魚の漁理
県民と漁業者が一丸で守るハタハタ文化
第22回水の文化楽習実践取材 禁漁で資源を回復
ハタハタは秋田の宝
ハタハタは、昔から捕れましたから秋田県人に非常に馴染みがあるんで、禁漁にまで踏み切れました。ほかの魚でも、右肩下がりでハタハタと同じように急激に減った魚もありますが、なかなかそこまではできません。
それは先程も言ったように、豊富な栄養分を含んだ水が山から下りてこなくなった、ということが原因ではないかなあ、と私は思っているんです。また、藻場がなくなった。それはコンクリート護岸にも原因があると思うのですが、それは我々が国にお願いをして、つくってもらってきたという経緯がありますから、自分たちが頼んでつくってもらったものの、果たしてこれで良かったのかどうかと反省するところが多々あります。
生活排水は流れ込む、藻場は磯焼け状態になっている、そういう悪循環の中で、我々の生産物であるハタハタが減少してきたということは、現実に目に見えることなんです。
今、顧みますと、さまざまな反省はありますけれど、当時はそれを良しとしてお願いしてきた経緯があります。先人のやったことを否定するということは、これはなかなか難しいことでもあります。ただ、まあ、現実はきちっと見据えていかないといけない、とは私は考えています。
とにかく秋田県民にとって特別な存在であるハタハタだけは、絶やしてはいけないという一念でやってきました。
1991年には、71tしか捕れませんでしたから、みなさんに行き渡らないわけです。絶対数がないんです。料理屋さんとか、商売の人は大量に買いつけてストックしておかなくてはならない。だから一般の人が食べるには数が足りない。県民のみなさんも食べたいんですよ。だから3年間の禁漁期間は、県民も一体となって応援してくれたと、感謝しています。
やはりこれは、県民の応援なくしては、3年間もの禁漁はできませんでした。
「資源量を回復させて、みんなに食べてもらえるように禁漁します」
ということは、あらゆる会議などで機会があるごとにアピールしました。NHKも取材に来ましたが、こういう狭いところですから地方局が会議室の中に入って、その日の夕方にはテレビで放映する、と情報をガラス張りにしていったんです。そのために「ああ、漁業者が頑張っているんだな」と理解してもらうことができました。
近県3県に全長制限を要請
始めるにあたっては、最初から「3年間の禁漁」と決めていました。そして3年後に禁漁を解くときの条件も、あらかじめ決めておきました。
それは「総資源量の半分は捕りましょう」という取り決めです。この取り決めは1995年(平成7)に解禁になってから、今も13年間守っていることです。
ハタハタ漁は、沿岸では定置網、沖合では底引き船が主です。沿岸では刺し網量も多少行なわれています。
総資源量の半分という漁獲枠の配分も、沿岸と沖合で決めてあるんですよ。沿岸で6、沖合で4です。
決めた漁獲枠は、各船で割り振ります。それに達したら捕るのをやめます。それはきちっと守られています。ですから、ハタハタの場合は、漁獲量のデータも資源量のデータも正確な数ですし、決めたこともきちんと守られています。
私の船にも割当があります。大漁のときには、1回でその年の割当量に達してしまうときもあるんです。そして、そういうときには当然みんなはルールを守って捕るのをやめるんですよ。
そして捕ってもいいハタハタの大きさも15cm以上と決めています。15cm以下の魚は捕らないように、網の大きさにも制限を設けています。ハタハタは2歳魚から産卵を始めます。2歳魚で15cmぐらい。寿命はそんなに長くなく、4歳ぐらいといわれています。4歳魚だと、22〜23cmにもなります。
この全長制限は、秋田県の漁業者はもちろんのこと、隣の山形県、新潟県、青森県にも禁漁を始めるときに協力要請をして、きちっと調印をしてもらって、今でも守られています。
魚は秋田県だけにいるわけではないので、他県に対しても働きかけて活動しているところです。
ただ、秋田県が禁漁している間も、他県では捕っていたんです。これは当然のことでしょう。ハタハタが捕れなくなって以降、非常な高値で取引きされていましたから。しかも、他県ではあまり珍重されない魚なんです。だから秋田に持ってくれば高く売れる。当時は1匹、1000円とか2000円以上したんです。
組合員にとっては、つらいです。他所の船に魚を捕られるというのは、漁師にとって一番悔しいところですから。
ハタハタが北上
実は、解禁になった現在も、その問題は続いているんです。
ハタハタは12月になると、産卵所である秋田の沿岸に接岸してきます。
ハタハタの生育条件として、海水温度が9度が適温なんです。富山でも12月初めに雷が鳴るとブリがくる、というのがあるでしょう。秋田でも雷が鳴るとくるんですよ。例年は、その時期に県沿岸で海水温が9度になっていたんです。
これは私の実感ですが、ここにも温暖化の影響が見え隠れしています。つまり、ハタハタの産卵場所が北上してきているんです。
今までは、青森の北側の沿岸にハタハタが大量に接岸するということはなかったのに、ここ4、5年ものすごい量が青森に接岸するようになっています。北に移動しているんです。
それで先程言いました3県協定でも「15cm以下は捕りませんよ」という取り決めしか結んでいないわけです。
ところが温暖化で北上した先の青森では漁獲量に制約がないもんですから、どんどん捕る。それが秋田県に逆流してきますから、組合員としては非常につらいところなんです。そういう不平不満が「執行部、何やってんだ」という声となって、我々のところに押し寄せてくるわけです。
ハタハタの流通のことをご説明すると、組合員の捕ってきたものは我々の市場で競りにかけられます。最盛期の北浦の市場なんかは、ハタハタの箱がそれこそ何千箱と積み上げられ、それは壮観ですよ。それとこれは仲買の抵抗があるんですが、生産者と消費者を直結して直販もやっています。ものすごい数のお客さんですよ。
他県で捕れたものは、中央市場に出ます。その量が無視できないほどになっているので、ハタハタの価格の下落が問題になっています。
我々では「総資源量の半分捕りましょう」と言っているわけですね。ところが他県からも入ってくるんですから、組合員が不満に思うのも無理はありません。そこに私としてもジレンマがあるし、なんとかしないといけないと思っているところです。
本当はMSC認証のように、ちゃんと資源管理されたハタハタ以外は市場に入れないようにするとかの手段がとれればいいんですが、やはり商売ですからそこまでやるのは難しいですね。
MSC:
The Marine Stewardship Council(海洋管理協議会)が定めた漁業認証。「持続可能な漁業のための原則と基準」に基づき、第三者の認証機関によって認証される。その水産物には認証マークが与えられる。本部はイギリス。
産地表示は当然義務づけられているから、秋田のものかどうかははっきりしているんですが、例えば片や1匹100円、片や50円という話になると、やはり安いほうに手が伸びるんじゃないでしょうか。
ですから、メディアに取り上げられることによって、側面から支援してもらえたらいいなあ、と思っているんです。
我々は藻場の造成を始め、ハタハタ資源を増やすために、コストを掛けています。だから、多少高くなるのはやむを得ない。そこら辺のところが消費者にうまく伝われば、理解してもらえると思うんですがねえ。
しかしやはり人間というのは、高いよりも安いほうがいい、と思ってしまうものだから。なかなか難しいところですが、我々が努力しているということだけは、県民のみなさんにも理解してもらいたいです。