国籍法改正にかんする与太話にかかわるのは、時間のムダなんで、あんまりインターネットの記事もみないんですけど(ただ、この騒動が終わったら、あとひとつ、認知した父と実子と親子関係は、実は常にDNA鑑定どおりには決められないことを、わたしの体験した事件を題材に書くつもりです。)、わたしのブクマをお気に入りにしていただいている李怜香さん(わたしのブクマ、わけのわからないネタばかりでゴメンナサイ)のニュースクリップで経由で、こんな記事をみつけました。
これみて、うちの会社で、「国籍法が人身売買と関係あるらしいぜ」っていったら、スタッフ一同、爆笑。わたしたちだけで笑いを独占するのは、よくないので、ちょっとだけ書きます。
●
まず15歳以上の人身売買編。
いちおう、この問題に関する経験をおはなしすると、私と私のスタッフは、人身売買といわれる事件を、たくさんあつかってきました。
正確に数えたことはありませんが、日弁連でこの問題に関するレポートを書くことになった際に、1999年から2004年までの事件数をカウントしたところ、コロンビア人だけで42人。具体的に手続に進むに際しては、ひとりあたり7〜8時間はかけて聞き取りをしてるんで、当事者の身の上話を、トータルでどのぐらい聞いてきたことになるんでしょうかね。まあ、最近は激減しましたけど。
もちろん、いきがかり上、業者の連中も知っています。2003年6月にボゴタで逮捕されて、現地で大々的に報道された元締めの女性がいるのですが、彼女は元人身売買の被害者だったので、そのころは、私も相談を受けていました。
ところで、観光ビザで女を入れるケースは山ほどみていますが、認知を利用した人身売買って、正直、みたことも、きいたこともないです。
あたりまえでしょ。だって業者が女におしつける「借金」は400〜600万円、業者の管理下にある女の場合はかせぎが50万円前後、10万円程度が生活費でさしひかれ、したがって返済にかかる期間は順調にいって10ヶ月〜1年程度(女を売春婦としてはたらかせるにはおのずと期限があるので、だいたいどれもこんなかんじになる。)、そこからあとはポイ捨てなのに、わざわざ認知を戸籍に記載して、足がつくようなマネするバカいるわけないじゃん。
そもそも、どの業者も、上陸と同時に旅券や身分証明書を取りあげて、マニージャ(manilla=スペイン語で「手錠」、転じてその筋のスラングで「監視役」)つけてがんじがらめに管理しているのに、なんで国籍法が改正されたら法務局に出頭して女に日本国籍を取らせたがるようになるんですかね。ヘタすればその場でさわがれてつかまるし、運よく国籍がとれたらその女、逃げちゃうじゃないですか(笑)。
●
次に幼児売買編。
こっちは実際の事件は知りませんが、田中康夫(ゴメン、オレこの人に敬称つけられないわ)がスゴークおかしなこといってるのはわかります。
田中康夫いわく「罪無き子供を奈落の底へと突き落とす蓋然性が極めて高い。当初から偽装認知奨励法にほかならぬと懸念されていた本法案は、人身売買促進法、ないしは小児性愛、ペドフィリアと呼ばれますが、小児性愛黙認法と呼び得る危険性をはらんでいると思います」。
父から認知された非嫡出子に国籍を認める、その際にDNA鑑定を義務づけない、なんて血統主義を取る国ではどこでも採用している法制度をつかまえて「人身売買促進法」だの「小児性愛黙認法」がどうのなんて珍説、そもそもまともに相手にするのか迷うところですし(こんな説を国会議員が語っているなんて外国に知れたら、みっともなさは“waiwai”どころじゃないぞ!)、入国管理のいろはも知らない、というより社会人としての常識もないひとの発言から、どういう事態を想定しているのかを予想するのは、実はプロにとってはかなり難しい作業なのですが、気を取り直しましょう。
要するに、他の国では問題なくても、日本人はおかしな奴が多いから、小児性愛者が、幼児を性的に搾取する目的で認知して、日本に連れてくる、あるいはそういう小児性愛者のために、業者かその関係者が認知して、日本に連れてくるっていいたいの?
でもですね、タナカセンセイ、いままでだって認知された子は日本人の子として在留資格「日本人の配偶者等」でちゃんと日本に上陸できるわけですよ。で、性的搾取をする目的でわざわざ認知をして、日本に幼児を連れてきたなんてニュース(実話ナントかはダメよ)、1件でもきいたことあります?
あるわけないです。子どものホームレスもおらず、義務教育就学率ほぼ100%の日本で、性的搾取の目的で外国人の子どもを上陸させるなんていうのは、あまりにも危険すぎるからです。
百歩ゆずって、そういうことするチャレンジャーがいたとします。では、性的搾取の目的で子どもを上陸させるとして、観光ビザ、偽日系人(三世か四世)、偽養子、ほんものの養子などいろいろあるのに、なんで日本人の実子として戸籍を作成させるなんていうもっとも犯人が特定される危険の高い方法を選ぶのですか? そうした子どもについて、外国人登録をしないで所在もわからないように隔離できるのに、なんで国籍とらせて住民票基本台帳に記載させて役所から就学通知書や予防接種の通知が来るようにしたいのですか?
性的搾取の目的で認知して連れてくるなんてひとはまずいないです。ましてや偽認知で戸籍までつくろうなんてひと、想像もできません。だからこそ、そういう最低なことしたい人は、東南アジアなどの発展途上国に買春しにいったりするのです。
●
macskaさんはがおっしゃるとおり、田中康夫は、およそ非現実的な子どもの権利侵害を口実に、いま既に起きている子どもたちの権利侵害の解消を後回しにしようとしているに過ぎません。
この人の政治活動に、わたしはまったく興味がないので、彼がリベラルかどうかはわかりません。ただ、ほんとうは人身売買のことなんてどうでもいいくせに(だって、賢明な皆さんがご存知のとおり、人身売買には貧困、経済格差、女性差別などの社会問題や、他の法制度のほうがよほど関係があるんだもん。そう、人身売買を防止するなら、幼児と女性の観光ビザを全面的に禁止するのがもっとも効果的です。)ことさらに国籍法改正案を中傷して、ああいう手合いの擁護をするっていうのも、リベラルとしてありなんですかねぇ。
●
Erick Escobar y la desicion vallenata “ No pude quitarte las espinas ”
最初から、報われない恋だとわかっていた
君は僕を風の中に取り残し、僕はため息をついて立ち尽くす
そして心の中で叫ぶんだ 本当に君が好きだったって
何て悲しいんだろう 僕は君のとげを抜くことができなかったんだ・・・
“ブエノス・ディアス、ニッポン”「夢と手錠 - あるコロンビア人少女の物語」より。
|