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異議アリ!:下川町・開発局のサンルダム計画 専門家会議の姿勢に失望 /北海道

 上川管内下川町のサンルダム建設計画。北海道開発局が来年度の本体着工に向け準備を進める中、取材を重ねる度に計画推進の手法に疑問が募る。徳島県の細川内(ほそごうち)ダムや吉野川第十堰可動堰(かどうぜき)化計画など、各地の大型河川開発の現場を15年にわたり取材してきた。97年の改正河川法は過去の事業への批判から「環境」と「住民参加」の観点が盛り込まれたが、開発局は都合良く解釈しているようだ。

 建設の是非を巡っては、07年10月策定の河川整備計画にダム建設が盛り込まれ、論争はいったん終息した。自然保護団体は、サクラマスへの影響を最小限に抑える対策を検討するため設置された天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議で、見直しの議論がされることを期待した。

 だが、専門家会議は開発局が対策として提案した全国最大規模の魚道(全長約9キロ)の妥当性に踏み込まず、魚道建設を前提に試験用魚道による遡上(そじょう)調査の実施を了承し、調査結果も追認した。

 11月の会合。委員の1人は「求められているのは魚道を作る、作らないの議論ではなく(作った場合の)影響を最小限にとどめること」と発言。期待は失望に変わる。自然保護団体は魚道の実効性に疑問を呈し試験でも障害を指摘したが、専門家会議は取り合わず、開発局の方針に異を唱える場面もなかった。

 第三者的性格が求められる専門家会議。委員は開発局が人選した。共産党の紙智子参院議員(比例代表)の質問主意書に対する答弁書(今月2日付)によると、委員8人中6人が、開発局から仕事を受注している企業や法人の理事、技術顧問を務めていた。受注件数の98%が随意契約。額が最も多かった法人は03年度から5年間で計537件49億6843万円に上った。

 だが、委員名簿ではこうした企業や法人での肩書は伏せられ、実態も説明されなかった。開発局は「専門家として判断した根拠となる所属名を示した」と主張しているが“関係隠し”と批判されても仕方がない。

 ◇未検討の課題山積

 自然保護団体は、サクラマスの産卵床などを独自に調査。開発局の調査結果との食い違いを指摘し対話の場を求めている。しかし、開発局は文書でのやり取りに固執。保護団体からは「話し合いの場を設け中止に追い込まれた『千歳川放水路計画』の再現が嫌なのでは」との声もある。

 試験用魚道(長さ20メートル)の高低差は1・8メートル。実際の高低差約30メートルでの遡上や、稚魚の降下を検証していない。肝心の「ダムの影響を最小限に抑える」対策でも、どこが何を基準に「最小限」と評価するのかを示せていない。

 ◇デメリット全面開示を

 旧建設省は90年代後半、全国のダム事業の見直しを迫られ、13事業で地域の声を反映させるため審議委員会の設置を表明した。ところが、推進派に偏った人選や情報公開不足に批判が続出。教訓を生かしているはずのサンルダムでも流域委員会以降、同じ批判が繰り返されている。

 開発局が「批判しているのは保護団体だけ。計画推進が民意」と手続きを急ぐのは早計だ。吉野川第十堰可動堰化計画では、知事や流域自治体すべてが計画推進で、審議委も計画妥当と結論付けたにもかかわらず、地元・徳島市の住民投票では計画反対が92%と「民意」は逆だった。

 住民投票などで中心的役割を果たした吉野川シンポジウム実行委員会代表世話人の姫野雅義さんは「住民は財政負担や治水効果の限界、取り返しのつかない自然破壊に気付いているのに、国はデメリットを隠してきた。相次いだ最近の知事のダム反対表明もその表れだ。サンルダムでも情報を開示すべきだ」と指摘する。

 ダム建設は、北海道の自然に大きな影響を与える。国の事業だから国が決めるのではなく、決めるのは道民だ。開発局は批判に誠実に答え、多くの道民が主体的にかかわれる機会を設けなければ真の「住民参加」ではない。【横田信行】

 ■反論

 ◇環境などに十分に配慮

 サンルダム建設を盛り込んだ天塩川の河川整備計画は河川法に基づき、公聴会など住民の意見を反映させる必要な措置を講じ、学識経験者や知事の意見も聞き策定した。学識経験者の意見を聞くための流域委では、現地視察や住民の意見聴取も実施。ダム以外の代替案も検討し、3年半20回にわたり議論を重ね、時間をかけて十分に議論している。「ダム建設ありき」の議論とはなっていない。

 計画に対する住民意見の公募でも約8割が計画推進。道議会の議決を経た知事の意見は早期完成を求めており、地域住民や地元・名寄市、下川町など流域自治体からも早期着工を要望されている。

 天塩川魚類生息環境保全に関する専門家会議は、ダム予算を審議する場ではなく、魚類などの移動の連続性と生息環境の保全、サクラマスの遡上・降下対策などに関し意見を聞くため設立した。流域委は河川に関する学識経験や流域に深い知見を持つ方など幅広い委員を選出。専門家会議も目的に沿って各分野の専門家を選んでおり、人選は適切だ。

 専門家会議では活発な議論が交わされ、発言者名入りの議事録をホームページで公開し、流域委の元委員や他の専門家、魚道試験の現地視察時には自然保護団体とも意見交換している。保護団体からの要望は十分に検討し適宜回答している。

 開発局の調査は経験のある機関が専門家の指導下で実施し、問題はないと考えるが、自然保護団体の指摘にも適切に対応し、今年の産卵床の調査をお互いに確認している。今後とも、地域の期待に応えるため、環境などに十分に配慮しながら事業を進めていく。(北海道開発局旭川開発建設部)

毎日新聞 2008年12月8日 地方版

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