2008-12-09
プレゼンテーションを成功させるための9つのステップ
はじめに
前回、プレゼンテーションについての記事を書いたら大きな反響を頂いたので、今回も引き続きプレゼンテーションについて書いてみたい。
ぼくはアイデアを出すことを仕事としているので、思えばこれまでの人生はプレゼンテーションの連続だった。そこで人をいかに説得するか、説得しないまでも自分のアイデアをいかに採用してもらうかということで、鎬を削ってきた。
また、ぼく自身がプレゼンテーションをしてきただけではなく、さまざまな人のプレゼンテーションというものも見てきた。中にはものすごい名人芸というか、凄腕のプレゼンテーションマエストロも何人か見てきたし、彼らの目を見張るような鮮やかな手練れというのも幾度か目の当たりにしてきた。
そうした中で、いつの間にかぼくのプレゼンテーションに対しての一つの法則というか、スクリプトというのができあがった。すぐれたプレゼンテーションにはある一定の法則というか流れのようなものがあって、ビシリと決まるプレゼンテーションはもちろんディテールの微妙な差異はあるけれども、概ねこうした流れに沿って展開されているのではないかという「型」のようなものが、ぼくの中でだんだんと固まってきたのである。
そこでここでは、そんなぼくが分析しまとめたプレゼンテーションの型、あるいは流れというものを、9つのステップに分解して紹介してみたい。このステップに沿ってプレゼンテーションを展開することができれば、どんな手強いクライアントでもかなりの高い確率で、すぐに成約とは行かないまでも、強いインプレッションを残せることは間違いないだろう。そして、そういうインプレッションを残していくことは、例えそのプレゼンテーションでは実を結ぶことができなくても、未来のプレゼンテーションの種まきとしては非常に有効で、そういう地道な一歩の積み重ねが、千里の道も一歩からで、結局は成約への一番の近道だということは、この9つのステップを紹介する前に、あらためて強調しておきたいところである。
プレゼンを成功させるための9つのステップ
ステップ1「驚きを与える」
人の心を開かせるのには、まず驚きを与えることである。ここ数年は「サプライズ」などという言葉が流行したりもしたが、驚きほど短期間に、しかも確実に人の心を開かせる術は他にない。
驚きは他の何にも勝る。もし驚きを与えることができれば、それだけで、以降の親密なコミュニケーションはもう約束されたようなものである。
人は驚きに弱い。そして驚きを与えてくれた者に対して、複雑な感情の入り交じった好意を抱くように宿命づけられている。例えば男女の恋愛がそうだ。有史以来、全ての恋はまず「驚き」から始まっている。その人にびっくりすることが、恋心を抱く、どんな場合でもファーストステップなのだ。
ことほど左様に、驚きとは、人の心を開かせる魔法の鍵である。だから、プレゼンテーションの端緒は、まず「驚き」から開かれるべきなのだ。まず、相手を驚かすのである。方法は色々あるだろうが、とにかく驚かせることに全ての神経を注ぐのだ。そしてもし、そこで驚かせることに成功したならば、そのプレゼンテーションの成功は8割方約束されたと言ってもけっして言い過ぎではない。
ステップ2「笑わせること」
もし驚かすことで相手の心を開かせることに成功したら、今度はその開いた口に「笑い」を注ぎ込むのである。
これは利く。無防備になった心に笑いを注ぎ込まれるほどの快感は、他にない。
それは爆笑を誘う。「爆笑」とは、開いた心に笑いを注ぎ込まれることのことなのだ。開いてない心の人間に爆笑はあり得ない。だから「驚き」と「笑い」はセットになって初めて絶大な効果を発揮するのである。
アメリカンジョークなどは、たいていこうした組合せでできている。まずインパクトのある言葉で相手を驚かす。そうして心が開いたところを見計らって、そっと「笑い」を注ぎ込むのだ。
だから利くのである。だから例えくだらないダジャレでも大笑いしてしまうのだ。そうしてプレゼンにおいても、これほど利く技はないのである。
まず驚かせ、次にそこに笑いを注ぎ込む。そうして爆笑を誘う。すると以降は、もう何を言ってもドッカンドッカンである。彼らは揺りかごの上のジェットコースターだ。何を言ってるか分からないかも知れないが、要はとても気持ちが良いということである。そうしてクライアントは、成約のハンコを押すのだ。但し爆笑しながらなので、二、三度押し間違えるという難は免れないかも知れないが。
ステップ3「提示する」
ステップ2で少々先走りすぎたが、プレゼンはここからが本番である。まず、驚かせ、そこに笑いを注ぎ込んで爆笑させる。そうやって十分暖めたところで、ここで初めて「企画を提示」するのである。
ここがつまり、クライアントと企画とのファーストコンタクトになる。いわゆる「ご対面」というやつだ。そうしてこのご対面で一番重要なのが、実はその人の温度なのである。
どんなに優れた企画だろうと、冷めた温度のところに持っていったのではまとまるものもまとまらない。いわゆる冷めたピザというやつだ。だから、企画は相手の温度の一番暖まったところで出すという、そのタイミングがとても重要なのだ。
