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アスペルガー症候群の特徴と診断


2.アスペルガー症候群の診断

 この項についても、私自身の経験でしかなく、複数の医療機関で診断を受けた訳ではないので、網羅的に診断方法を紹介することはできない。
 私のアスペルガー障害の診断は、ある方からの指摘があって、医療機関に通院した結果、決まったものである。それまでは、自分が障害者であるという意識は全く無く、ただの変わった人だった。ところが、いきなり「障害者」の診断だったので、非常にショックを受けた。診断も大切だが、診断後のフォローはもっと大切である。以下、診断と確定診断について分けて書きたい。

診断:この場合、主な診断材料は幼児期の本人を知る本人以外の人の証言と現在の症状であり、専門医の診断が必要である。まず、生育歴を記載し、専門医に読んでもらうことによって、その障害が先天的なものであるか、後天的なものであるか判断される。参考に、私の成育歴をリンクした。
http://www.geocities.jp/johnhealing/monogatari1.html
 私は国立精神・神経センターの専門の先生によって、生育歴、および2時間の問診によって、「アスペルガー障害」と診断された。
 この診断ができる専門医は、実は多くはない。そのため、診断ができる医療機関も多くはない。地域の児童精神科を併設した総合病院の精神科で受診するか、地域の発達障害支援センターで問い合わせて、病院を紹介していただくか、である。子供の診断については、現在、比較的大きな話題となっているため、取り扱う機関があり、初診まで数か月待てば、診察してもらえるが、大人の診断については、上記の2つの方法か、データとしては不十分ではあるが、各地の自閉症協会に問い合わせるしかない。実は、私が通院した国立精神・神経センターでも大人のフォローは行っていない。児童専門である。ただ、国立精神・神経センターは複数あるので、総てについて知っている訳ではない。次に情報として使えるのが、インターネットである。診察する医療機関を紹介しているサイト(地方自治体が多い)または、掲示板で、メールアドレスを公表して、紹介していただく方法である。
 私もメールで2人の方から、同じ病院を紹介され、確定診断、フォローは、その医療機関で受けている。
 診断は、本人が必要としているか、していないか、によって、決めるのがルールではないかと思う。国立精神・神経センターで診断の前に聞かれたことがある。「あなたは49年間診断無しで生きて来ました。それなりの生きる知恵は身に付けていると思われます。診断が必要ですか。」これに対して、私は、「今後の人生の方針の参考にしたい。障害があるのとないのとでは、生き方(難しく言えば戦術)が違って来る。そのために診断がいただきたい。」と言った。先生は「確かにおっしゃる通りでしょう。診断は、アスペルガーディスオーダーです。診断はラベルを貼ることが目的ではありません。今後、いかに生きて行くか決めるための出発に過ぎません。」と言った。
 もし、本人自身がAQテストで、自分には自閉傾向があるな、と納得するのであれば、診断は必要ない。自閉症スペクトラムというのは、健常者から、グレ−ゾーン、アスペルガー症候群から自閉症、また、型分類によれば、広汎性発達障害、アスペルガータイプ、カナータイプと広い範囲に渡っている、よっぽど生きにくさを感じなければ、診断は必要ないかもしれない。ただ、診断をもらって、現在の生きにくさを軽減したいとおもうならば、診断を経て、フォローを受けた方が人生は好転すると考えられる。

