共同通信社の全国電話世論調査で、麻生内閣の支持率が前回十一月の調査から急落し、25・5%となった。15・4ポイントという異例の下落幅である。発足から二カ月半で政権維持の危険水域といわれる30%を大きく割り込み、麻生太郎首相は一段と苦しい立場に追い込まれた。
不支持率は逆に前回から19・1ポイント増え、61・3%に達した。麻生首相と民主党の小沢一郎代表の「どちらが首相にふさわしいか」の質問では小沢氏が34・5%(10・1ポイント増)で、麻生氏の33・5%(17・5ポイント減)を初めて上回った。
政策の迷走や相次ぐ失言が国民の不信を増幅させている。定額給付金の所得制限に関し閣内からも首相と違う意見が出るなど混乱し、道路特定財源の一般財源化に伴い地方に配分する一兆円については首相が使途を限定しない「交付税」と明言したにもかかわらず、後になって修正した。二〇〇八年度第二次補正予算案の提出は先送りし、基礎年金の国庫負担引き上げでも来年四月からの実施をめぐって首相発言が変転した。
「医師は社会的常識が欠落している」。「(健康維持の努力を)何もしない人の分のカネ(医療保険料)を何で私が払うんだ」など失言も重なった。漢字の誤読などもあり、首相としての指導力だけでなく資質にまで疑問符がついてしまった。
有権者の気持ちは麻生首相から急速に離れつつある。安倍、福田政権に続く国民の審判を仰がぬままの政権であることを考え合わせれば、早期の衆院解散・総選挙に踏み切るべきという声が高まっているのもうなずける。しかし、以前の世論調査結果やその後の政策混迷、失言などから既に解散・総選挙は遠のいており、現段階では来春以降とみられている。今回の調査結果により、ますます早期の解散は難しくなった。
首相としては、支持率急落を受けて自ら語っている通り、しっかり政策を進めていくしかない。二次補正や〇九年度予算案の適切な処理が必要だ。経済状況からも、これ以上の混迷は許されない。民主党とのせめぎ合いが予想されるが、乗り切って実績を示すことしか首相が信頼を取り戻す道はあるまい。
首相の求心力が低下し、麻生おろしともいえる動きが自民党内に出てきた。だが、支持率急落の向こうに、人々がいまの自民党に限界を感じ始めている状況が透けてみえなくもない。個々の自民党国会議員も党のありようを考え直してみるべきではないか。
埼玉県警が偽造有印私文書行使の容疑で京都家裁書記官を逮捕した。振り込め詐欺に使われ凍結された銀行口座から、別の口座に数百万円を送金するよう求める偽造の振込依頼書を使った疑いである。
警察の調べでは、書記官は九月末に埼玉県熊谷市の銀行に対し、第三者の氏名や口座番号を記載した振込依頼書などを郵送し送金させた疑いが持たれている。銀行が送金した第三者の振込先は書記官が管理し、入金された数百万円は全額が引き出されていたという。
振り込め詐欺に使われた口座は、今年一月に警察の指摘を受けた銀行が内規に基づいて凍結した。ところが、口座の凍結を解除し、送金を可能にする民事訴訟の判決書が京都地裁からさいたま地裁熊谷支部に送られてきたことから、熊谷支部が銀行に命令して凍結解除と送金が行われた。書記官が偽の判決書を作成した疑いがある。
多発する振り込め詐欺の被害者救済のため、六月に「振り込め詐欺被害回復分配金支払い法」が施行された。金融機関が警察などからの通報を受けて犯罪に使われた口座を凍結して引き出せないようにしている被害金を、振り込んだ被害者に被害額に応じて配分する。
逮捕された書記官は、救済制度を悪用して凍結口座の被害金をだまし取ったのだろうか。お年寄りらが被害に遭う振り込め詐欺は卑劣で、社会全体で撲滅に取り組む。それなのに、書記官が専門知識を使って犯行に及んだのならあまりに悪質だ。
今年に入って、部下の女性に付きまとったなどとしてストーカー規制法違反の有罪が確定した裁判官がいる。市民が参加する裁判員制度がまもなく始まるのに、相次ぐ不祥事は司法への信頼を低下させよう。
(2008年12月9日掲載)