それはフランス料理の一流シェフが、厨房から食卓まで運ぶあいだに冷める温度も勘案して、ピザを出すのとも似ている。とにかく企画は、「何を出すか」や「どう出すか」よりも、「いつ出すか」ということの方が、実は大切だったりするのである。
ステップ4「否定する」
さて、そうしてせっかく提示したアイデアであるが、ここで一つ、自らのアイデアを否定するというステップを盛り込んでおきたい。
これは、プレゼンテーションをよりスリリングにし、クライアントのドキドキを誘発して、さらなるアミューズメントの世界へと誘う魔法のステップである。言うなれば、クライアントをジェットコースターの俎上に乗せるのだ。そうした上で、上を下への大騒ぎを体験させるのである。
あらゆるクライアントが、自らのアイデアを棄却するプレゼンターを予想していない。それはそうだ。プレゼンターは自らの企画をプレゼンテーションするからこそプレゼンターであって、その企画を否定してしまったのでは、プレゼンターとしての自らの存在をも否定することになるからだ。
しかし、だからこそ利くのである。そこが狙い目なのだ。これも一種のサプライズと言えるのだが、そういう、クライアントが予想だにしなかった演出をくり広げることによって、彼らの度肝を抜いてやるのだ。
これまで気持ち良くプレゼンしていた企画を、プレゼンターがいきなり全否定したら、クライアントは間違いなく度肝を抜かれる。そして「おいおい、どういうことなだよ?」「聞いてないよ!」「これから一体どうなっちまうんだ!?」と混乱の渦に巻き込まれる。
そうして、それがまさに狙いなのである。ここからが、プレゼンテーションという名の「エンターテインメントショー」の、真の幕開けとなるのだ。
ステップ5「対案を提示する」
クライアントが混乱に陥ったタイミングを見計らって、先ほど否定したアイデアに代わる対案を提示する。その際、ポイントとなるのは、それが説得力がありながらも、しかし前のアイデアとも甲乙付けがたいものにするということ。つまり、ある種のトレードオフの状態を意図的に作り出して、どちらの案が良いのだろうと、クライアントを悩ませるのだ。
昔、「究極の選択」というのが流行ったけれども、甲乙付けがたいどちらかを選ばなければならない状態というのは、これだけでもう、実はものすごいアミューズメントなのである。とても楽しいことなのだ。困ってるけど、ある意味嬉しいことなのである。いわゆる「嬉しい悲鳴」というやつだ。
ここでは、そういう「嬉しい悲鳴」を演出するのである。そうして、悩ませるのだ。また迷わせるのだ。悩ませ、迷わせることこそ、クライアントを最も楽しませることなのである。またそこでクライアントを楽しませることは、アイデアのでき如何に関わらず、成約をグッと引き寄せる大きなステップとなるのだ。
ステップ6「逆転への道筋を示す」
さてしかし、そうやって悩ませてばかりいても、それはそれで不親切なので、タイミングを見計らって、解決への道筋――つまりどちらか選ばせるための材料を提示してやることが次のステップとなる。
ここで最も効果的なのは、さっき否定したはずの、最初の案に対する好材料を、あえて提示するということだ。そうして最初の案の方を、意図的に優位な立場に立たせてやるのである。そうすることによって、一旦は捨てられたかに思えたアイデアが鮮やかに復活するという、逆転劇を演出することができるのだ。
この「逆転劇」ほど、人間の心を揺さぶるものは他にない。一旦はダメかと思われていたものが最後の最後で大逆転をしてみせるという、神代の昔から親しまれてきた物語原型を、このプレゼンテーションの場でも展開してやるのだ。そうすることによって、そのアイデアに対する愛着や親近感は一気に増す。いわゆる判官贔屓というやつを引き出すのだ。そうすれば、クライアントはそのアイデアが可愛くて可愛くてしょうがなくなる。「愛いやつよのう」ということで、どうしても手元に置きたくなる――つまり採用したくて仕方なくなるのである。
ステップ7「空白を作る」
と、そういうふうにそろそろゴールが見えてきた頃合いで、ここで空白を作ってやる。ブランクを提示するのである。あえて何も書いてない、企画を詰め切れてない、アイデアとして甘い部分を用意しておいて、それをここで初めて提示するのだ。
そうして、その空白をクライアントに埋めさせるのである。それは魅力的な虫食い算のようなものだ。あるいは面白そうなクロスワードパズルにも似ている。
人間は、空白があるとどうしてもそこを埋めたくなる。そういう生理を持っている。それは老若男女、等しくそうだ。だから、そうした垂涎の的とも言える空白をここであえて提示し、そこをクライアントに埋めてもらうことによって、彼の参加意識をもう一段引き上げるのである。
「ここのところだけが、良いアイデアが思いつかなかったんですけど、何か良いアイデアはありませんかね?」
と、シレっとした顔で尋ねるのだ。そうして相手に、
「では、こうしてみたらどうかな……」
と言わせれば、もう勝ちである。
あとは、
