◎ネジール君再来日 コソボから「小さな大使」
九年前、目のがんの治療のため、コソボ紛争を逃れて来日し、金大附属病院で治療を受
けたアルバニア系男児ネジール・シニック君(12)がきょう再来日する。三歳だった当時、来日から離日するまでの一挙手一投足が本紙で紹介されたから、覚えている読者も多いのではないか。
今年二月、コソボから届いたメッセージで、私たちはネジール君が心配されたがんの再
発もなく、元気でいることを知った。ただ、健やかな成長を喜ぶ一方で、「義眼が小さくなって、遊んでいるうちに落ちてしまう」と書かれたくだりには胸が詰まる思いもした。
下を向いただけで、義眼がポロリところがり落ちる。いたずら盛りの年ごろだけに、そ
れが原因でいじめられることもある。経済的な理由で、義眼の入れ替えは望むべくもないという。本人はどんな思いで日々過ごしているのか。本紙がネジール君の再来日を応援したのは、北陸とアルバニアの交流のきっかけをつくった「小さな大使」の悩みにこたえたいと思ったからである。
そもそも北陸とアルバニアの縁は、ジャパンテントにアルバニア人留学生が参加し、金
沢を拠点に日本・アルバニア協会ができたことに始まる。これをきっかけにネジール君の受け入れが決まり、二〇〇一年には、アルバニア政府が飛田秀一北國新聞社社長に日本国内で初の名誉領事就任を要請、北國新聞東京会館内に大使館を置いた。民間交流の小さな種が芽をふき、大きく成長したのである。本当に不思議な縁というほかない。
アルバニアが日本と国交を樹立したのは一九八一年のことである。アルバニアの隣国コ
ソボにいたっては、今年二月に独立したばかりで、独立を承認した国はまだ五十カ国しかない。両国と日本の交流がどんな実を結んでいくのか、楽しみでもある。
今年二月に初来日したアルバニアのベリシャ首相は、飛田名誉総領事との懇談の席で、
ネジール君の治療支援に感謝の意を伝えた。ネジール君はこれからも、日本とアルバニア、日本とコソボを結ぶ友好の懸け橋になってくれるに違いない。
◎年金記録改ざん 強まる「組織的」の疑念
厚生年金の記録改ざん問題で、舛添要一厚生労働相直属の調査委員会が現場レベルでの
組織的関与を指摘したのに続き、改ざんが疑われる記録を確認するための戸別訪問では年金受給者の56%が間違いを認め、このうち一割が社会保険事務所職員の関与を指摘した。確認対象の六万九千件について社会保険庁は機械的に算出した数字であることを強調していたが、調査委の報告と戸別訪問の結果を合わせ、「組織的不正」の疑念はますます強まってきた。
「消えた年金」のような事務的ミスと異なり、改ざんは犯罪行為である。それが組織的
に行われていたとすれば行政による前代未聞の不祥事と言わざるを得ない。膨大なデータを確認するには多大な労力を要するだろうが、地に落ちた年金制度の信頼を取り戻すには地道に作業を進めるほかない。厚労省、社保庁は調査体制を整え、不正の全容解明と被害救済に全力を挙げる必要がある。
調査委の報告書によると、厚生年金の算定に使われる標準報酬月額の改ざんは、経営が
苦しい零細事業主の求めに応じて滞納保険料を帳消しにするために一部の社保事務所で始まり、その後、従業員の記録改ざんが広がった。背景には一九八五年の制度改正で従業員五人未満の企業にも厚生年金の適用が始まり、バブル崩壊後に滞納事業所が急増したことがある。差し押さえなどの煩雑な滞納整理を避け、安易に改ざんに走ったというのが不正の構図である。
調査委は社保事務所の徴収課長を中心とした現場レベルでの「組織性」を認め、改ざん
は「仕事の仕方として定着したもの」と指摘した。社保庁による組織的な関与までは確認できなかったが、現場で日常の仕事のように行われていたことを本庁が本当に把握していなかったのか疑問は残る。
年金受給者の戸別訪問では二十五人が職員の氏名などを挙げ、改ざんの経緯を証言した
。具体名も出た以上、追跡調査が必要である。改ざんの可能性がある記録は実際には百四十四万件に上っている。それらの解明なくして年金制度の信頼回復はあり得ないだろう。