「学力の低下傾向に歯止めがかかったと考えています」と、文部科学相のコメントは久しぶりに安堵(あんど)感をにじませている。
確かに、小学4年、中学2年を対象にした07年国際数学・理科教育動向調査は、算数・数学、理科の平均得点がわずかながら前回(4年前)以上になり、いずれも参加国中の5位以内に入った。
だが、勉強を楽しんだり、将来の夢に結びつけるような意欲の高さについてはどうだろう。前よりよくなってはいるものの、中学では依然国際レベルに届かない。授業は大体理解はするけれど、あまり心が弾まない--。そんな教室の子供を思うと、点や順位よりこちらの問題がより深刻だ。
調査は、日本の子供たちが小学校から中学へ進むにつれ、勉強嫌いになる傾向を裏づける。「勉強が楽しい」という子供は小4の算数で70%(国際平均80%)だが、中2の数学では40%(同67%)にまで落ちる。
また、「希望の職業に就くために良い成績を取りたい」と思うのは、中2の数学で57%(同82%)、理科で45%(同72%)。数学は前回より10ポイント伸びて改善したが、海外と比べればなお隔たりは大きい。
学校外の時間の使い方を見ると、「宿題をする」「家の手伝いをする」時間は小中いずれも国際平均を下回り、逆に「テレビやビデオを見る」は上回った。
こうした差異の背景には社会の価値観や国情の違いもあるだろう。しかし、高校1年を対象にした06年の経済協力開発機構(OECD)の国際学力テストでも理科学習について「楽しさ」などを調べると参加国中最下位になった。年長になるにつれ意欲低下する傾向は変わらず、それは昨今の大学生の低学力問題にもつながっているはずだ。
学校の努力や取り組みで状況はある程度改まるには違いない。しかし、学習動機や意欲は家庭と社会環境にかかわり、将来の夢や希望が重要な起因となる。家庭や地域の役割と責任の大きさはいうまでもない。
昨年から始まった全国学力テストの市町村や学校の成績公開の是非をめぐり、各地で論議になっている。さまざまな選択があるだろうが、細心の注意と共通認識が必要なのは、数字だけを独り歩きさせる危険だ。
何年生を対象に、何の教科で、どんな内容のテストをし、何の力(学力)を確かめようとしたのか。そうしたことが広く理解されているとは言い難い。すると数字はただ順位をつける手段で、空疎な優劣を焼き付けるだけになりかねない。
子供たちそれぞれの学力については個別の指導が有用であり、テストは本来その補助になるものだ。数値を自己目的化させ、その上下に一喜一憂することはやめ、結果をどう一人一人の指導に結実させるか。そこに立ち戻るべきだ。
毎日新聞 2008年12月10日 東京朝刊