確定診断:診断を受けたならば、それが正しいか検証する必要がある。また、合併症があるか調べることは、有効である。
 多くの例について知っている訳ではないが、確定診断に必要なのは、ウエクスラー成人知能検査と脳波検査である。この他にPET(ポジトロンCT)やfMRI(ファンクションMRI)を用いて大脳の血流を測定して、脳の障害によって、働いていない部分を確認する方法もある。(参考http://www.geocities.jp/johnhealing/brainpage.html)しかし、残念ながら、現代の医療では、脳血流を改善させる方法が分かっていない関係上、これらの方法は確認に留まり、また、費用としても安くはない。
 ウエクスラー成人知能検査は高機能であるか、自閉症であるか、(IQが70以上か以下か)を確認する目的と、下位検査項目として、本人が得意とする項目、不得意とする項目を確認する目的がある。通常、人は生育と共に、さまざまな能力を身につけるが、発達に障害があると、ある項目に低い得点が見られる。この項目の低い得点がそれ以外の得点と差が大きければ、通常、いずれの項目も生育と共に同じレベルで発達するはずであるが、脳に障害他があると、発達しない項目が出てくるので、発達障害と診断される。注意しなければならないのは、自分の本来の姿を調べないと誤診につながるので、間違っても、知能検査の問題を手に入れて練習しては意味が無い。むしろ全く知らない状態で検査を受けることがベストである。
 ウエクスラー成人知能検査は大きく分けて2つのカテゴリーがある。言語性と動作性である。言語性は主に知識や計算能力、言葉について検査するものであり、動作性は、見ることによって判断することができるかという情報判断に係わる項目である。一般に、アスペルガー症候群の場合、言語性が優位で、動作性の空間認識に係わる項目が高得点であると言われているが、必ずしも、医師によって同じ判断がなされているとは言えない。すなわち、ウエクスラー成人知能検査から、アスペルガー症候群の診断、ADHDの診断が直接できるほど、検査自体が密に関連している訳ではなく、まだ、医学が研究段階であり、ウエクスラー成人知能検査と障害の関係は、現在、検討されているところと考えるべきではないかと思う。要するに、診断に対して、ウエクスラー成人知能検査は万能ではないということである。
 次に、脳波検査であるが、検査の結果、脳波が正常であれば、問題ないが、希に脳波の異常が合併している場合がある。栗田先生がJDDネットの講演会で述べられているが(http://www.geocities.jp/johnhealing/JDDNET/jddnet1.html参照)、発達障害者が脳波の異常を合併している場合は往々にしてある症例だそうだ。この場合、アスペルガー症候群のパニックが、障害そのものに由来するものなのか、脳波の異常が手伝っているものなのか、検査結果から分かる場合がある。いろいろなパニックがあり、そのパニックと脳波の関係がどのように係わっているのか、ケースバイケースであり、一概には言えないが、専門医と相談の上、治療の道がある場合は、積極的に治療を行った方が良い。なぜなら、発達障害は治療できないが、脳波については治療薬があり、多くの場合は抗てんかん薬である。例えば、癇癪があるとして、それは、発達障害の場合、パニックと考えられる。脳波がベータ波優位の場合、脳は緊張状態にあるわけだから、薬剤によって、脳の緊張を緩和し、ベータ波を抑制することによって、癇癪が緩和されるという場合がある。見かけ上、パニックが緩和されたように見えるが、実態は、脳波の緩和がパニックの緩和を手伝った結果である。そのため、脳波の治療はこの症例において有効である。
 以上のウエクスラー成人知能検査、脳波検査は、アスペルガー症候群の補助的検査項目と考えた方がいいかもしれない。この2つからは何も決まらないからである。裏付けと考えるべき項目である。捜査であれば、物証というところだろうか。むしろ、コミュニケーションの障害、社会性の障害、想像性の障害(こだわり)の三つ組みの障害があるのか、見極めることが、アスペルガーの診断基準になる。生育歴から、先天的な障害であることが分かり(アスペルガーに後天的なものはない)実際に本人が三つ組みの困難をかかえていれば、それは障害と言える。場合によっては、幼児期に発症したアスペルガー障害が好転して困難を示さない場合があるからである。というのは、発達障害というのは、発達が遅いということであって決して発達しないということではない。だから、現に発達が追いつき、困難を感じていなければ、アスペルガーの確定診断をわざわざ出す必要はない。ただ、広汎性発達障害は予後が良くないとされ、困難を伴わない場合は希である。さらに加えるならば、アスペルガー障害自体は持っているものの、生育過程で蓄積した知識から判断して行動している場合、一見社会性があるように見える場合がある。アスペルガーの要素は残している場合があるが、生活に困難がなければ、アスペルガーと診断する必要はないと考えられる。ビル・ゲイツの場合はこの例ではないかと言われている。
 専門医は、これまで経験した症例から、発達障害のタイプを診断する作業をしなければならない。発達障害は、一般に広汎性発達障害、アスペルガー障害、ADHD、さらには、PDDNOSと呼ばれる非定型発達障害まで非常に広い範囲に渡るからである。その中で特にコミュニケーションの障害、社会性の障害、想像性の障害(こだわり)を現実に経験している患者をアスペルガータイプと診断することによって、確定診断がなされる。実は、正確な統計によれば、人口におけるアスペルガーの割合は0.08%と決して多くはない。日本におけるアスペルガーの診断率ははるかに0.08%を超え、現在、診断に対して、疑問を呈している研究者も少なくない。広く言われている割合は、自閉症0.5%、高機能自閉症(広汎性発達障害、アスペルガー障害、PDDNOSの総称)0.4%、合計0.9%であるが、この中で、アスペルガーが多すぎると訴えているグループがおられる。学派間の対立ととるか、研究段階の一過性のできごとととらえるか、見方によるが、医学界内部の診断基準は、大筋では一致するものの、個々の症例では、場合によっては、別の診断名がつくこともあり、現在、定説はなく、医師にその裁量がまかされている段階と考えらえる。言い換えれば、まだ研究段階の分野と考え、自分の確定診断に一喜一憂することなく、社会適応に向けたトレーニングに努力することが肝心と考えている。なぜなら、診断名に違いがあったとしても、社会適応に向けたトレーニングに差はないからである。
1.コミュニケーションの障害
 相手の考えを理解できない、自分のことを主張し、相手との関係で自分が係わることができない。コミュニケーションは通常、言語以外の、例えば、言葉のニュアンスなどで伝達され、伝達に係わる言葉の役割は20%から30%と言われている。この言外の意図が理解できなければ、コミュニケーションは非常に困難なものになる。
2.社会性の障害
 一般的に、その場で適切と考えられることとは異なる言動が見られ、しばしば、躾や常識に反すると誤解されがちだが、本人は特に問題だとは認識しない。子供で言えば、運動会のかけっこで逆側へ走り出すなどがある。また、大人では、周囲の顰蹙を買う言動がみられ、周囲との摩擦が絶えないなど、症状としてはしばしば、社会での困難に至る場合がある。
3.想像性の障害
 
