サイエンス日本語版

日本語アブストラクト
12 December 2008 Volume322 Number5908

Reports

モダフィニル(modafinil)は課題遂行中のfMRIにおいてヒトの青斑核の持続性活動(tonic activity)を弱く、周期性活動(phasic activity)は強く変化させる Modafinil Shifts Human Locus Coeruleus to Low-Tonic, High-Phasic Activity During Functional MRI Michael J. Minzenberg, Andrew J. Watrous, Jong H. Yoon, Stefan Ursu, and Cameron S. Carter 認知調節機構のモデルから、脳橋青斑核のノルエピネフリン作動性神経系(LC-NE)の重要な役割が推測される。すなわち、ヒト以外の霊長類では、周期性(phasic)に変化するLC-NE系の活動が、課題に関連する脳内ネットワークにおいて、また行動時にも皮質への入力を適応調整しつつ試行ごとに行っていると考えられる。しかし、この推測は、ヒトでは検討されていなかった。今回われわれは、LC-NE系活動促進剤modafinilを健康なヒトに投与し、認知調節課題の遂行中にfMRIを施行して、LC-NE系の活動変化を非投与対照群と比較検討した。その結果、modafinilの投与により、課題と関連しないLCの持続性活動が減少し、課題に関連したLCと前頭前野(PFC)の活動が増大した。さらにLCとPFCの機能的連携が強化された。以上の結果から、ヒトのPFCの機能と認知調節におけるLC-NE系の役割が確立されただけでなく、認知機能を促進するノルアドレナリン作動薬の治療効果のメカニズムも示唆された。 →英文アブストラクト

ヒトAPOC3のnull変異(ヌル変異、無発現変異)は、血漿中脂質を良好な成分にして明らかな心保護作用をもたらす A Null Mutation in Human APOC3 Confers a Favorable Plasma Lipid Profile and Apparent Cardioprotection Toni I. Pollin, Coleen M. Damcott, Haiqing Shen, Sandra H. Ott, John Shelton, Richard B. Horenstein, Wendy Post, John C. McLenithan, Lawrence F. Bielak, Patricia A. Peyser, Braxton D. Mitchell, Michael Miller, Jeffrey R. O'Connell, and Alan R. Shuldiner アポリポ蛋白質C-III(Apolipoprotein C-III:apoC-III)は、トリグリセリド(中性脂肪)の加水分解を阻害することから、冠動脈疾患と関連があるとされてきた。われわれはゲノム全長にわたる関連研究により、ペンシルバニア州ランカスターに住むアーミッシュ(アンマン教徒)の人々のうち約5%が、apoC-IIIをコードする遺伝子(APOC3)にヘテロ接合体のnull変異(R19X)を持つことを発見した。また、その結果、この変異の保有者は、非保有者のapoC-III量の半量分しか発現していなかった。変異保有者では、非保有者と比較して、空腹時および食後の血清トリグリセリド値が低く、HDLコレステロール値は高く、一方LDLコレステロール値は低かった。冠動脈の石灰化の有無により、無症候性アテローム性動脈硬化の発症を調べたところ、その頻度は、変異保有者では非保有者よりも低く、生涯にわたってapoC-IIIが欠乏していると、心保護作用のあることが示唆された。 →英文アブストラクト

古細菌の細胞分裂におけるESCRT複合体の役割 注)ESCRT:endosomal sorting complex required for transport A Role for the ESCRT System in Cell Division in Archaea Rachel Y. Samson, Takayuki Obita, Stefan M. Freund, Roger L. Williams, and Stephen D. Bell 古細菌は内膜構造(エンドソーム)を欠く原核生物である。しかし、Sulfolobus 属を含むCrenarchaea界の多くの超好熱性菌は、真核生物エンドソーム輸送系蛋白質であるVps4とESCRT-IIIの相同体をコードしている。今回われわれは、Sulfolobus属のESCRT-IIIとVps4相同体が、細胞周期中にその発現制御を受けることを発見した。これらの蛋白質は相互作用し、われわれはこの相互作用の構造的基礎を構築した。さらに、これらの蛋白質は、細胞分裂の際に、二つの娘細胞の中央に特異的に局在していた。Sulfolobus属の細菌に、その酵素活性を欠損させた変異Vps4を過剰発現させると、大型化した細胞が集積した。これは、細胞分裂が機能していないことを示していた。したがって、古細菌のESCRT複合体は、細胞分裂において主要な役割を演じているといえよう。 →英文アブストラクト

非コードRNAであるAirはG9aをクロマチンに動員することでエピジェネティックに転写を抑制する The Air Noncoding RNA Epigenetically Silences Transcription by Targeting G9a to Chromatin Takashi Nagano, Jennifer A. Mitchell, Lionel A. Sanz, Florian M. Pauler, Anne C. Ferguson-Smith, Robert Feil, and Peter Fraser 多くの高分子非コードRNA(ncRNAs)は遺伝子をエピジェネティックに抑制するが、その機序は不明である。非コードRNAであるAirは父親由来の対立遺伝子からのみ発現する(すなわち刷り込み発現を示す)。Airはマウス胎盤において、シスに位置する近隣遺伝子であるSlc22a3Slc22a2、およびIgf2rの対立遺伝子特異的な遺伝子抑制に必要である。今回われわれは、胎盤においてAirSlc22a3遺伝子のプロモーター領域のクロマチン、およびヒストンH3の9位のリジン残基(H3K9)メチル基転移酵素であるG9aと結合することを報告する。Slc22a3遺伝子プロモーター領域へのAirの結合は、同領域のH3K9メチル化とSlc22a3遺伝子の対立遺伝子特異的な転写抑制を伴う。G9a遺伝子を欠損させると、Slc22a3遺伝子の対立遺伝子特異的な抑制はおこらず、両方の対立遺伝子から転写がおきた。部分欠失させたAirAir全長に満たない変異RNA)はSlc22a3遺伝子のプロモーター領域に集積することができず、その結果、同領域に動員されるG9aが減少し、やはり両方の対立遺伝子からの転写がおきた。以上の結果から、Airは、そしておそらく他の高分子ncRNAも、特定のクロマチン領域への結合を介して抑制的なヒストン修飾活性を動員することにより、エピジェネティックな転写抑制をおこなっていることが示唆される。 →英文アブストラクト

Copyright © 2008 by the American Association for the Advancement of Science.