麻生太郎首相がまた、自ら記者会見し、緊急経済対策の指示を発表した。「生活防衛のための緊急対策」である。10月末に決定した追加経済対策(「生活対策」)や与党が今月初めに決めた雇用対策を着実に実現することが最大の狙いだ。
これに加えて、「経済緊急対応予備費」や金融面での対応も盛り込んだ。貸し渋り対策はこの日、衆院で再可決された金融機能強化法の活用や、政策金融の危機対応業務が中心だ。
この時期に、生活防衛対策を関係閣僚に指示したのは、政治的には、第2次補正予算案を今臨時国会に提出しなかったことへの批判が予想以上に強かったことや、その延長線上での内閣支持率の急速な低下への対応がある。
それ以上に大きいのは、景気悪化を示す経済指標が相次いでいるからだ。生産を中心とした企業部門の低迷に加えて、雇用が目に見えて劣化している。これでは、家計が自己防衛に走るのも無理はない。
では、この日指示した対策は生活防衛に資する内容なのか。「大胆な政策で景気の回復を図る」と、麻生首相は言うものの、期待はできそうにない。
景気の現状認識が的確ではない。米国発の景気後退という側面はあるものの、家計を中心に内需不足であることが主因だ。政府・与党でもようやく、生活や雇用が最重要課題であるとの認識が高まりつつあるものの、まだ、企業部門が元気になれば家計にも恩恵が及び、消費は回復するという幻想にとらわれている。
国民の評価が高くない定額給付金が生活対策の柱では、首をかしげざるを得ない。雇用対策でも派遣止めや新卒採用の内定取り消しなどにみられるように、政府の施策が効果を上げているとは判断できない。
実効性をあげるのであれば、定額給付金を抜本的な雇用対策につぎ込むなど、発想の転換が必要だ。また、生活防衛対策の財政規模はこれまでに決定されている分を含めて、08年度補正、09年度当初予算あわせて10兆円と見込んでいる。これで十分とはいえまい。
麻生首相は依然、3年後からの消費税引き上げにこだわっている。それならば、なおさらのこと、景気を良くし国民生活の安定を図らなければならない。
また、新提案の「経済緊急対応予備費」1兆円のみならず、雇用対策の8500億円、地方交付税増額の1兆円は、まだ、財源手当てのめどが立っていない。これは責任ある政治とは言えない。
危機が深まる中、経済対策が必要なことは間違いない。ただ、この内容、規模では力不足だ。施策が体系化されてもいない。国会が実質的に閉幕した日をとらえて、泥縄式にまとめ発表した対策では、国民の生活は良くならない。経済政策の体をなしていない。
毎日新聞 2008年12月13日 東京朝刊