補助金も不十分で、他の自治体は一体化に二の足を踏む。

 それも影響してか、厚労、文科両省の調査(昨年十二月時点)では、「一体化実施」は全国の小学校区の2・6%、施設は別だが活動は一緒に行う「連携実施」は5・0%とまだ一部だ。

 だが、横浜市のある学童保育指導員は「いつ帰ってもいい子と、留守家庭の子では、放課後の居場所の意味が違う。放課後も学校の教室に囲い込まれ、一人一人が大切にされない同プランでは子どもの心は安定しない」と懸念する。

 早稲田大学の増山均教授(児童福祉学)は「誰のためのプランか。人材育成も連携体制も補助金も不十分なまま始まった机上プランに現場は振り回されている。地域の実情に即し、子どもの利益を最優先したプランに変えないと学童保育つぶしで終わる」と警告する。

<放課後子どもプラン> 放課後の小学生の安全な居場所づくりのため、保護者の就労状況に関係なくすべての子を対象に昨年度から始まった事業。厚生労働省所轄の「放課後児童クラブ(学童保育)」と、地域の人材を生かして体験活動や学習活動を行う文部科学省所轄の「放課後子ども教室」が二本柱。将来的には二事業の連携・一体化を目指す。市区町村教委が福祉部局と連携して空き教室などで実施し、費用は国、都道府県、市区町村が3分の1ずつ負担する。

 

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