ゼネラル・モーターズ(GM)など米国の大手自動車3社(ビッグ3)に対する救済法案は、議会での調整がつかず廃案となってしまった。米政府は混乱を回避するため声明を発表し、つなぎ融資を行う方向で検討に入ったことを明らかにした。
エネルギー法により140億ドルを融資する救済案は、上院で共和党が反対し、修正協議も決裂した。ビッグ3の破綻(はたん)が現実味を帯びたことから、世界的に株価が急落し、円高が進んだ。
市場の動揺を抑えるため、米政府は、金融安定化法を使い、ビッグ3に対し資金繰りのための融資を行う方針を示した。
米国の住宅バブル崩壊をきっかけに始まった金融危機は、9月のリーマン・ブラザーズの破綻を経て、深刻の度をいっそう深めている。こうした状況下でビッグ3が破綻となると、経済の混乱はますます加速することになるだろう。
金融市場の崩壊を防ぐのが金融安定化法の目的で、そのために用意した公的資金7000億ドルを使い自動車会社を支援するのは、本来なら筋が通らない話だ。
しかし、世界恐慌の再現も指摘される危機的な状況下では、緊急避難としてやむを得ない措置と言えるのだろう。
世界最強とされるトヨタ自動車でさえ、今年度下期は営業損益が赤字になるという。金融危機は世界の自動車産業を直撃し、危機の震源地である米国は、とりわけ深刻で、ビッグ3は自力での資金調達ができない状態に陥っている。
しかし、ビッグ3の不振は、金融危機だけのせいにはできない。大量のガソリンを消費する大型車に依存し、さらに本業の低収益をカバーするために金融部門を拡大してきた。
そのツケが、燃料価格の高騰と金融危機で一気に噴出してきた。新型車の開発で後れをとり、高い労働コストと高額の役員報酬といった問題は長期にわたり指摘されてきた。
日本の輸出自主規制という形で時間的猶予があったにもかかわらず、抜本的改革にはつながらなかった。
米政府が融資すれば立ち直るわけではなく、1カ月ほどで誕生する民主党政権と新議会に解決を委ねるための時間稼ぎに過ぎない。
日本の民事再生法に相当する連邦破産法の適用により再生を図るという方策もある。しかし、破綻という手続きをとれば、部品メーカーや販売網なども含め巨大な雇用問題に発展する。
このため、米国内でも意見が分かれているが、こうしたビッグ3を取り巻く不安定な状況は、人々の心理を冷やし、経済の悪化を加速させるだけだ。
雇用などの対策も含め再生のための明確なプランをつくり、実行すべきで、米国の政府、議会、自動車業界が結束して取り組むことを期待したい。
毎日新聞 2008年12月14日 東京朝刊