特に特定のことにこだわり、自分なりのルールを無意識に設定し、常にそのルールに従って行動する。小さいことから(他人にとってはどうでもいいことまで)大きなことまで一度設定したルールにこだわり、執拗に変えようとしない。自分の主張は正しいとして、ほとんど譲ることはない。周囲からはいわゆるがんこと見られることがしばしばある。これらの診断基準については、冒頭にあげたギルバーグの診断基準を参照していただきたい。
 これらの診断基準に合致し、現に社会的困難を持っている場合は、アスペルガー症候群と診断される。診断する側は、成人知能検査、社会性の困難の程度、診断基準に照合して、相当であれば、確定診断とする。診断する側が、これまでの症例に照らし合わせ、合致しないと判断すれば、別の傷病名が付与される。確定診断には、これらの条件すべてに合致する必要があり、いくつかの関門を通過した場合についてアスペルガー症候群の診断となる。逆に、精神的な障害があって、非常に類似した症状を示したとしてもいくつかの基準のうち、条件に合致しないものがあれば、それは、別の傷病名をあてはめなければならない。すなわち、アスペルガー症候群と診断されることは非常に希であるが、近年、専門医師の数が増加したことと、レベルがあがったことによって、人口に対する割合に変化はないと思われるが、発見される絶対数が増加していると考えられる。
 それでは、確定診断を受けた後、何が必要か考えてみたい。診断後、相談機関に相談の機会がなく、そのまま放置されることは、もっとも避けなければならないと考える。医療機関に相談し、社会性を身につけることが、生きにくさを軽減することにつながる。仮に、診断を受けて、相談機関がなければ、アスペルガー症候群の二次障害であるうつになるばあいもあるであろうし、また、パニックを伴う場合は、パニックが改善されることもない。確定診断が社会性を身につけるための、また、よりよく生きるためのスタートであれば、相談機関、医療機関に相談して、改善に結びつけるきかけになるはずである。

 それまでの障害による困難に傷つき、疲労した心身が快方に向かうためにも、相談機関、医療機関の支援を受けることは、プラスになる。適切な医療機関がさらに多く整備されることを祈るばかりである。