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各国の小学4年と中学2年を対象に昨年実施された国際数学・理科教育動向調査の結果が公表された。
いずれの科目も順位は前回、03年並みの3〜5位。平均得点は、どの科目でも前回と同じかやや上回った。
03年の調査の結果は、それ以前より落ち込んだ。同じ年の経済協力開発機構(OECD)の調査でも低落傾向がみられたことから、日本の子どもの学力が低下したと騒がれた。
文部科学省は今回、「学力低下に歯止めがかかった」との見方を示した。たしかに数字は前回をやや上回っている。しかし、この直前に実施されたOECD調査では、科学的、数学的な応用力でいずれも順位を下げている。ほっとするのは早計だろう。
それに、順位や得点の多少の上下に一喜一憂するよりも、もっと気がかりなことがある。日本の子どもたちの勉強への意欲の乏しさである。特に中学生で「勉強は楽しい」と答えた割合が最低レベルだったのは深刻だ。
今年のノーベル物理学賞を受賞した益川敏英氏の言葉を思い起こしたい。
「本来みんなが持っている好奇心が選択式テストの受験体制ですさんでいる。教育汚染だ」
ではどうすればいいのか。
何よりも授業の改善だろう。OECD調査では、理科の授業で身近な疑問に応えるような教え方をしてもらっているという割合が最低レベルだった。
昔とは違って、テレビゲームや携帯電話など教室の外には興味をそそるものがあふれている。今の子どもの環境や生活に即して、いかに好奇心や疑問の芽を引き出して育てるか。「受けたい授業」を工夫しなければいけない。
だが今の先生は、事務や生活指導など授業以外のことでも忙しい。先生の尻をたたくだけでは解決しない。
国立教育政策研究所などが中学の理科教員を対象に今年実施した実態調査から、現場の悩みが浮かび上がっている。工夫をこらした授業は徐々に広がってはいる。ただ観察や実験のための時間が足りないという。優れた教材や指導法についての情報を求める声も、若い教員から強く上がっている。
そんな訴えに応えたい。教師の雑用を極力減らし、教材や指導法の研究に力を注げる体制を整える。優れた授業の情報を共有する。そうした条件整備には今すぐに取り組むべきだ。
さらに益川さんが指摘しているように、入試制度の改革も必要だ。知識はあるが、応用力が弱い。未知の問題に向き合った時の解決能力が乏しい。それが日本の子どもたちに対する評価である。その主な原因の一つが暗記中心の入試制度にあることは確かだろう。
文科省がしきりと口にする「生きる力」を育てるために、なすべきことは少なくない。
何でも政府が決めてきた中央集権体制を改め、住民に身近な行政はできるだけ自治体が決め、実行する。そのための権限移譲などを検討してきた地方分権改革推進委員会(委員長、丹羽宇一郎・伊藤忠商事会長)が、麻生首相に第2次勧告を提出した。
柱は二つある。まず、自治体がつくる施設の基準を全国一律に定めたり、何かを決める時に中央省庁の同意を求めたりする「義務づけ」の削減だ。分権委は1万項目以上を洗い出し、およそ半数の廃止や緩和を求めた。
もう一つが政府の出先機関の統廃合だ。全国に出先を持つ8府省15機関の仕事や権限を見直し、項目数でざっと4割弱をやめたり自治体に移したりしたうえで、国交省の地方整備局はじめ6機関を「地方振興局」と「地方工務局」の二つの新設組織に統合する。
こうして、15機関で働く9万6千人の国家公務員のうち1万人を自治体に移す。将来的には3万5千人の移管、削減をめざすとの目標を掲げた。
政府と自治体が同じような仕事をする二重行政の無駄や弊害に切り込もうとした意図は分かる。だが、「出先機関は原則廃止」という当初の意気込みからすると、後退の印象は否めない。
これでは出先機関がスリムにならないまま、巨大な統合機関をつくるだけに終わる恐れすらある。そうした懸念に応えようと、最終局面で野心的な削減目標の数字を盛り込んだが、どのようにして仕事を減らすのか具体策は描かれていない。寝耳に水の中央官僚たちはさっそく猛反発だ。
霞が関が受け入れられる中身にこだわれば、抜本的な改革はできない。かといって、革命的な中身をつくってもそっぽを向かれれば実現は難しい。分権委が抱えてきたジレンマだ。
丹羽委員長はあえて高めの数字を示すことで、「最後は私が決断する」と言った首相に実行を促したのかも知れない。だが、いまの政権の迷走ぶりを見れば、それは難しそうだ。
そもそも、官僚と持ちつ持たれつの関係で戦後政治を仕切ってきた自民党政権のもとで、霞が関の機構に根本的なメスを入れる改革ができるのかどうか。これまでの分権改革の歴史を振り返ると、そんな疑問が募る。
地方分権には、民主党も熱心だ。中央省庁の権力の源泉である補助金を廃止し、自治体が自由に使える一括交付金に改める。出先機関は原則廃止。こんな素案をまとめている。首をかしげたくなる部分もあるが、政権をとれば大胆な分権改革を実行するとの意気込みは伝わってくる。
これだけの権限や人を動かそうという大改革だ。息の長い仕事になる。中身の議論もさることながら、やり抜くにはどんな政治が必要なのかも、有権者は考える必要がある。