昼夜通じての見ものは夜の最後の「籠釣瓶(かごつるべ)」。幸四郎が、純朴な男が凶行に走るまでを活写する。
「縁切り」で、自分にほれていると思いこんでいた遊女八ツ橋(福助)から袖にされた次郎左衛門(幸四郎)は、無防備な有頂天さから戸惑い、やがては静かな怒りへと至る。大詰めの殺しまで、幸四郎が次郎左衛門の絶望、怒りを内に抑え込んだ不気味さを表現した。福助は高慢に振る舞いつつも実は意思を持つことを許されない女の悲しみを出した。段四郎、染五郎、東蔵、市蔵、紫若が好助演。
夜の最初が「石切梶原」。富十郎の梶原がさわやかだ。梅玉の大庭、魁春の梢、段四郎の六郎太夫、染五郎の俣野とそろう。
次が「高坏(たかつき)」。染五郎が軽快にゲタで足拍子を踏む。弥十郎の小ずるい高足売がいい。
昼の最初が「高時」。気位が高く、周囲の見えない独裁者の人間像を梅玉が描いた。
次が三津五郎の本興行初挑戦の「娘道成寺」。鐘への執念よりは娘らしさが随所に感じられるかわいらしい花子である。「恋の手習い」では、恋する相手の姿が見えるかのようだ。道行が赤の衣装で、鐘入りも赤に返るのが珍しい。
最後が「佐倉義民伝」。農民の窮状を見かねた佐倉の庄屋の木内宗吾(幸四郎)が命がけで将軍家綱(染五郎)に直訴するまでを描く。「宗吾内」での女房おさん(福助)と子供たちとの別れが見せ場だ。26日まで。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年12月10日 東京夕刊