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社説:国の出先見直し 看板の掛け替えで終わらすな

 苦渋の半歩前進とでも評すべき内容である。分権改革の焦点である国の地方出先機関の見直しについて政府の地方分権改革推進委員会が勧告をまとめた。見直しの対象とした408項目の業務のうち116項目で地方への移譲などを求め、21万人の職員のうち約3万5000人の削減を数値目標として掲げた。国土交通省地方整備局など、各省の出先機関を地域ブロックごとに統合する再編案も示した。

 麻生太郎首相が一部機関の原則廃止方針を示していたが、中央省庁の激しい抵抗を反映し、実態としては国の出先がほぼ存続する内容だ。それでも政府は最低限、勧告が求めた数値目標を実現しなければならない。一方で、出先機関の統合は分権の流れに反する国の新たな拠点を地方に生むおそれがある。人員の地方移譲などスリム化を優先し慎重に検討すべきである。

 国家公務員32万人のうち出先機関の職員は21万人を占める。自治体との業務の重複による二重行政や、国会や住民の監視が届かず無駄遣いなど規律の緩みを生みやすい弊害がある。このため、一連の分権改革の本丸と位置づけられていた。

 見直しの俎上(そじょう)に載せた8府省15機関の出先職員約9万5000人のうち、分権委は地方に2万3100人を移し、行革で1万1500人を削減する試算を示した。約2万2000人を擁する整備局をはじめ北海道開発局、農水省地方農政局など焦点となる6機関の職員5万人のうち、勧告が完全に実施されても約3万人は国の出先機関に残る。国道、1級河川管理などの業務の地方への移管が難航し、抜本改革に至らなかったというのが実情だろう。

 整備局や農政局など出先を地域ブロックごとの「地方振興局」などに再編する構想も現段階で認めるわけにはいかない。ホチキスで各省の出先をつないだような組織を急いで作っても、人員のスリム化が担保されないままでは大きな国の拠点となる。地元自治体との協議会を置くことで分権委は理解を求めるが、どこまで機能するかは未知数だ。統合については将来の道州制につなげる布石とも説明している。だが、それならば地方に組織や権限を移してから都道府県を再編するのが筋だろう。

 勧告について分権委は整備局などの「廃止」方針を打ち出したと説明する。しかし、看板を掛け替えても、それは当然ながら廃止ではない。どれだけの権限、財源、人員が実際に自治体に移るかが、分権の評価基準たるべきだ。

 麻生政権の求心力の急速な衰えが中央省庁を強気にし、勧告への逆風となったことは否定できない。政権の足元を見た官僚や族議員がさらなる骨抜きに動くことは明らかだ。3万5000人削減を軌道に乗せることが、首相に課せられた最低限の責務である。

毎日新聞 2008年12月9日 東京朝刊

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