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社説2 「学力トップ水準」は本物か(12/11)

 「学力低下に歯止めがかかった」と文部科学省は評価しているが、本当だろうか。小学校4年生と中学校2年生が算数・数学と理科の問題に挑んだ2007年の国際学力テスト(TIMSS)の結果である。

 たしかに順位では世界トップの水準を維持し、上昇の兆しも見える。しかし授業で見慣れない問題となると大きく劣るし、勉強への意欲も低い。バランスの取れた、深みのある学力を育てなければならない。

 国際教育到達度評価学会(IEA)によるこの調査に、今回は小学生は36、中学生は48の国・地域が参加した。日本は小四が算数、理科ともに4位で、03年の前回調査の3位とほぼ同水準。中二は理科が前回の6位から3位に上がり、数学は5位で横ばいだった。

 前回までの調査では低落傾向が続き、学力低下懸念が噴き出した。今回の成績には、その後、文科省が「ゆとり」路線を修正してきた効果が表れているのかもしれない。

 しかし課題は多い。たとえば小四の問題で、縦と横の長さを記した長方形を示し「まわりの長さ」を尋ねたところ、日本は国際平均を大きく下回った。図を見ただけで面積を問われたと思い込んだようだ。

 これは普段の授業で決まりきったパターンを刷り込まれ、条件反射的に解答を導いているせいだろう。考える力や応用力よりも、問題を機械的に、素早く解く能力を偏重しがちな教育現場の実態を映している。

 調査では学ぶ意欲についても聞いた。「勉強が楽しいか」という問いへの肯定的な答えは、小四の理科を除き国際平均を下回っている。興味を引き出す授業がいかに少ないかを示しているのではないだろうか。

 こうした傾向はすでに他の学力調査でも浮かび上がっている。新しい学習指導要領では主要教科の授業時間数を増やすなど「ゆとり」路線からの転換色が強まるが、肝心なのは量ではなく授業や学習の質だ。

 知識やパターンを詰め込むだけでなく、柔軟な発想で問題を処理する能力をどう育てるか。そのためには文科省による画一的な教育システムを改め、地域や現場にもっと権限と責任を委ねる必要もあろう。調査結果はそんな改革を促してもいる。

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