ニュース任天堂の岩田聡社長が目指すものWiiでゲームのユーザー層に広げ、DSiでiPodの領域まで侵出しようとしている岩田氏は、「生活必需品でない当社製品を購入してもらう方法を常に考えていきたい」と語る。(ロイター)2008年12月09日 15時59分 更新
6年前、岩田聡氏(49)が任天堂の社長に就任した当時、ビデオゲームの世界はソニーのプレイステーション 2(PS2)に支配され、ユーザーは若い男性がほとんどだった。 「この市場はもっと大きくできるはずだ」――。岩田氏は当時から、そう考えていた。同氏の指揮の下、任天堂は記憶力を鍛えたがっている中高年や高齢者から、自分のポーズを改善したいと思っているヨガの生徒まで、思いも寄らないユーザー層をターゲットに据えた新製品の開発に着手した。 そうして完成したのがゲーム機「Wii」だ。Wiiの発売を年末に控えた2006年5月、岩田氏は次のように語っている。「今は、ゲームをする人としない人がはっきり分かれている。われわれはその壁を打ち破りたい」 大半のゲーム機とは異なり、Wiiは万人受けを目指している。ゴルフのラウンドであれ、ファンタジー世界での兵士との戦いであれ、何かを楽しみたいと思っている誰もにアピールできる製品を目指したのだという。 「年齢や性別、ゲーム歴にかかわらず、Wiiなら誰もが楽しめる」と岩田氏は当時、語っている。 同氏の予想は正しかった。Wiiは大ヒットを記録し、販売台数は常にライバル商品を上回っている。Wiiの世界での販売台数は今年9月末の時点で3460万台に達したが、一方、プレイステーション 3(PS3)の販売台数は1680万台、MicrosoftのXbox 360は2250万台となっている。 岩田氏は型にはまらない自由な発想でキャリアを積み上げ、ついには世界最大のゲームメーカーであり、世界中で愛されているゲームキャラクター、マリオとドンキーコングの生みの親でもある任天堂のトップに上りつめた。 岩田氏が社長に就任したのは42歳でのこと。日本の大企業では、社長に就けるのは50代後半から60代前半に差し掛かってからというのが一般的だ。 岩田氏の前任者である任天堂創業家出身の山内溥氏は、岩田氏が任天堂に入社してわずか2年後に同氏を社長に起用した。それまでは山内氏自身が50年以上にわたって任天堂の社長を務めていた。 10代からプログラミングに夢中岩田氏は高校時代にコンピュータプログラミングに夢中になり、その後、日本の工業大学の最高峰、東京工業大学で情報科学を学んだ。そして1982年、同氏は小規模ゲームメーカーのHAL研究所に入社、だがその約10年後にHAL研究所は経営危機に陥った。 岩田氏はゲーム開発者として、より安定した、より給料のいい転職先を探す代わりに、HAL研究所の社長に就任することを承諾し、見事に会社を再建させた。 その後、岩田氏は2000年に任天堂に移り、その翌年の新型ゲーム機「ゲームキューブ」の立ち上げに携わった。だがゲームキューブの売れ行きは振るわず、PS2の人気には遠く及ばず仕舞いとなった。 だが山内氏は、ゲームビジネスをハードウェアとソフトウェアの両面から理解できるという岩田氏のまれな才能を認識していた。 その才能が証明されたのはWiiにおいてだ。Wiiでは、さまざまな年齢層や関心事に応じたゲームソフトとユニークなハードウェアとが組み合わされ、モーションセンサーコントローラはテニスラケットや野球バットのようにスウィングして使えるようになっている。 任天堂のもう1つの大ヒット商品には、ハンドヘルドゲーム機「ニンテンドーDS」がある。こちらも、パズルや記憶力トレーニング、教育ゲーム(漢字学習ゲームなど)など、さまざまなゲームソフトで広範なユーザー層に支持されている。 DSはキーパッドではなくスタイラスペンを使った操作が可能だ。この点は、キーパッドは使い慣れていないがペンなら使いやすいというユーザーにとって大きな魅力となっている。 iPodに対抗こうした機能が支持され、ニンテンドーDSの販売台数はこれまでのところ、プレイステーションポータブル(PSP)を2対1の比率で上回っている。そして今やニンテンドーDSは、そのほかのガジェットの領域にも侵出しようとしている。 任天堂は今年11月、米AppleのiPodとiPhoneに対抗すべく、写真の撮影や楽曲の再生が可能なニンテンドーDSの後継モデル「ニンテンドーDSi」の販売を開始した。 「日本では既に国民の6人に1人がDSを持つという、かつてない普及率を遂げている」と岩田氏は新モデル発表の記者会見で語っている。 「われわれはまだDSを持っていない世帯にアピールするだけでなく、DSの普及レベルを“一家に1台”から“1人1台”へとシフトさせることを目指していく」と同氏。 任天堂は3月締めの通年決算で前年比29%増の6300億円の営業利益を計上する見通し。これはソニーの3倍以上に相当する数字だ。 世界的に景気後退が進む中で、同社がそうした勢いを持続できるかどうかは定かではない。なにしろ、岩田氏自身、任天堂の製品はどうしても必要な類のものではないことは認識している。 「当社の製品は、無くても生活には困らないようなものばかりだ。だがわれわれは、たとえ生活必需品でなくても当社の製品を優先的に購入してもらうためにはどうすればいいかを常に考えていきたい」と岩田氏は今年10月に語っている。 「それを怠れば、いくら今は成功していても、状況はたちまち悪化し始めるだろう」と同氏は続けている。 関連記事
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