遠野市助産院が開院1年 通院負担着実に減少

1時間ほどかけて健診する菊池助産師(右)と松田さん=10日、遠野市助産院「ねっと・ゆりかご」
産科医の携帯電話に送信された妊婦の健診データ
 新たな通信システムを使った遠隔妊婦健診に取り組む岩手県遠野市助産院「ねっと・ゆりかご」が開院1年を迎えた。タッグを組む連携病院も増え、6年前からお産できる施設がなくなった地域の妊婦の通院負担を着実に減らしている。「遠野モデル」を岩手県全体に広げる情報ネットワーク構想も動きだしている。(北上支局・高橋鉄男)

 市中心部の福祉施設の一室にある助産院。3人目の出産を控える妊娠32週目の松田美保さん(33)は10日、診察用長いすに体を預けた。センサーで胎児心拍や子宮収縮などを測ると、助産師の菊池幸枝さん(40)が具合を聞きながら検査結果を電子カルテに記入する。

 「データを送信しました」。菊池さんが連絡したのは約60キロ離れた盛岡赤十字病院。主治医がインターネットやメールで結果を確認する。「2人目の出産までは病院に車で1時間半かけて雪道も通った。今は10分ほどなので助かります」と松田さんはほほ笑んだ。

<12の病院と連携>
 助産院での健診は安定期に入る妊娠20週後半から40週ごろまでの4回程度。助産師は産科医とネットや携帯電話でデータをやりとりし、指示を仰ぐ。出産間近の母体にも気を配る安心感が受け、1年間の実績は計170件、約50人が連携病院で出産した。市内妊婦の約四分の一が利用した計算だ。

 昨年12月、経済産業省の実証事業を発展させて東北初の独立型の公設助産所を開設。お産は扱わないが、2人の助産師は妊婦が通う医療機関と連携している。

 助産所の連携先が複数あるケースは全国でも珍しい。遠野市助産院は地図のように12医療機関に上り、開院当初より3カ所増えた。「電子データを使う方法は、従来の電話やファクスに比べ、生の情報が正確に分かるので提携しやすい」(産科医)と理解が進んだことも要因のようだ。

 「まだシステムを知らない妊婦も多い。助産院利用者を増やして医師の負担も軽くしたい」と、妊婦訪問や妊婦教育にも力を入れる菊池さん。市も妊婦健診の公的補助を2回から5回に増やしている。

 岩手県の15―49歳女性人口10万人当たりの産婦人科医数は全国34位(36.2人)。県土の広さもあり、産科医不在の地域は多い。

 県立大船渡病院副院長の産婦人科医小笠原敏浩さん(48)は「大学の定員増などで産科医を増やそうとしても、現場に出るまでには最低8年はかかる。空白域での遠隔健診システムは医師不足を補うのに有効だ」と語る。

<財政支援が課題>
 ただ、開業助産所の遠隔健診は遠野市が先鞭(せんべん)をつけたばかり。本格普及には国の財政支援など課題が残る。

 鍵を握るのは岩手県が構築を進める周産期電子情報共有システム。来年度から電子カルテや健診データを岩手医大のサーバーに蓄積し、速やかな情報共有や遠隔健診の普及を狙う。遠野効果を全県に波及させる考えだ。

 小笠原さんは「医師と助産師、行政が機能分担すればできることはたくさんある。互いの役割を理解し、妊娠から産後までの支援ネットワークで妊婦の負担を減らしたい」と強調する。
2008年12月14日日曜日

岩手

社会



河北新報携帯サイト

QRコード

東北のニュースが携帯でも読める。楽天・東北のスポーツ情報も満載。

≫詳しくはこちら

http://jyoho.kahoku.co.jp/mb/