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社説1 景気も改革も力不足の与党税制大綱(12/13)

 2009年度の与党税制改正大綱は住宅ローン減税の拡大や証券優遇税制の延長など、国・地方で約1兆円(平年度ベース)の減税となった。景気悪化に一定の配慮はしたものの、一貫性のない政策減税の寄せ集めでは経済の浮揚には力不足である。中期の課題である消費税や法人税の抜本改革も踏み込めず、麻生政権の求心力低下を映した。

 来年度も日本経済の停滞は濃厚で法人税などの大幅な落ち込みは必至だ。税収が減り、民間部門におカネが残ること自体が景気下降を抑える効果はあるが、税制面で経済を活性化することも必要だ。

 政策減税の目玉は住宅ローン減税で、耐久性が高い「長期優良住宅」に入居した場合、10年間で過去最大の600万円まで税額控除を認める。省エネ改修の工事費は一部を所得控除する。土地売買にかかる税も軽くする。証券税制では上場株式の譲渡益などに対する10%(本則20%)の軽減税率を3年延長する。

 中小企業の800万円以下の所得に対する法人税の軽減税率を2年間、22%から18%に引き下げ、欠損金に対する繰り戻し還付も認める。環境対応車については買った時の自動車重量税などを軽減する。

 個々に効果はあるが、新エネルギーの導入促進や新しい産業分野の支援など、もっと戦略的で将来の需要拡大につながる税制優遇を打ち出すべきだった。利子や配当、株譲渡益などの損益を通算できる金融所得一体課税の導入も遠のいた。個人金融資産の有効活用につながる改革だけに、先延ばしは不満である。

 与党税調には膨れる社会保障費の財源確保や財政健全化をにらんだ中期の税制改革についても道筋を示すことが求められたが、税制大綱の内容は不十分というほかない。

 消費税率の引き上げ時期では麻生太郎首相が「3年後」と明記するよう求めたが、衆院選で不利になるとする公明党の抵抗で「経済状況の好転後に速やかに実施」などと、あいまいな表現に終わった。首相は12日の記者会見で、経済情勢をみたうえで「11年度から税制抜本改革をしたい」と改めて明言したものの、指導力の低下を印象づけた。

 法人実効税率引き下げも言及したが、事実上消費税上げとセットで、実施が遠のきかねない。日本への立地を敬遠する動きが懸念される。

 私たちは健康問題や税収確保の観点でたばこ税の増税が必要だと考える。社会保障の歳出抑制を巡る数字合わせの議論に終始し、与党が来年度の増税を見送ったのは残念だ。

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