派遣など非正規労働者の削減が進んでいる。厚生労働省によれば、来年3月までに約3万人が失職する見込みだという。非正規労働者はすでに全体の3分の1を占めており、今後はより大きな削減圧力が加わってくることだろう。
先日のテレビ討論番組で、このテーマが取り上げられていた。経営者や学者は、非正規就業を望む労働者も多く、その増加はグローバル化に伴う時代の流れであると強調していた。一方、労働側やNPO側は、非正規労働者が貧困と隣り合わせであり、その増大に歯止めをかけることが必要であると主張していた。
両者の議論は最後までかみ合わなかったが、筆者には肝心な議論が抜けていると感じられた。それは、非正規労働者がこんなにたくさんいることが、日本の経済社会にとって望ましいかという問題である。
少子高齢化に伴い労働人口が減少する中で、非正規比率の上昇が、日本から技術力やアイデア創出力を奪うことにはならないか。欧州では、非正規の増大とともに生産性上昇率が低下したという。その背景には、長期的視点に立った職業教育や、スキルの蓄積が困難になったという事情があるようだ。日本もそうなる懸念はないか。また、非正規の高齢化に伴い、彼らの生活基盤は急速に脆弱(ぜいじゃく)化し社会の不安定化も進むが、それが日本の経済社会の基盤を損ねないか。
企業にとって、低い変動コストである非正規労働者を増やすことは、財務的には正しい選択かもしれない。柔軟な働き方を求める労働者が存在することも事実である。しかし日本全体としてみれば、非正規労働の増大こそが正しい解であるとは、到底思えない。(山人)