被爆者たちが悲願としてきた核兵器廃絶へ向けた新たな動きが出ている。世界の政治や経済、軍事などの有識者が核廃絶を訴える世界規模の運動「グローバルゼロ」の創設会議をパリで開き、機運を盛り上げていくことになった。
グローバルゼロ運動の発起人には、カーター元米大統領やゴルバチョフ元ソ連大統領、日本の川口順子元外相らが名を連ねた。会議では、米国とロシアの核軍縮や軍縮検証の在り方のほか、国際世論喚起の方策などについて話し合われた。
参加者たちは、核廃棄の実行期限を設定したうえで、検証可能な形で段階的に核軍縮を進め、完全廃棄の合意を達成したいとする行動計画に合意し、百人が署名した。今後は、世界各地で核廃絶を訴えるイベントを開き、二〇一〇年一月に「グローバルゼロ世界サミット」を開催する方針だ。
国際社会で核兵器の脅威は高まっている。北朝鮮やイランは、超大国米国に対抗しようと核を振り回す。ブッシュ米政権は、核の優位を守ろうと使える小型核兵器の開発を進めた。
衝撃だったのは、核兵器を保有するインドで同時テロが起きたことだ。標的となったムンバイには核兵器工場など核施設が集中している。武装集団に襲われたホテルなどから車で約一時間と近く、自動小銃や各種爆発物など特殊部隊並みの装備をしていた武装集団が施設に侵入していたら大変なことになっていた。地元の警察幹部は「国全体が人質に取られるところだった」と語っている。
同時テロをめぐり、インドは隣国パキスタンの関与を疑い、両国の関係は悪化している。パキスタンも核兵器を保有する。印パ関係が不安定になれば、核の深刻さが増す。
明るい材料もある。グローバルゼロが二十一カ国で行った世論調査によると、核完全廃棄への支持はフランス86%、中国83%、英国81%、米国77%、ロシア69%と、五大核保有国とも高かった。今年の国連総会本会議は、核兵器廃絶に向けた決意を新たにするとうたった日本提出の決議案に百七十三カ国が賛成して採択した。採択は十五年連続で、過去最多の賛成を集めた。オバマ次期米大統領は、核軍縮問題に積極的に取り組む姿勢を示している。
核兵器に対する危機感が背景にあるのだろう。連携を強めて反核運動を展開していきたい。唯一の被爆国日本は先頭に立つ気概が必要だ。
自民、公明両党の幹事長らは、基礎年金の国庫負担割合を来年四月から二分の一に引き上げ、「霞が関の埋蔵金」といわれる財政投融資特別会計の積立金で二年分の財源を手当てする政府の方針を基本的に了承した。
基礎年金の国庫負担をめぐっては、二〇〇四年度の年金改革で〇九年度までに三分の一から段階的に二分の一へ引き上げることが決まっていた。国庫負担の引き上げが遅れると、年金財政の計算が狂い、将来の年金給付水準が低下する恐れがある。そうなると、年金への不信が一段と高まりかねない。
財源と想定していた消費税率引き上げのめどが立たない中、埋蔵金でつなぐことになった。必要な財源は、今国会に提出している本年度の基礎年金国庫負担を増額するための国民年金法等改正案を政府、与党が廃案とする方針を固めたことから、従来見積もられていた約二兆三千億円を上回り、二兆五千億円近くになるようだ。
埋蔵金とは、特別会計の積立金などのことで、将来の年金給付や保険金の支払い、金利や為替相場の変動リスクへの対応などのために蓄積されたものだ。二兆円の定額給付金や新雇用対策の財源としても検討されている。景気後退で大幅な税収減が見込まれる中、財源の埋蔵金頼みが広がっている。
しかし、財政投融資特別会計の場合、国債の返済に充てるのが原則であり、〇八年度予算では九兆八千億円が活用された。一般の政策に使うことは赤字国債を発行することと同じという指摘もある。また、埋蔵金は一度使えばなくなってしまう。社会保障など膨らむ一方の財政需要を賄えるわけではない。埋蔵金は打ち出の小づちではないことを、あらためて肝に銘じるべきだ。
(2008年12月12日掲載)