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児島市民病院の産婦人科休診 ハードな環境に医師不足も拍車 /岡山

 ◇院外助産院で業務分担の動きも

 倉敷市立児島市民病院産婦人科の男性医師(59)が1日付で退職し、同科は休診となった。病院は早急な再開を目指して後任医師を探しているが、全国的な医師不足のため、見通しは立っていないのが実情。なぜこのような事態に陥ったのか。大病院が置かれた厳しい現実の一方で、地域ではお産を支える新しい試みも始まっている。【山崎明子】

 □スーパーマン勤務□

 「外来の検診もあって、分娩(ぶんべん)も診る。お産に時間は関係ない。多い時は年間200件を超える出産を扱い、いつも(連絡用の)PHSを握っていた。スーパーマンのような働きぶりだった」と、同病院の三宅進事務局長は振り返る。男性医師は89年に着任。助産師らスタッフはいても、医師は1人という状態が続いた。「バックアップ体制もなく、個人的な時間も取れない。昨今の医師不足を考えれば、補充は非常に難しい。ドクターの労働環境に、もっと目配りできなかったのだろうか」と悔やむ。

 同病院は、合併前の旧児島市が1950年に開設した市内唯一の市立病院。産婦人科を含め13診療科がある。急性期医療を担う倉敷中央病院や川崎医大付属病院、初期診療を担う開業医らと連携し、地域の中核病院として機能してきた。しかし、昨年度から内科医師の退職が相次ぎ、今年度の事業収益は上半期で前年度比約3割減。「報酬を上げれば医師が来てくれるというものでもなく、まして公立病院にはそれを決断するスピードがない」(三宅事務局長)と頭を抱えている。

 □減る分娩場所□

 同病院の産婦人科が休診したことで、人口約7万5000人の児島地区では分娩を扱う病院がなくなった。児島医師会の三宅八郎会長によると、「以前は分娩を扱う開業医の産婦人科もあったが、高齢のために24時間対応ができなくなったり、助産師が見つからず婦人科だけ行う病院もある。その結果、分娩は市民病院に集中していた」という。

 近隣の水島地区では三菱自動車工業の関連病院、三菱水島病院が11月末で産婦人科を廃止した。医師不足と収益悪化に伴う経営改善が理由。井原市民病院は06年8月に分娩を休止し、婦人科外来のみの診療としている。

 県の調査では、県内の産婦人科、産科を掲げる病院(患者20人以上の収容施設を保有)が97年には計46施設あったのが、07年には計28施設に減少。産科を休診している施設もあることから、県では実際に分娩を扱う病院はもっと少ないと見ている。

 □産科のリスクを知って□

 「出産は世界では250に1人が死亡する危険な行為。状況が刻々と変化し、いつ何が起きるか分からない。昼夜関係なく、医療事故も起きやすい。妊婦の中には、前置胎盤、高血圧、極端に体重が重いなどハイリスクの人もおり、何かあったら訴訟という最近の風潮では、働く者はとてもやっていられない」と、日本産科婦人科学会の広報担当の常務理事を務める平松祐司・岡山大大学院医歯薬学総合研究科教授(産科・婦人科)は語る。

 同大の産婦人科医局は毎年、中四国地方の医療機関に200人を超える医師を派遣していた。ところが、04年度から始まった臨床研修医制度では、学生は卒業後、大学の医局に入局せず、研修機関を自分で選べるようになり、地方より都会、やりがいより生活重視の傾向が強まっているという。

 「産婦人科は内科的なことから外科的なことまで幅広く、女性の一生にかかわる仕事。複数勤務体制や保険の整備など、働きやすい環境を整えなくてはますます医師が不足して医療の質の低下につながりかねない」と平松教授は指摘する。

 □助産師が活躍□

 産婦人科医が2人から1人に減り、診療科閉鎖の危機に陥った水島協同病院(倉敷市水島南春日町)の助産師ら5人は06年10月、自ら分娩業務を担おうと、院外助産院「さくらんぼ助産院」を立ち上げた。医療行為はできないため、リスクの高い妊婦は困難だが、正常分娩であれば医師でなくとも可能。残った医師の負担を軽減することもでき、同院では1カ月に約10人が産声を上げている。

 ただ、総合病院の完全なバックアップがあること、緊急時にはより大きな提携病院への搬送体制があることが前提。柏山美佐子所長は「体重や健康管理など、妊婦さんにも協力してもらうことでリスクを減らし、助産院と病院が連携すれば、医師不足の環境改善に役立つかもしれません」と話した。

毎日新聞 2008年12月10日 地方版

 
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