ロンドン(CNN) 英衛星放送スカイ・リアル・ライブズは10日、難病の運動ニューロン疾患(MND)を患った英国在住の米国人で元大学教授のクレイグ・エワート氏(当時59歳)が、2006年にほう助自殺する様子を記録したドキュメンタリーを放送した。
このドキュメンタリー「Right to Die: The Suicide Tourist」(死ぬ権利・自殺する旅人)は、エワート氏が妻とともにスイスのクリニックに来院してから他界するまでの4日間の記録。手足が動かなくなり、人工呼吸器を着けている同氏は、スイスのチューリッヒ市内のアパートでクリニックが用意した致死量の薬物を服用し、妻メアリーさんに看取られながら静かに息を引き取る。
メアリーさんは英朝刊高級紙インディペンデントに対し、不治の病に苦しみながら死ぬ必要がないことを示すため、夫が一部始終の撮影を希望したと述べた。
ドキュメンタリー放送は論議を呼び、英国各紙は一面でこの話題を伝えた。朝刊大衆紙ミラーには「安楽死についての洞察か、視聴率狙いの皮肉な試みか」の大見出しが躍った。
製作会社ポイント・グレイ・ピクチャーズは自社ウェブサイトで、ドキュメンタリーがほう助自殺する患者とその家族の困難な選択について探る内容だと述べた。監督は米アカデミー長編ドキュメンタリー映画賞の受賞歴を持つジョン・ザリツキー氏で、家族の許可を得たうえでクリニックでの撮影を敢行。メアリーさんはドキュメンタリーに満足しているという。
ほう助自殺反対団体の関係者は「他人の死をのぞき趣味のリアリティー番組におとしめている」と批判し、ドキュメンタリーが安楽死を奨励する可能性に懸念を表明した。身体障害者の人権保護を掲げる団体も、ごく一握りの事例をメディアが大きく取り上げると、ほう助自殺の需要が拡大しているとの誤った印象を与えると指摘。むしろ末期患者のための苦痛緩和医療を重視するべきだとの見解を示した。
英国では自殺ほう助が違法行為とされ、有罪判決を受けた場合は最大14年の実刑となる。ただしほう助がどの段階から始まるかについて法律規定はなく、このところの裁判で明確化を求める動きがみられる。一方スイスの法律には、個人的利益を目的に自殺ほう助をしてはならないとの規定のみが設けられている。