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地域医療を守る(下)再編・ネットワーク化

2008年12月13日

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県立海部病院の医療体制が充実すれば、県南部での問題は解決するという声も。たが、医師不足の壁が立ちはだかる=牟岐町中村

 10月30日、つるぎ町立半田病院、三好市立三野病院、県立三好病院(三好市)の3院長が協定書に署名した。手術の際の医師の相互派遣や応援診療を通じて、連携を強化させる内容だ。

 医師不足が深刻になるにつれ、それぞれの病院に残った医師の負担は増す一方。このままでは、共倒れになりかねない。6月から3病院間で検討を始め、一体となって県西部の医療に対応する考えでまとまった。まだ相互派遣の例は出ていないが、県病院局の担当者は「3病院の距離は確実に縮まっている」と期待を寄せる。

 徳島市の県立中央病院と徳島大学病院も、「総合メディカルゾーン構想」を検討している。両病院が隣接しているのを生かした、医師の相互派遣、検査やリハビリ部門の一体化、高額医療機器の共同利用などの案。11年度に中央病院が改築されるのを機に、両病院を渡り廊下で結ぶ予定だ。

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 今年に入って、全国各地で公立病院の再編・ネットワーク化に向けた議論が本格化している。諸問題の打開策として、総務省が昨年12月に出した「公立病院改革ガイドライン」を通じて各自治体に促したからだ。

 ガイドラインは、こんなことを想定している。医療の中核を担う基幹病院をつくって医師を集約。そこから周辺の小病院や診療所に医師を派遣し、地域全体に必要な医療サービスを提供できるネットワークを築く――。日本赤十字社や社会保険関係団体などが運営する「公的病院」も再編対象に加えて検討することが望ましい、としている。

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 11月24日、徳島市で開かれた第3回県地域医療対策協議会。約2時間の大半は、再編・ネットワーク化の議論に費やされた。委員は医療関係者や首長ら22人。9月以降、県東部、南部、西部の3圏域に分けて地域医療のあり方を検討してきた。年度内に一定の結論を出す。

 検討課題の一つが、病院間連携が進む気配がない県南部だ。県が11月に南部の5町と6病院に実施したアンケート結果によると、再編・ネットワーク化に向けた考え方の違いがはっきりと出た。

 「必要」と主張する県立海部病院(牟岐町)に対し、海南病院を運営する海陽町は「町の病院は町が守っていく」。日和佐病院(美波町)も「再編しても何のメリットもない」と答えた。

 「自分の町の病院は残したい」という住民や首長の思いが強いほど、再編・ネットワーク化は実現しにくいといわれる。アンケート結果を見た委員の一人は、「病院の統廃合も選択肢の一つだが、現状では提案しても無理だろう」とあきらめ顔で言った。

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 公立病院経営に詳しい広島国際大医療福祉学部の谷田一久准教授は、病院の統合はメリットだけではないと指摘する。「地域によっては病院がなくなる。新たな基幹病院を建設すれば借金が残る。一つの病院に医師が集まったことで、他の地域に引き抜かれる可能性もある」。こうしたリスクも考えて議論する必要があるという。

 ■取材を終えて

 「医師不足をどう解消するのか」。どの取材相手もこの質問には複雑な表情を見せた。「努力はしていますが……」と言葉に詰まる人、「どうしようもない」ときっぱり言い切る人もいた。

 公立病院での医師確保の難しさが伝わってきた。自治体には大学病院から派遣される医師の人事権はない。人材獲得のために、病院幹部が大学の医局にあいさつに出向くこともしばしばだと聞く。

 原稿を書き終えてから悩んだ。人数が減って医師の負担が増していることを強調するあまり、今後、赴任したがらない医師が増えるのではないかと思った。

 冒頭の質問を自分自身にも問いかけ、取材を続けた。制度や財政問題もからみ、「特効薬」を探すのは容易ではない。だが、地域住民の生命が脅かされるような事態が起きてからでは遅い。今は、いっそうの努力を関係者に望むほかはない。

(日比真)

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