題名 :『戦国自衛隊』

登録日時 :01/09/09 11:56

20年ぐらい前、特に映画好きでもなかった私だが、角川映画は比較的よく見て いた。大掛かりに宣伝し、ドトーの勢いで次々と公開される中には、面白い作品 もあれば、つまらない作品もあった。面白かったのは、『野生の証明』『復活の日』『里見八犬伝』『キャバレー』 『麻雀放浪記』など。つまらなかったのは『セーラー服と機関銃』『スローなブ ギにしてくれ』『汚れた英雄』それに、横溝正史のシリーズなど。

『戦国自衛隊』は比較的面白かったように、記憶している。 しかし、20年ぶりに見てみると、実は面白いところだけ覚えていたのだ、とい うことが判明した。

1979年、製作:角川春樹事務所 配給:東宝 原作:半村良 監督:斎藤光正

物語は大変面白い。




演習に備えて移動中の自衛隊員21名が、装備ごと、戦国時代にタイムスリップし てしまう。何故タイムスリップが起きたのか?彼らは「歴史が俺達に何かをさせ ようとしている」と解釈する。その役割を果たせば、昭和に帰れるだろう。 指揮官の伊庭三尉(千葉真一)は、当時の武将、長尾景虎(夏木勲)と意気投合 し、二人で天下をとろうと盟友になる。

景虎は主君の小泉越後守(小池朝夫)を討って、独立。一方の伊庭は脱走しかけ た矢野(渡瀬恒彦)らを粛清。哨戒艇と4名の隊員を失うが、戦車、ヘリコプ ター、機関銃を持った彼らは無敵。

そして川中島で、自衛隊vs武田騎馬軍の壮絶な死闘が始まる。 近代兵器を相手に武田軍は互角に戦う。圧倒的人数差、武田信玄(田中浩)の巧 妙な作戦、そしてまったくひるまない兵達の勇気が、自衛隊を危機に追い込む。 自衛隊のジープはがけの上から丸太を落として破壊。装甲車は落とし穴にはまって身動きがとれなくなる。ヘリには信玄の息子、勝頼(真田広之)が飛び乗っ て、中にいたスナイパーとパイロットを殺害。戦車には砲弾射程外の至近距離から白兵達が飛びつく。遂に戦車は燃料切れになった。

大型の装備を失って白兵戦になっては、武田軍が圧倒的に優位。自衛官達は、バズーカ砲をぶっ放したり、手榴弾を投げつけたり、機関銃を掃射したりして、最前線の足軽兵たちをバタバタ倒すが、その死体を乗り越えて雄叫びを上げなが ら、後方の兵が勇猛果敢に押し寄せてくる。全くひるむ様子がない。秘密兵器の真田鉄砲隊(指揮官は角川春樹)も登場。平和ボケの昭和で実戦経験のない自衛官たちは、さすがにビ ビる。

そのうち弾も切れてくる。つぎつぎと自衛官達が倒れる。恋人(岡田奈々)と駆 け落ちするはずだった菊池(錦野旦:にしきのあきら)は全身を20箇所ぐらい 刺されて壮絶な最期。木村(竜雷太)は少年兵(薬師丸ひろ子)に討たれる。

一人だけ違ったのが伊庭。近代の武器を失うや、迷わず馬に飛び乗り、槍や弓矢 を使いこなして戦国武士達と対等に渡り合う。あんた、本当に昭和の人か?

遂に信玄の本陣に太刀を手に現れた伊庭に、信玄は一対一の勝負を挑む。信玄強 し!圧倒された伊庭は、隠し持っていたピストルで信玄を倒す。そこに賭けつけ た武田勝頼が「父の敵!」と、馬から飛びつくように斬りかかってくるが、伊庭 はこれを返り討ち。

信玄の生首を手に「討ち取ったりー!」と絶叫し、大笑いする伊庭。いつの間にか言葉まで戦国武将になってしまっている。

こうして、川中島の決戦に勝利は収めたものの、兵器や装備の大半と仲間を失っ た自衛官7人は、小さな寺に潜む。これで自分たちは歴史の「命令」を達成したのだろうか?もう一度タイムスリップが起きて、昭和に戻れるのだろうか?そうだ、最初に来た場所に移動しよう。しかし、伊庭は隊員たちを止める。平和ボケの昭和より、思う存分戦える戦国時代こそが、伊庭にとっては居心地がいいのだ。「この時代で天下を取る!」と伊庭は宣言する。

そこに現れたのは、長尾景虎の軍勢。朝廷と足利将軍の命令により、伊庭達を討ちに来たのだ。伊庭は太刀を、景虎は機関銃を手に対峙する。伊庭は景虎の機関銃で撃たれ、トンボを切って死んだ。残った隊員たちも槍と矢で蜂の巣状態で絶命した。自衛官達を景虎は手厚く葬る。こうして戦国の自衛隊は歴史の闇に埋もれた。(完)




うん。やっぱり面白い。特にクライマックスの川中島の決戦は、手に汗握る大迫力。アクション監督も務めた千葉真一の手腕が存分に発揮されたものになった。

ただ、それが始まるまでが長すぎるのね。映画全体が約2時間20分。川中島の 決戦が始まるのが開始から約1時間20分のあたり。ここから最後までの1時間はとても面白いのだが、それまでがダルすぎ。ムダ、と言っちゃあ失礼かもしれないが、ダラダラと散漫な映像が多すぎる。

思うにこのダルダル感は音楽に起因している。ジョー山中や井上尭之の歌が劇中に何度も何曲も挿入されるのだが、これがみな出来のよくないバカの一つ覚えのようなスロー・バラードばっかし。そのたんびに映像はアイドルのプロモーション・ビ デオみたいにソフト・フォーカスのイメージ主体になって、間延びする。こんなシーンを無理矢理挿入 したのは誰?それはこの人に間違いない。
音楽監督=角川春樹

まあ、アクション監督千葉真一と同様に、音楽監督もその個性を存分に発揮し た、と言えなくもない。

脚本(鎌田敏夫)はいろいろ効果的なエピソードを盛り込もうとしている。例え ば矢野は以前に軍事クーデターを起こそうとしたことがあり、それを本部のスパイだった伊庭に阻止された、なんて、実にうまい設定。

演技陣も頑張っている。アクション系の出演者はもちろんだが、かまやつひろしや鈴木ヒロミツなども独特のキャラが立っている。

(ちなみに女優陣は台詞なし。岡田奈々なんて結構出演シーンは長いのに、一言 もしゃべらない。20年前、私の仲間内では「岡田奈々は頭が悪くて、台詞が覚 えられない」という説があった。小野みゆきも薬師丸ひろ子も台詞をしゃべらないので、そういう演出だと思うが。)

つまり問題は角川春樹氏一人にある。この人はそういう人であり、角川映画とはそういう映画であったということがとてもよくわかる。悪い意味だけではなくてね。
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