先週(「クルマへの見栄に2000万円も使ってる、恥ずかしい!」)は、その前の週の記事(「彼氏が軽自動車に乗っていたらイヤですか? 」)へのコメントへのコメント返しという体裁で記事を書きました。新たに多くのコメントも頂戴しました。ありがとうございます。
寄せられたコメントの内容はさまざまでしたが、すべてに目を通して感じたのは、消費はもはや夢みるきらびやかなものではないのかもしれない、ということです。この背景には、長期的な傾向という側面と、景気循環の中で現在が下降曲線にある、という2つの要素があるとは思いますが、結果としては、豊かになっていいモノを買って、という旺盛な消費意欲は周りを見渡しても見つけることが困難な状況です。
そして、その風景は、この国だけでなく、アメリカやヨーロッパはもちろん、資源価格の値下がりの影響を受けているロシアや、テロのあったインドなど、世界中に広がっていて、「羽振りのいい人」はまもなく絶滅危惧種に指定されるのではないか、といった気にすらなります。
以前、この連載で紹介した「オトナグリコ」のCMでは第2弾が始まりましたが、若き成功者でスーパーカーを乗りまわすイクラちゃんの職業はIT企業のCEOであることが明らかになりました。おそらくCMの企画者たちも「今さらIT企業のCEOという設定はどうか?」という忸怩たる思いだったのではないかと想像します。しかし、外資系金融が倒産し、有名ミュージシャンは著作権詐欺で逮捕され、といった中で、他にこれといった魅力的な選択肢もなく仕方なく、といったところで落ち着いたのではないでしょうか。
ニュース番組を増やす民放の動き
テレビの視聴率で、今年は全体傾向としてNHKが民放を凌駕する中で、今後は民放各局が報道番組を充実させる動きが次々と発表されています。
テレビCMという広告収入の低下と、視聴率の低下というダブルパンチの中での施策ですが、そうした新番組の中で取り上げられる内容は、国内のニュースであれ、海外のニュースであれ、当面は厳しい経済状況と、それによって影響を受ける企業や人々の話が多くなるだろうことが予想されます。
雇用調整の発表であったり、不採算事業の売却のニュースであったり、人々の節約術・倹約術の話であったり。エンターテイメントであるスポーツですら、スポンサー企業の撤退や、選手のリストラといった話が今後ますます増え、景気の影響を受けないのは天気予報くらい、といったことになるのは、まず間違いのないところでしょう。
そうしたニュースに挟まれて、「それではここでCMです」となるわけです。
そのCMが「いつの時代の話ですか?」というような明るい消費を煽っても、どれだけ効果があるでしょうか。もちろん優秀な広告クリエイターたちが、時代の空気を先取りして、生活者の感情を逆なでするようなことのない有効な企画を立案して、プレゼンテーションすると思います。しかし、企業の宣伝部としては、全社的な経営資源の最適化やコストの削減の動きが強まる中で、「せっかくテレビCMを打つのだから、コレとコレと、さらにアレも訴求したい」ということになり、結果として非常に饒舌なテレビCMが今後、ますます増えていくのではないか、と予測されるのです。
そうなった時に、テレビの前の視聴者が、不景気にあえぐ世間のニュースにつづけて、そうしたセールスポイント満載の広告を見せられて、その企業に対してどんなイメージを持つのか。ニュース番組の増加と、不景気の深刻化の中で、広告の立つ舞台がとても冷たいものになっていくように思うのです。
雇用調整の報道に勝てるテレビCMはたぶん存在しない
たとえばの話ですが、ある製造業の会社が雇用調整をすることになった、というニュースが報道された後に、その会社のテレビCMが流れると仮定して、いったいどんな内容だったら、その報道によってマイナスの方向に傾いた視聴者の気持ちを、プラスに転じさせることができるでしょうか。
おそらく、それが可能なテレビCMのクリエイティブは存在しえないのではないか、とぼくは思います。
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