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経済

原田武夫:米トリビューン社破産と日本マスメディアの暗雲

12月9日11時58分配信 サーチナ


IISIAが読み解くマーケットと国内外情勢

 8日、シカゴ・トリビューン紙やロサンゼルス・タイムズ紙といった米国有数の新聞を発行しているトリビューン社が、米連邦破産法11条による「破産」を現地裁判所に対して申請したことが世界中で静かな衝撃を呼んでいる。とりわけ日本のマスメディア業界に与えるインパクトは測りしれないものがある。なぜなら、今回の破産申請は「有名マスメディアであり、かつ多角経営を行っていても、破たんする企業は破たんする」という冷厳な現実をまざまざと見せつける出来事だからである。「米有名メディアの破産は、所詮“対岸の火事”だ」―――そう考えると、2008年度3月期決算を控え、日本を含む各国のメディアを等しく襲っている大きな「潮目」を完全に読み違うことになる。

 新聞や雑誌といった紙媒体による活字メディアは昨年から今年夏までにかけて急騰した原油価格の煽りを受け、一方で用紙価格の高騰、他方で輸送価格の値上がりという“二重苦”に苦しんでいる。そのため日本では、たとえば去るゴールデンウィーク(5月)明けに販売価格の切り上げを打ち出した有名週刊誌が登場するなど、苦肉の策が相次いでとられている。しかし、値上げは消費者である読者が好むはずもなく、米国発の金融メルトダウンの中で懐が寒くなっている中、読者層がかえって激減するという最悪の事態が生じている。この秋から冬にかけて、有名月刊誌・週刊誌が休刊という名の実質廃刊に追い込まれているのはそのせいだ。現在も発行を続ける某有名出版社の週刊誌などは、1誌だけで昨年度総計15億円もの赤字を計上したと聞くから驚きである。

 もちろん、中身で勝負しようとする雑誌メディアもあるが、そうなると自ずから「より過激なもの」「より刺激的なもの」を求めるあまり、時に薄弱な根拠に基づくスキャンダル報道に走りがちとなる。その結果、名誉毀損に基づく損害賠償請求、すなわち「訴訟」に巻き込まれるリスクが異常なまでに高くなっており、これがまた雑誌メディアにとって重い足かせとなっている。「(訴えられる前に被害者側弁護士から届く)内容証明は勲章だ」などと豪語するテレビでもおなじみの有名週刊誌編集長がいるものの、芸能人化する編集長を尻目に部下である編集者・記者たちはますますやる気を失っているのが現状だ。

 それでは同じマスメディアでもテレビはどうかというと、状況は正に惨憺たるものである。開示されている在京キー局の08年度第2四半期決算がそのことを如実に物語っているが、その原因として業界関係者の間で真っ先に指摘されているのが自動車メーカーによる広告の激減だ。米自動車大手3社(ビッグ・スリー)に対する公的救済だけではなく、日本の大手自動車メーカーも対米輸出の不振で青色吐息になっていることが問題化しつつある中、自動車セクターは全世界でまずは広告費の大幅削減へと乗り出しているのである。これまでの原油価格高騰や温暖化効果ガス削減といった締め付けで、ますます自動車は売れなくなっており、こうした傾向はまだまだ続くものと考えられよう。

 これに追い打ちをかけるように、日本のテレビ業界を11年までに襲うのが「地デジ化」という“潮目”である。地上波デジタル放送への転換が先行している英国では番組登録のために国民一人当たりが年間費やす時間は何と1週間分に相当するとの調査が公表されている。また、来年2月には米国でも「地デジ」への完全移行が達成されるが、そうなった場合、もはやテレビを見ないと答える人が続々と現れているとの調査もある。こうした海外での風雲急を告げる事態を見て、日本のテレビ業界は正に戦々恐々だ。10年度には各社共に赤字への決定的な転落が必至とみられているだけに、インターネットへのコンテンツ提供や、映画やイベントの主催など、本業ではない「放送事業外収入」という別腹を満たそうと躍起になっている。だが、それがまたテレビのエンタメ化を過度に進めてしまい、視聴者離れを進めてしまうという逆効果を招いている。

 総務省によれば、日本人を取り巻く情報量は04年の段階で10年前(1994年時点)と比較すると実に400倍になっている(平成17年度情報流通センサス調査)。その後のブロードバンド普及を加味すれば1000倍近くなっている可能性がある。つまり、日本人は今、情報化社会ならぬ、情報“過”社会に生きているのだ。本来であれば、だからこそ情報を濾過してくれるマスメディアがより求められるはずなのだが、とりわけ日本の大手マスメディアはいずれも「潮目」を読み違い、収益を極端に悪化させ続けている。

 「08年度3月期決算は果たしてどうなるのか」―――マスメディア業界では今、密かにその話で持ち切りである。米トリビューン社とならんで、日本ではどのメディアが真っ先に「破たん」の憂き目にあうのか。目が離せない。(執筆者:原田武夫<原田武夫国際戦略情報研究所(IISIA) CEO>)

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最終更新:12月9日11時58分

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