しらかば帳

文字サイズ変更
ブックマーク
Yahoo!ブックマークに登録
はてなブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷
印刷

一年を振り返って 世論に流されない /長野

 「お久しぶりです」。松本サリン事件被害者、河野義行さん(58)の妻澄子さんが亡くなって4カ月。以前と変わらない声が受話器から聞こえてきた。以前、ゆっくり話そうと食事に誘ってもらったこともあったが、最近は忙しさにかまけて連絡を取っていなかっただけに、声を聞けてうれしくなった。

 「妻はやっと自由に動けるようになった」

 義行さんは澄子さんが亡くなった日、静かにこう語った。外出好きだったという澄子さん。今ごろは旅行やショッピングを楽しんでいるかもしれない。

 義行さんも負けじと、年に約100回も講演に呼ばれ、全国行脚の日々だ。訴えたいのは「自分が正しいと考える行動を取ってほしい」ということ。相手の意見に耳を傾け、世論にのみ込まれない強い意志が大切という。

 義行さんは元オウム真理教信者の男性と交流を続けている。「根っからの悪い人はいない」。刑期を終えた元信者は月に一度、義行さん宅の庭木の剪定(せんてい)や庭掃除に汗を流し、夜は手作り料理で杯を交わす間柄だ。

 今月始まった刑事裁判被害者参加制度。義行さんは「推定無罪が前提だが、被害者は『犯人だ』と感情的になる。そうなったら怖い」と言う。

 世論や感情に流されず、相手の話を聞く大切さを、義行さんは体現してくれていると感じる。信念に基づき伝えたいことを追いかけ、謙虚に耳を傾ける。そんな記者になりたい。【渡辺諒】

毎日新聞 2008年12月11日 地方版

 
郷土料理百選

特集企画

おすすめ情報