隔離政策の廃止後も続くハンセン病差別の現状を知ってもらおうと、大津市坂本の天台宗務庁で3日、元患者で仲間たちの人権回復運動に取り組む森元美代治さん(70)の講演を含む公開講座が開かれた。天台宗は今年秋から同問題への取り組みを始め、同様の講座を初めて開いた。
同問題では、96年のらい予防法廃止後も、平均80歳に達する元患者の大半は社会復帰が難しく、今も療養所生活を続けている。人数は法律廃止当時の半分近くの約2700人にまで減ったが、今でも社会に残る根強い差別で、ほとんどの人は亡くなっても故郷の墓に入れないのが現状だ。「檀家の迷惑になる」と、住職が元患者の墓参を断る寺もあるという。
森元さんも故郷の鹿児島県・喜界島の墓には入らないつもりだ。3年前に18歳上の兄が亡くなり、ようやく故郷に帰ることを許された。兄は生前、森元さんが実名を公表して元患者への差別の現状を訴えることについて、「これ以上家族に迷惑をかけるな。親せきが『青酸カリを飲んで死んでくれ』と言ってる」と話したという。あらかじめ親族全体の名前が彫られる実家の墓にも自分の名はない。
森元さんは「私は療養所に納骨された方がいい。差別は終わっていない、これが日本の現実だ」と話した。【稲生陽】
毎日新聞 2008年12月10日 地方版