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西岡“5度目の正直”で涙の初戴冠

 かつて死闘を繰り広げたウィラポンと小姫ちゃんの祝福を受ける西岡=パシフィコ横浜

 「WBC世界Sバンタム級暫定王座決定戦」(15日、パシフィコ横浜)

 WBC世界Sバンタム級2位・西岡利晃(32)=帝拳=が、3-0の大差判定で同級3位ナパーポン・ギャットティサックチョークチャイ(29)=タイ=を破り暫定王座を獲得した。序盤からスピードと手数で圧倒した西岡は、最大12ポイント差の文句なしの判定で悲願のベルトを奪取した。帝拳ジムの世界王者は、WBC世界フェザー級ホルヘ・リナレス以来で、同ジムの日本人選手としてはWBC世界Sライト級の浜田剛史以来22年ぶり。初防衛戦は来年1月に日本開催を計画している。

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 鮮血の混じった涙がほおを伝った。右腕に抱えたまな娘・小姫(こひめ)ちゃんが、西岡の耳元で言った。「パパ、世界チャンピオンおめでとう」。まな娘の屈託のない笑顔を見つめ、再び熱いものがこみ上げてきた。悲願の世界ベルトを巻いた。四方に向かい丁寧に頭を下げるたび、キャンバスに熱いものが落ちた。

 パワーで上回るナパーポンに一歩も引かなかった。序盤こそフットワークを使いポイントを稼いだが、中盤以降は中間距離で果敢に打ち合った。「気迫」。過去4度の世界戦にはなかったものがそこにはあった。11回にバッティングで右まゆ下をカットしても気力はなえなかった。最後まで心は折れなかった。

 00年6月の世界初挑戦から8年、5度目の挑戦にしてやっとつかんだ世界のベルト。世界王座5度目の挑戦でのタイトル獲得は、花形進に並ぶ日本タイ記録。32歳1カ月での世界王座の初奪取は日本歴代3位となる。少年時代、「天才」と称されたボクサーが、遅咲きながら大きな花を咲かせた。

 「長かった」。この8年間を振り返る言葉に実感がこもっていた。02年3月には左アキレスけんが断裂。世界戦を直前に控えてのことだった。この影響で1年間を棒に振った。医師に完治を言い渡されても心は完治していなかった。ケガの恐怖が常に心を支配し、体がついてこない。そんな状態を引きずりながらリングに上がっていた。

 05年1月、美帆夫人と結婚してから人生が一変した。何事も前向きにとらえるようになり、折れかけていた心に芯が通った。翌年には長女・小姫ちゃんが誕生し、西岡は明らかに変わった。これまでジムで特別扱いされ孤立していたが、結婚を機に自ら後輩に話しかけるようになった。孤高の天才が新たに生まれ変わった。

 この日リングサイドには美帆夫人と小姫ちゃん、そしてジムの仲間がいた。リング上の新王者は「ジムの会長、マネジャーをはじめこれまで支えてくれた人に感謝したい。嫁にも感謝したい。嫁がいなかったら今の自分はない。ボクシングもやっていない。本当に感謝したい」。クールな男が何度も「感謝」を繰り返した。8年分の思いがこの言葉に詰まっていた。







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