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医療クライシス:妊婦死亡が問うもの/下 産科救急

 ◇深刻、NICU不足

 体重約1500グラム。細心の注意を払った帝王切開手術が無事終わり、赤ちゃんは元気な産声を上げた。06年8月、青森県立中央病院(青森市)の総合周産期母子医療センター。母親は約1カ月前、肺の動脈に血栓が詰まる肺塞栓(そくせん)症を発症し、約40キロ離れた弘前大病院(弘前市)に救急搬送されて緊急手術を受けたばかりだった。

 弘前大病院は総合周産期センターではなく、NICU(新生児集中治療室)はない。それでも運んだのは、重い脳や心臓の病気の妊婦に対応する病院を決めていたからだ。県立中央病院の佐藤秀平センター長は「母体救命には産科以外の診療科との連携が不可欠」と話す。脳出血になった妊婦の救急搬送を巡る問題が相次いだ東京では、なぜ救急で受け入れなかったのか。

 日本の周産期医療は開業医から総合周産期センターまで、産科の連携で対応する。厚生労働省はセンター指定要件に救急部門設置を求めず、分娩(ぶんべん)に力点を置いてきた。厚労省母子保健課は「産科以外の病気による母体救急はまれ」と説明する。だが、最近の研究で、分娩と関係ない「間接死亡」が妊婦死亡のかなりの割合を占めることが分かってきた。

 国立循環器病センターの池田智明・周産期治療部長らの研究グループは、米国の統計手法に従うと、日本の05年の妊産婦死亡数は84人で、脳出血などの間接死亡が41%に上るとのデータをまとめた。日本産婦人科医会も04年分を分析、間接死亡率を38%と推計した。池田部長は「脳疾患などの母体の救命は、日本の周産期医療ではほとんど注目されず、具体的な対策が少なかった」と指摘する。

 都周産期医療協議会は11月28日、都内9カ所の総合周産期センターのうち3~4カ所を「スーパー総合周産期母子医療センター」(仮称)とし、重症妊婦の搬送をすべて受け入れる方針を決めた。ただ、都の調査では、総合周産期センターが妊婦を受け入れられなかったケースの理由は「NICU満床」が約9割に上り、「スーパー総合」が機能するか懐疑的な声も上がる。

 産科救急が苦境にある大きな原因はNICU不足だが、全国で約1000床足りないとの推計もあり、国が医師数や医療費の抑制策を抜本的に改めない限り劇的な改善は難しい。協議会会長代理の楠田聡・東京女子医大教授は「スーパー総合は、NICUの負担増無しには動かない。根本的な解決はNICUが増えることだが、それまでは今まで同様耐えるしかない」と話す。

 当面は各地の取り組みの知恵を共有し、行政も支援して苦境に対応するしかない。だが綱渡りをいつまでも続けられる保証はない。

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 この連載は、須山勉、清水健二、河内敏康が担当しました。

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 ご意見、ご感想をお寄せください。ファクス(03・3212・0635)、Eメール t.shakaibu@mbx.mainichi.co.jp 〒100-8051 毎日新聞社会部「医療クライシス」係。

毎日新聞 2008年12月11日 東京朝刊

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