2008年12月09日 (火)アジアを読む 「中国新疆ウイグル自治区取材報告」

(冒頭VTR)
中国の国土のおよそ6分の1を占める新疆ウイグル自治区。豊富な資源に恵まれ、油田の開発や企業の進出が進むなど目覚ましい経済発展を遂げています。その一方で、中国からの独立を目指す過激なグループによるテロ事件が頻発。現地では緊張が続いています。

【新疆ウイグル自治区 王楽泉書記の話】
「周辺の状況から考えると、こういうテロ事件は今後も長い間 起こりうる」

事件の背景には何があるのか?また、中国政府の対応は?ウイグル自治区の最高指導者へのインタビューと、現地での取材を通して、中国がかかえる民族問題をひも解きます。


「新疆ウイグル自治区 相次ぐテロ事件と中国の民族問題」

(岩淵キャスターQ1)
新疆ウイグル自治区といえば、シルクロードのイメージが強いのですが、どのような場所なのでしょうか?

(加藤解説委員A1)

【地図中国】
中国の西端にあり、面積が165万平方キロメートルと中国全体の6分の1もある広い地域です。


【新疆ウイグル自治区地図】
パキスタンやアフガニスタンなど8つの国と国境で接しています。ただ、中央を横切る天山山脈を挟んで、南側には、広大なタクラマカン砂漠が広がるなど、全体の3分の2が砂漠です。このため人口は少なく、全国の60分の1、2000万人あまりしかいません。

【バザールの市場風景】

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その人口の60%が少数民族です。一番多いウイグル族は、およそ850万人。その他、カザフ族140万人、回族80万人など数多くの少数民族が生活しています。
一方、漢民族の住民は、およそ830万人と、ウイグル族に次いで多いのですが、現地に駐留している人民解放軍の兵士なども含めれば、最も多いのではないかともいわれています。

(岩淵Q2)
今回、加藤さんは新疆ウイグル自治区に行ってきたのですね。

(加藤A2)
はい、今回の取材では、新疆ウイグル自治区のナンバーワンの立場にある中国共産党政治局員の王楽泉書記にインタビューできました。

【王楽泉書記】
中国では、少数民族の自治区政府のトップは少数民族から選ばれていますが、それを指導する立場にある自治区の共産党書記には、中央政府の意向を反映する王楽泉さんのような漢民族が選ばれることが普通です。長年、新疆ウイグル自治区で、経済開発やテロ取締りなど、中心的な役割を果たしてきた王楽泉書記は、私達の取材に対して、まず、自治区の発展ぶりを強調しました。

【王楽泉書記の話】
「新疆は2000年から毎年2けた成長を続けてきました。生産レベルが低い地域でも都市建設が進み、道路、鉄道、電気、水道などインフラが整備されてきています。これは政府がこうした地域に、積極的な支援政策をとってきたからです。今では、とりあえず基本的な衣食住を確保できるようになりました」

(加藤)
新疆ウイグル自治区は、石油などの地下資源が豊富で、中国にとって欠かせない場所です。
そのため中央政府の指導の下でインフラの整備などに、大きな力が注がれてきたといえます。

(岩淵Q3)
新疆ウイグル自治区では、北京オリンピックの開幕式と相前後して、テロ事件が頻発しましたが、独立運動がくすぶっているということなのでしょうか。

(加藤A3)
そうですね。王楽泉書記の話によりますと、新疆ウイグル自治区では、北京オリンピックが開幕した8月8日に相前後して、テロ事件が次々に発生しました。

【テロ事件の映像】
▼まずオリンピック開幕直前の2日、カシュガルで武装警察の隊員がジョギングしている列に、爆薬を積んだトラックが突っ込み、16人が死亡、16人がケガをしました。

【テロ事件が起きた場所】
▼オリンピック開幕直後には、クチャで、市内各地に水道管を改造した爆発物が120個仕掛けられこのうち50個が爆発する事件がありました。幸いけが人はなかったということです。
▼そのクチャでは、さらにガスボンベを積んだ電動三輪車が警察署に突入し、自爆する事件がありました。この事件では、政府側の銃撃を受けたテロリスト8人が死亡、1人が逮捕されたということです。
▼12日には、カシュガルでも、警戒にあたっていた民兵をテロリストが襲撃し、3人を殺害する事件も発生しました。犯人グループはその場を逃走したのですが、およそ3週間後に地元警察が、トウモロコシ畑に隠れている容疑者グループを発見して包囲し、6人を射殺、3人を逮捕したということです。

