◎資金繰り悪化 年末へ金融機能も正念場
北陸の信用保証協会への保証申請の急増は、経営が急速に悪化する中小企業の多さとと
もに、金融機関がリスクを取れない深刻な現実を映し出している。金策に行き詰まる「年末危機」がささやかれる中、地域の金融機能もまさに正念場である。金融機関や制度融資を担う自治体、保証協会など官民が一致協力して資金繰りを支える必要がある。
とりわけ心配なのは、保証申請の殺到によって審査手続きに遅れが生じることである。
焦げ付きによる代位弁済を避けるために審査に厳格さが求められるのは当然だが、運転資金が切迫する企業にとっては時間との闘いである。保証が確実に受けられる案件にもかかわらず、事務処理の遅れで倒産に追い込まれる事態は避けねばならない。協会は膨大な申請件数に対応できるだけの審査体制を早急に整えてほしい。
政府は緊急保証制度として十月末から「セーフティーネット保証」の対象を百八十五か
ら五百四十五業種に広げ、返済できない場合は保証協会が100%肩代わりする全額保証を復活させた。対象業種は今月に入って六百九十八業種に拡大され、中小企業の八割をカバーする規模となった。金融機関にとっては貸し倒れリスクがないため使いやすく、積極的に対応した。申請急増にはそんな背景がある。
石川県信用保証協会の保証承諾件数は今月九日時点で二百件、約五十七億円に達する一
方、未処理案件も五百件に膨らんでいる。申請はさらに増加が見込まれ、協会側は総動員態勢で審査の迅速化を図る必要がある。
多くの地銀は九月中間期決算で赤字を余儀なくされ、融資に慎重になるのは理解できな
くもない。だが、信用保証制度に過度に寄りかかれば地域の金融機能はバランスを欠き、保証業務にしわ寄せが及ぶことになる。
全国的には金融機関が自らの借金返済に当てさせる付け替えの可能性があるとして金融
機関の代理申請を禁じるケースもある。景気悪化で公的保証の比重が高まるのは避けられないとしても、このままでは代位弁済も増えるだろう。制度を円滑に機能させるためにも金融機関の役割は極めて重い。
◎「熱狂の日」へ贈り物 モーツァルトの共有を
来年の「ラ・フォル・ジュルネ金沢『熱狂の日』音楽祭2009」(北國新聞社特別協
力)では「モーツァルトと仲間たち」がテーマになるが、金沢の諸会場を下見にきた同音楽祭のアーティスティックディレクター、ルネ・マルタン氏の提案を入れて市民参加型のプログラムとして市民によるピアノのリレー演奏も行われることが決まった。
これを知った元ピアノ講師で金大名誉教授の川口恒子さんが五十年以上かけて収集した
モーツァルトのピアノ曲や交響曲を収めたレコード、CD、楽譜など約二百点を同音楽祭実行委員会に贈ったとのニュースは心温まるものだった。
「幸福を与える音楽を生み出したモーツァルトは、大好きな作曲家。次代を担う若い人
たちの演奏を楽しみにしたい」という川口さんである。贈られた楽譜には今では入手できないものもあるそうだ。それらは市民の演奏で使われたり、展示されたりする計画だという。
市民によるピアノのリレー演奏は「ピアノ・マラソン・リレー・コンサート」と銘打っ
て音楽祭を盛り上げるプレ行事として行われる予定だ。モーツァルトにはピアノ曲が多く、そのほとんどが演奏されるというから、金沢の街のあちこちで人々によってモーツァルトが語り合われることだろう。「モーツァルトの共有」―その光景を想像するだけで胸が躍る。
ハイドン、ベートーベンと並んでウィーン古典派三大巨匠の一人とされるモーツァルト
は十八世紀の中ごろ、オーストリアのザルツブルクで生まれ、わずか三十五歳で病没したが、その短い生涯に七百曲もつくったといわれる。
モーツァルトに関して日本では今は亡き小林秀雄氏の評論が名高く、氏はモーツァルト
の音楽が大好きで、レコード盤がすり減るまで聞いたというエピソードを残している。その氏はモーツァルトの音楽にしても、人それぞれの受け止め方があり、努力して得た無心と、訓練した直接的な聴覚で聞くことを勧めている。助言の一つとしたいものだ。