◎「地方振興局」創設 論議が進むとは思えない
政府の地方分権改革推進委員会の第二次勧告に盛り込まれた国出先機関の統廃合による
「地方振興局」などの創設は、中央省庁の根強い抵抗や政治のリーダーシップが期待できそうにない現状を考えれば、看板の掛け替えにとどまる危惧を抱かざるを得ない。
石川、富山県と国土交通省との国道、河川の移譲協議をみても国の権限が地方に移った
とは言い難い。財源や人員を手当てする論議が先送りされたままでは県が及び腰になるのも無理はないだろう。
分権委は今後、財源移譲や職員移管の手順を検討する予定だが、それらの道筋が明確に
示されない限り、新たな組織構想も絵に描いたモチに過ぎない。今の状況は分権委がどれほど懸命に旗を振っても、論議を前に進める環境が十分に整っているとは思えない。
分権委の第二次勧告は、地方整備局や農政局など六つの国出先機関の企画部門などを「
地方振興局」とし、府省を超えた総合的な出先機関に統合することを大きな柱に据えた。さらに整備局や農政局などの公共事業の実施部門については「地方工務局」を設け、両局は内閣府の機関になる。
国の出先機能を最低限残す必要はあるだろうが、今回の勧告では統廃合の結果、組織が
どの程度、縮小されるのかはっきりしない。出先機関で現在行われている機能の多くが残り、組織再編による単なるスリム化にとどまるなら、地方の権限を大幅に拡大し、二重行政も解消するという分権の本旨には沿わない。
国道と一級河川については、国交省と都道府県との間で個別協議が進められた。国交省
が示す移譲範囲を超えて権限拡大を主張する知事もいれば、財源移譲の道筋が不透明であるために腰が引ける自治体もみられた。石川県では国が提案した梯川(小松市)について堤防の未整備区間の多さを理由に移譲を見送り、国道にしても部分的な受け入れにとどまった。
国と地方に調整を委ねる従来の手法には限界もみえる。地方分権改革を腰砕けに終わら
せないためにも、新たに浮かび上がった課題を整理し、議論の進め方から考える必要があろう。
◎食料自給率50%目標 企業の農業参入がカギ
農林水産省が、現在40%の食料自給率を約十年後に50%に引き上げる政府目標達成
のための工程表を発表した。コメの消費拡大や小麦の大幅増産が柱になっているが、最も肝要なことは目標を実現できる「食料自給力」の向上であり、一般企業の農業参入が一つのカギを握っている。
農業の規制緩和で近年は一般企業の農業参入が増えている。いわゆる農地のリース方式
で農業を始めた株式会社などの法人数は九月一日現在、全国で三百二十法人を数え、北陸では富山県六法人、石川県五法人となっている。石川では先ごろ白山市に工場建設を表明した食品製造会社が農業参入の意欲を示したが、こうした動きが地域に広がり、定着することが食料自給力の確保と自給率目標の達成に欠かせない。
各自治体は一般企業の農業参入を積極的に後押ししている。しかし、貸付対象の農地は
主に耕作放棄地で市町村が指定した区域に限られている。要するに条件のあまり良くない農地が多いことから、参入に二の足を踏む企業があるという。このため政府は来年の通常国会で農地法を改正し、企業の農地借り入れを原則自由にして農業参入を促すことにしている。
農地の「利用」を促進する狙いで、二十年以上の長期賃貸借も認める方針である。耕作
者自身が農地を「所有」して農業を行うという「自作農主義」の理念を根本的に改めるもので、実現すれば戦後の農地制度の大転換となる。
ただ、農業関係者らの間では、株式会社の農業参入に抵抗感が根強く残っている。今後
、企業参入が狙い通りに進むかどうかは、制度の大転換を農家が受け入れ、参入企業との連携に前向きに取り組めるかどうか、農協も含めた地域と企業、そして行政の三位一体の協力関係をうまく築けるかどうかにかかっているとも言える。
また、既に農業参入を果たした企業の多くは経営規模が小さく、ほとんどは赤字である
。まだ試行錯誤状態の先行企業の経営安定と規模拡大も大きな課題であり、各自治体は事後の支援の在り方も研究してもらいたい。