ニュース: 生活 RSS feed
【産科医解体新書】(16)海外旅行なら大丈夫?
よっぽど計画性のある人でなければ、妊娠を偶然に任せている方は多いと思います。そのためか、妊娠判明前に既に旅行の計画を立てている人も結構います。大抵の方が「旅行へ行っても大丈夫ですか?」と尋ねてきますが、僕らは答えに困ってしまいます。
僕ら産科医が、常に病院から半径10キロ圏内に拘束されているから、皆さんの旅行をねたんでいるわけではありません。産科医が少ない現状を考えると、旅行先で妊娠中のトラブルに見舞われた場合、ほぼ間違いなく受診が難しいのです。
それでも、「上の子と約束しちゃったから、来週、遊園地へ行かせてください」というお母さんからの嘆願が後を絶ちません。先輩医師は「遊園地に行ったって、ぬいぐるみが歩いているだけだよ? 『あの中には人が入っているんだ』と上の子に言い聞かせなさい」と夢をぶち壊す提案をしていました。その後、先輩は上の子と口をきいてもらえなくなっていましたが、医療者側からしたら、言い方の問題を別にすれば、先輩の意見に賛成です。
安易に旅行を許可することで、行楽地周辺の産婦人科の忙しさに拍車をかけることにつながりかねません。既に産科病院では自分たちの患者さんへの対応だけで精いっぱいです。収容能力を超えているので分娩(ぶんべん)制限をして、外来をコントロールしている所がほとんどです。この上、一見(いちげん)の救急患者さんにまで対応していたら、診療に支障を来たしてしまうのです。
最近、心を入れ替えた件(くだん)の先輩は「産科では何が起こるか分からないし、国内では産科が足りないのですから、今回は旅行を我慢したらいかがですか?」と説明の仕方を改善したようです。しかし、こういうふうに説明していたある日、一人の患者さんに言われたそうです。
「良かった。私は国内旅行じゃないから、大丈夫ですよね? 来週からハワイです」(産科医・ブロガー 田村正明)