寝ても覚めても

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寝ても覚めても:挑戦意欲を阻むルール=冨重圭以子

 フィギュアスケートのNHK杯では、男女シングルでともに日本人選手が優勝した。女子は表彰台を独占した。世界のトップクラスの選手が出場しなかったにしても、たいしたものだ。

 ただ、得点に関しては、ところどころで首をかしげた。男子優勝の織田信成選手の154・55点というフリーの点数は、明らかに高すぎた。素人の私だけがそう思ったわけではなく、当の本人が「140点に届くかな、と思った」と振り返ったそうだから、ジャッジの方々の地元選手へのサービスも、ちょっと度が過ぎたようだ。

 もう一つ、新採点方式になってからずっと不思議に思っていることがある。今大会でもあったので、少しややこしいけれど説明してみよう。

 ジャンプのダウングレードの問題だ。浅田真央選手の2回目のトリプルアクセル(3回転半)は、回転不足で2回転半とグレードを落とされた。

 このときは2回転ジャンプを続けたのだが、得点はなんと4点しかなかった。成功した単発のトリプルアクセルが9・8点だったのに、転びもせず、バランスも崩さず、きれいに着氷したコンビネーションジャンプが半分以下。いったい、この差は何なのか。

 トリプルアクセル+ダブルトーループの基礎点は9・5点。アクセルが回転不足でダウングレードされたため、基礎点はダブルアクセル+ダブルトーループの4・8点になった。そのうえGOE(出来栄えの評価。ジャッジが加点または減点する)でも回転不足の場合は必ずマイナス評価にすべし、というルールがあるため、0・8点マイナスされて4点になったわけ。

 3回転半にちょっと足りなかっただけで、2回転半ジャンプを失敗した、とみなされるのだ。浅田選手の実力をもってすれば、最初からダブルアクセル+ダブルトーループにしておけば、基礎点4・8点にGOEで加点されて6点近くが出たはずだ。

 高難度のジャンプに挑戦すると、回転数がちょっと不足しただけで、難度の低いジャンプで安全策をとるより低い点数になる、というのは、どうしても解せない。ダウングレードは仕方がないが、ジャンプの質がよければGOE加点もあり、でいい。

 スケート関係者も「ジュニアでも難しいジャンプに挑もうとしない選手が増えた」と嘆いているそうだ。挑戦意欲をなえさせるルールは、スポーツの本質を無視している。早く改正してほしい。(専門編集委員)

毎日新聞 2008年12月5日 東京夕刊

 

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