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NIKKEI NET

社説1 一般財源化に逆行する道路の新交付金(12/11)

 政府・与党が地方の道路整備などに充てる1兆円程度の新たな交付金の創設を決めた。2009年度から道路特定財源を一般財源化する政府のこれまでの方針を事実上、反故(ほご)にする内容だ。

 政府・与党の合意では揮発油税などの暫定税率は維持し、揮発油税の4分の1を自動的に回す「地方道路整備臨時交付金」を廃止する。その一方で設けるのが新交付金だ。暫定税率の維持はいいとしても、これでは看板のかけ替えにすぎない。

 新交付金の名前は「地域活力基盤創造交付金」というらしい。地方経済は疲弊しているから魅力的な響きがするが、その使い道の大半はこれまでと同じく道路に限るので、実際には何も変わらない。

 一般財源化とはお金の使途を限定せず、毎年の予算編成で必要な分野に充てるという意味だ。政府は道路財源の全額を一般財源化する方針だったのだから、地方向けのお金も自治体が自由に使い道を決められないとおかしいのではないか。

 政府は今年5月に特定財源の一般財源化を閣議決定した。道路予算の無駄遣いが明らかになるなかで、暫定税率を復活したことに国民の理解を得るためだった。

 当時、福田康夫前首相は「国民の目線に立って生活者財源にする」と話していた。ならば、まず道路予算を抑制し、環境対策など他の分野に充てる財源をつくることが先だ。

 道路予算の中身も総点検する必要がある。国土交通省が11月下旬にまとめた交通量の新たな将来推計によると、これまで右肩上がりとみていた交通需要が今後減少する見通しになった。需要が伸びないのだから予算を精査し、経済効果が大きい事業に重点化すべきだ。

 経済情勢からみて景気対策が必要としても、通行量が極端に少ない道路をつくるためにお金をばらまいても効果は小さい。同じ公共事業に使うにしても、大都市部の空港整備など優先すべき事業はほかにある。

 この1カ月余り、政府や自民党内では道路財源の地方への配分額やその方法を巡る駆け引きが続いた。「一般財源化に際して地方に1兆円を移す」という麻生太郎首相の発言がきっかけだった。

 新交付金の創設は自民党の道路族の主張に麻生首相が押し切られたことを意味する。首相の発言は二転三転し、わかりづらかった。

 前政権が決めたとはいえ、閣議決定した方針が簡単に骨抜きされる。国民が麻生首相の指導力に厳しい視線を向けるのも無理はない。

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