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佐久総合病院 地域の医療守るために

12月11日(木)

 県厚生連佐久総合病院(佐久市臼田)が病院機能を分割し、救命救急や高度医療部門を市中心部に移す「再構築」が難航している。

 病院側が取得した建設用地について、佐久市が「工業専用地域で、市の土地利用計画に反する」として、用途変更を認めないためだ。

 市は土地利用の問題といい、病院側は医療の問題という。両者の主張はかみ合わない。

 ここで大事なのは、東信地方、そして長野県の医療の姿はどうあるべきか、という視点をしっかり踏まえることだろう。

 佐久総合病院は東信の核となる医療機関である。高度医療や人材育成を担う拠点として、代わる存在がない。再構築が行き詰まれば影響は、東信はおろか県内全域に及ぶ。困るのは患者である。

 もつれた糸をほぐすには、双方の歩み寄りが必要だ。カギを握るのは佐久市である。

 佐久病院には小諸市や北佐久郡、上田小県地方など佐久市以外からも患者が集まる。近年は上田市からの受診が増えている。

 上田市の国立病院機構長野病院がお産の扱いを休止するなど、勤務医不足で各地の中核病院が機能不全に陥るなか、佐久病院は東信の最後の砦(とりで)となっている。

 県の保健医療計画でも重要な位置付けだ。東信で唯一の救命救急センター。周産期医療やがん、エイズ治療の拠点病院でもある。

 医師養成の役割も見逃せない。地方の研修医不足が深刻化するなかで、佐久病院は地域医療の理念と実績にひかれて全国から集まってくる若い医師を、自前で育ててきた。彼らは中山間地の病院で、地域医療を支えている。

 再構築は10年越しの懸案である。建物は狭くて古い。駐車場も不便な河川敷にある。限界が来ているのは明らかだ。

 振り返れば、土地の取得の過程などで病院側に詰めの甘さがあった。手続き論を重視する佐久市の姿勢にも、もっともな面はある。

 ただし、土地利用の制度は、そこに住む人びとが暮らしやすい街をつくるためにある。その区分のために、地域医療に深刻な影響が及ぶようでは本末転倒である。諏訪市の諏訪赤十字病院のように、移転に際して市が用途変更をした先例もある。

 両者がこれまでのわだかまりを捨てるのが出発点だ。県は村井仁知事が仲介役を務め、問題の解決に乗り出している。県民の医療確保の観点からも、知事にはいっそうの努力を期待したい。

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