「なるほど、いやそれは気付かなかったな! さすがですね! いや勉強になりました! ぼくはまだまだだなあ、あはははははは!」
とでも調子を合わせておけば、相手はどこまでも木に登っていくこと請け合いだ。
ステップ8「挑発する」
これはやってもやらなくても良いのだけれど、しかし山椒は小粒でぴりりと辛いと言われるように、あるいは美味しい料理には必ず辛みが隠し味として利いていると言われるように、あえて入れておいて絶対に損はないステップである。
「挑発する」というのは、クライアントあえて見くびるのだ。
「いや、でもこれだけのご予算はさすがに出せないですよねえ」
「御社もここまで思い切った施策を打てはしねいですよねえ、世間体もあるし」
「このアイデアで役員の方を説得するのは、業界の暴れん坊と言われた田中さんでもさすがに無理じゃないでしょうか」
と言ったように、相手が良い頃合いでカチンと来るようなことを、シレっとした顔で言ってやるのである。
そうして、相手の闘争本能に火を付けるのだ。人間といえども動物であり、その闘争本能の呪縛からは逃れられない。そうして「本能」というくらいだから、人間、本当にカチンと来た時には、それを感情ではコントロールできなくなる。
だから、その闘争本能を上手く引き出してやるのだ。そして共闘するのである。自分とクライアントとのあいだに共通の「仮想敵」を設定して、そこへの戦いという図式を描くことによって、クライアントの闘争本能を十全に引き出し、それを利用しながら、プレゼンを成約へと雪崩れ込ませるのである。
ステップ9「選択させる」
とうとう最後のステップである。ここまで長い道のりを経てきたが、ここに辿り着いたあなたがするべきことは、もう一つしか残っていない。
それは「選択」をさせるということである。クライアントに、自らがプレゼンした企画を選択させるのだ。
但し、選択と言っても「それを採用するか不採用とするか」を選択させるのではない。こちらが提示したいくつかの案の中から、「どれを採用するか」を選択させるのである。
そうして、いずれを選択しようとも、もうこちらのアイデアを採用することは暗黙の了解というか、決定事項であるかのように振る舞うのだ。それはもう自明の理として、言わずもがなのこととして、皆まで言うなという感じで、最後まで触れないし、また触れさせないのである。
「あ、じゃあ施策はどれにしましょうか? Aにしますか? Bにしますか? あ、やっぱりAですよね。分かりました。いや、正直、こちらとしてはまだ不安が拭いきれないんですけど、田中さんがそこまで仰るなら、私としても腹をくくりしました。ぜひ、A案でいかせて頂きます。いや、でも、やっぱり大変そうだなあ。こりゃ、明日からデスマーチの幕が開くな、あはははははは。ただ、田中さんの顔を潰すわけにはいかないですからね。死んだ気になって頑張ります!」
と、最後はほとんど恩着せがましいというか、どちらが頼んでるのか分からないようなモードにまで持っていくのが肝要である。
こんなふうに言われたらイヤミじゃないかと思う人もいるかも知れないが、しかしこれはこれで良いのである。これがいわゆる「ケレン味」というやつなのだ。もちろん、クライアントもこちらのそういう作戦は重々承知しているのだけれど、図々しさというのもある一定のレベルを超えると逆にすがすがしさに変わるから、この世界は不思議なのである。
向こうも、騙されるならきれいに騙されたいと思ってるのだ。男女の間柄で言うなら、「浮気はしょうがないけど絶対にばれないようにしてよ」という感じだ。嘘も方便で、むしろ見事に騙してくれた方が、相手としても気持ちが良いのである。「講釈師見てきたような嘘をつき」ではないが、嘘だと分かっていながら、一炊の夢として、そうした嘘に酔いたいのである。
まとめ
ここに記したことは、全てプレゼンテーションの「内容」とは全く関係ないことである。すなわち「何をプレゼンするか」ではなく、あくまでも「どうプレゼンするか」ということを扱った。
しかし、前のエントリーでも書いたのだけれど、プレゼンも、それが高度に専門的なことになると、選ぶ方にもなかなか判断がつきにくくなるということがある。だから、いくら懇切丁寧に、また分かりやすく説明しても、肝心の内容をうまく伝えられないということは、往々にしてあるのだ。
そうした時に重要になってくるのが、ここに記した「どうプレゼンするか」ということだ。人間は、人間に対する評価軸なら誰でも持っているから、最後はその人を見て判断するという場合がけっして少なくないのである。
そうした場合に、このようにあくまでも相手を楽しませるというポイントにおいて立脚されたプレゼンテーションのスクリプトを用いれば、それはユーザーエクスペリエンスという意味では最高のサービスであるから、その誠意は必ずや先方に伝わるはずである。そしてそれが伝われば、プレゼンの成約ももはや遠い日の花火ではなく、つまりはハンコを押してもらえるということも、あながち「一炊の夢」ではなくなるのだ。
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