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まずは、読売の社説を一部抜粋する。
《 常用漢字 IT時代踏まえ議論深めよ 》──
「俺(おれ)」「串(くし)」「鬱(うつ)」「彙(い)」など 191字を追加候補とし、現在の常用漢字表から「錘」など5文字を削除する案が内定した。今後、一般から意見を求めてさらに吟味し、2010年に答申をまとめる方針だ。
「鬱」や「彙」などは、読むことは出来るが書けないという人が多いのではないか。現実に国民が漢字の読み書きをどの程度できるのか、早急に実態調査を行う必要もある。
字体も、重要な焦点となっている。常用漢字以外の主な漢字の印刷標準字体について、国語審議会が答申した表外漢字字体表は、伝統的な字体を基本としている。
例えば、新常用漢字の候補となっている「謙遜」の「遜」は、表外漢字字体表では、点二つの「遜」が用いられている。しかし、点二つの「しんにゅう」で常用漢字表に掲載されれば、「遠」などと字体の整合性がとれなくなる。
( → 12月7日付・読売社説 )
この社説には、誤解がある。最後の一文だ。
“ 点二つの「しんにゅう」で常用漢字表に掲載されれば、「遠」などと字体の整合性がとれなくなる。”
これは正しくない。整合性は「とれなくなる」のではなくて、もともと「とれていない」のだ。
読売新聞は、常用漢字について、勘違いしているようだ。「字体は略字体で統一されている」というふうに。
しかし、それは間違いである。
たとえば、次の例がある。
燈 → 灯 / 登 → 丁 ?
龍 → 竜 / 襲 → 竜+衣 ?
盡 → 尽 / 書 → 尺+日 ?
國 → 国 / 或 → 玉 ? ( 域 も?)
佛 → 仏 / 沸 → シ+ム ?
區 → 区 / 品 → メ ?
もし字体の統一が取れているのであれば、左の例にならって、右のようになるはずだ。しかしながら、現実には、そうはなっていない。というか、そんなことをしようとするのは、馬鹿げたことだ。
仮に、そんなことをすれば、「鐙」(あぶみ)という文字は、「釘」(くぎ)という文字になってしまう。また、「澄」(すむ)という文字は、「シ+丁」(なぎさ・みぎわ)という文字になってしまう。さらに、「品切」(しなぎれ)は、「メ切」(しめきり)になってしまう。これでは何が何だか、わからなくなってしまう。
読売新聞は、漢字のことをよくわかっていないようだ。麻生首相並み?
[ 付記 ]
読売の漢字力のいい加減さを示す。
「読」という字は新字体で、その旧字体は、讀 である。
ここで、右半分は 「士」 の下に 「買」 があるようだが、正しくは 「買」 ではなく、その上半分が 「四」 になっている。(この字は 「買」 とは別字である。漢和字典を見ればわかる。)
しかしながら、読売新聞のロゴでは、これが 「買」 になってしまっている。
→ http://www.sntec.com/news/20070830.html
→ http://www.434381.jp/26/
さらに言えば、「売」の方も、正字の 賣とは別の字になってしまっている。
いずれも、困ったことだ。
ただ、ひょっとして、とても古い字体で、異体字なのかもしれない。朝日の異体字のように。
→ http://stat001.ameba.jp/user_images/50/ac/10009104453.jpg
とすれば、特に「間違い」というほどではないのかもしれない。
しかし、である。このような差異があることは、読売社説の論旨とは異なる。
読売は、新常用漢字の字体の統一性なんかを主張するより、自分の会社のロゴを、まともな(正規の)正字体に変えた方がいいですね。それでこそ、統一性ないし整合性が取れるというものだ。
ついでに、イヤミを一つ。
読売の社説は、論旨の整合性が取れていない。(理由は前述。)
字体の統一性を取ろう、という馬鹿げたことをするより、論旨の統一性を取ってほしい。そっちの方が、よほど大事だ。
[ 余談 ]
余談だが、「しめきり」の「〆」という字については、下記サイトに説明がある。
→ http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%80%86
→ http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1020178195
【 関連サイト 】
本項には、元ネタがある。昔、私が書いたページだ。
→ 略字侃侃諤諤
関連する話は、ここにいろいろと書いてある。
※ 新常用漢字についての過去記事は、下記のカテゴリから。
→ カテゴリ「文字規格」
※ 次の記述は、すでに述べたことがある。
(1) 「鬱」という字は、難しすぎる。もし採択するならば、略字体(簡易慣用字)の「欝」にしてもいいだろう。
(2) 「鬱」「彙」などのように、画数の多い字は、「書けなくても読める字」の扱いにするといいだろう。常用漢字とは別の扱いにして、常用漢字には採択しないわけだ。(常用漢字は、読めて書けることが必要。)