【王楽泉書記の話】

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「テロに関わった連中は、以前、アフガニスタンとパキスタンの国境地域で活動していました。アフガン戦争の前は、アフガニスタンのタリバンに所属し訓練を受けていたといいます。彼らはことし44人のメンバーを、新疆に送り込む計画でした。我々は、これまで33人を逮捕しましたが、まだ11人は潜入していないようです。潜伏に成功したメンバーは、新疆ウイグル自治区で、組織を拡大すると見られています。周辺地域の状況から見て、過激派のテロ活動は、今後も長期に渡って存在するでしょう」

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(岩淵Q4)
過激なグループの活動は、新疆ウイグル自治区に住む多くの少数民族の支持をえられているのでしょうか。

(加藤A4)
王楽泉書記は、過激なグループは、少数派であり、中国から分離独立することは、大多数の人々からは支持されていないとしています。ただ、こうした過激なグループが、いまも自治区の中で暗躍できる背景には、少数民族地域がかかえる複雑な事情があるといえます。

【1950年台当初】
新疆ウイグル自治区は、もともと砂漠の中にオアシスが点々と存在し、そこで少数民族が暮らすのどかな土地でした。しかし、近代に入り、漢民族が多数移り住むようになったのです。
特に、新中国建国後の1950年代から、軍隊組織のような開拓団、「生産建設兵団」が組織され、新疆ウイグル自治区各地に入植して農地の開墾を行いました。

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【新疆を開拓する歴史の写真、武器など】
実は、当時の模様を紹介する博物館がありまして、私も実際に見てきました。
いろいろなものが陳列されていまして、これは、当時のスローガンを示した布。
「残留暴徒を粛清し、 社会主義建設に励もう」と書かれています。「暴徒」制圧に使われた銃などの武器も展示されていました。これまでに作られた兵団の数は、14師団。
当初は、農地の開墾などの生産活動を行うと同時に、その地域の警備を行うという屯田兵のような役割を果たしてきました。

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【王楽泉書記の話】
「当初は、新疆で暴動があったため、共産党解放軍を10万人投入しました。人口が少なかったため、その後、地域の建設に当てる目的でー兵士たちをそのまま現地に残留させ、生産建設兵団として駐留させたのです」

(加藤)
現在「兵団」には軍隊の色彩はほとんどなくなり、傘下に175の工場や農場、そして1400あまりの国有企業を配する、一大経済集団のような役割をになっています。

【自治区最大の兵団の町「石河子」の市内】

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こちらは、新疆ウイグル自治区最大の兵団都市、石河子ですが、少数民族の地域と思えない、まさに漢民族の都市そのものでした。このような、いわゆる入植地が新疆ウイグル自治区の要所、要所に点在し、新疆ウイグル自治区の経済発展の中心になってきたのです。
兵団による経済活動が、豊かな富を生み出す一方で、昔ながらの放牧などを営んできた少数民族との間には、経済的に大きな格差が出来てしまいました。貧しい暮らしを続けている少数民族の中には、漢民族による経済支配への反発が根強いという見方もあります。

(岩淵Q5)
民族の間の摩擦や、テロなど難しい問題を抱えているのに、どうして中央政府は、新疆ウイグル自治区をそこまで重視するのでしょうか。

(加藤A5)
新疆ウイグル自治区は、やはり国土の6分の1という広大な地域ですし、何より豊富な地下資源が眠っています。中国が今後、経済成長を続ける上で、手放せない重要な戦略地域であるのです。
もちろん、新疆ウイグル自治区が、経済的に発展すること自体は、よいことではないかと思いますが、その恩恵を、多くの少数民族も享受できる仕組みが必要ではないかと思います。また、漢民族の文化がどんどん広まることで、少数民族の文字や伝統文化が、すみに押しやられるということがあってもまずいでしょう。今後もし、そうした問題がおざなりにされますと、異なる民族同士、なかなか仲よく共存できない。今後も、対立やテロの火種はくすぶり続けるのではないかという印象を受けました。

投稿者:加藤 青延 | 投稿時間:18:03

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