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社説:6カ国協議 「サンプル採取」を明文化せよ

 北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議の首席代表会合が北京で始まった。7月以来5カ月ぶりの開催であり、核廃棄への前進に期待したいところだが、心配の方が先に立つ。来年1月20日で任期の切れる米ブッシュ政権が成果を残すことに執着し、北朝鮮の術中にはまらなければよいが、という懸念である。

 米国は10月、北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除した。ヒル国務次官補の訪朝の際、核関連物質のサンプル(試料)採取を含む「北朝鮮の有意義な協力を示す一連の検証措置」に合意できたからだと国務省は説明した。

 ところが北朝鮮は11月、そんな合意はしていないと「暴露」した。実際には何らかの口頭了解があったのだろうが、文書化されていないから北朝鮮は強気だ。合意した検証措置は「現場訪問、文書確認、技術者との面会」だけだと言い張っている。

 この3種類の手段は7月の6カ国協議での合意内容と同じだ。しかもこの時の発表文には、追加の検証措置について「全会一致」の合意が必要だと書いてある。北朝鮮が拒めば実現しない。口約束では、公開された文書に対抗できない。ヒル次官補の交渉が甘かったと言わざるを得ない。

 本来ならば、米国はテロ支援国家指定解除を撤回してもよい状況である。しかし、ライス国務長官は今回6カ国協議の開催予定を早々と公表した。議長国・中国の体面への配慮を欠くフライングだった。寧辺(ニョンビョン)の核施設の無能力化だけでもブッシュ政権下でメドをつけたい。そんな願望が前のめりの姿勢につながったとしても不思議ではない。

 今回協議を前に、日米韓3国の首席代表は東京で会い、確実な検証を実現できるような文書を作ろうと合意した。これを受けてヒル次官補はシンガポールで北朝鮮の金桂冠(キムゲグァン)外務次官と会談したが、はかばかしい結果は得られなかった。

 北京での交渉の焦点は、何よりも「サンプル採取」を文書に盛り込めるかどうかだ。これは核兵器に使うプルトニウムの抽出量を追跡できる手段である。北朝鮮がいつまでも拒否するというなら、核廃棄の意思を信じることはできない。

 特に日米韓が協調して、このサンプル採取を合意文書に明記させるのが望ましい。しかし北朝鮮は激しく抵抗するだろう。既に米韓の交渉関係筋の間では「科学的な手続き」といった文言で妥協したり、非公開の付属文書を作るといった打開策が取りざたされているという。

 北朝鮮がレームダック化したブッシュ政権の足元を見透かしているのは明らかだ。米側は駆け込みの成果を求めて将来の重荷になるような譲歩をしてはならない。重大な欠陥のある合意よりは、次期オバマ政権に仕切り直しを任せる方が賢明である。

毎日新聞 2008年12月9日 東京朝刊

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