十年ほど前、仕事の関係で広島市に住んでいた。取材先との付き合いで、広島らしいなと今でも強く印象に残っていることがある。

　「ちょっとカープを見てから食事でも」とよく誘われた。つまり、プロ野球・広島カープの試合を観戦した後、一杯飲みながら仕事の話をという段取りだ。別に広島ファンではなかったが、対戦相手の巨人や阪神の来広が楽しみだった。

　広島ではプロ野球の試合観戦が日常生活の一部になっていた。「ちょっとカープを見てから…」という軽い言い回しがうらやましかった。プロのスポーツ団体が地元に存在する価値の大きさを痛感した。

　岡山ではサッカーのファジアーノ岡山がアマチュアからプロのＪリーグ２部に昇格し、来季に向けた準備が進んでいる。運営資金などで課題山積だが、岡山出身でファジアーノを率いる木村正明社長の熱意の原点を知って共感した。

　木村社長が野球少年だったころ、広島市で地元チームと試合をした際、負けた相手が「きょうはカープの試合がある」と楽しそうに帰っていったという。それが悔しくて、岡山にもシンボル的存在のプロチームがあれば、と思い続けていたそうだ。

　定着には地域の支援が欠かせない。「ちょっとファジアーノを見てから食事でも」という街にしたいものである。