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低迷していた麻生内閣の支持率が急降下した。朝日新聞の世論調査では22%、読売新聞、毎日新聞ではともに21%。逆に不支持率はどの調査でも6割前後に跳ね上がった。
朝日新聞の調査では、麻生首相に実行力があるとは思わないという人が68%に達した。麻生氏と小沢民主党代表のどちらが首相にふさわしいかの評価も、小沢氏に逆転された。相当な不信感の広がりである。
いま、政治が立ち向かわねばならない最大の課題は何か。押し寄せる世界的な不景気の大波から、国民の暮らしや経済を守っていくことだ。
そのためには、ふたつの選択肢がある。ひとつは、衆院の解散・総選挙による「政治空白」を避け、補正予算案を通したり、来年度の当初予算案を編成したりして緊急対策を急ぐことだ。もうひとつは、危機だからこそ、一日も早く総選挙で日本の政治を仕切り直し、必要な施策を実現できる強力な態勢をつくることである。
麻生首相は前者の道を選択した。解散を先送りして、就任以来2カ月あまり、定額給付金などの対策づくりに取り組んできた。その評価が今回の世論調査にあらわれたと見るべきだ。
朝日調査で、これまでの首相の仕事ぶりについて「期待外れだ」「もともと期待していない」と答えた人が合わせて8割を超えたのは象徴的だ。まさに落第ということである。
3社の世論調査とも、早期の総選挙を求める声が多数を占めた。やはり総選挙で政治を刷新しない限りこの危機には対応しきれない。世論はそう感じている。雇用などの急速な悪化が不安と不満を膨らませているのだろう。
自民党内にも、公然と首相を批判する声が出始めた。新しいグループを旗揚げする動きもある。こんな状態で予算案づくりや税制改正などの仕事をこなせるのか、疑問に思えてくる。
首相にひとつ提案がある。
年明けの解散を約束し、それと引き換えに、野党に第2次補正予算案への協力を求めることだ。
野党がこぞって反対する定額給付金は撤回せざるを得ないかもしれない。だが、中小企業の資金繰り支援や雇用のセーフティーネット整備など、野党も賛成できる緊急対策はある。
それを実現させたうえで、総選挙で与野党が経済対策を競い合う。選挙後は、その民意に基づいて敗者は勝者の案の実現に協力する。来年度予算の成立が少し遅れたとしても、政治が対応力を回復することこそ有権者は望んでいるのではないか。
永田町では、首相交代論や政界再編論もささやかれている。だが、政治が混乱すればそれこそ「空白」が長引くことになる。首相はこの行き詰まりを打開するために決断すべきだ。
5カ月ぶりの6者協議が北京で始まった。北朝鮮の核問題の解決をさぐって5年余り続く協議だが、今回はこれまでにない意味を持っている。
というのも来月、米国で共和党から民主党へと政権が交代するからだ。おそらくこれがブッシュ政権下では最後のラウンドとなるだろう。
6者協議は、北朝鮮に核を断念させることをめざす唯一の国際的な枠組みだ。オバマ米次期政権も、これを維持し活用する構えでいる。
課題ははっきりしている。いま最低限でもできることを実行に移し、次のラウンドにつなげることだ。
オバマ政権が発足しても、スタッフをそろえて本格的に動き出すまでかなりの時間がかかる。それだけに、この協議がいっそう大事になってくる。
ブッシュ政権は2期目の半ばまで強硬路線に走り、北朝鮮の核実験を阻むこともできなかった。対話へと大きくかじを切ったのは昨年初めである。
それが6者協議の一連の合意につながった。プルトニウム型の核兵器開発の主な施設を封印する初期段階の措置に続き、それらを使えないようにする無能力化の作業が進行中だ。
無能力化と見返りの経済・エネルギー支援という第2段階の措置は、本来10月末までに終えるはずだったが、米朝の相互不信もあって遅れている。
まずなすべきことは明白だ。第2段階をできるだけ早く完了させる新たな合意を導き出すことだ。
米韓などには、拉致問題が進展しないのを理由に支援に加わらない日本への批判もある。合意達成には日本も積極的にかかわっていきたい。
北朝鮮が出した核計画の申告が不十分だったため、申告内容を厳しく検証していくのも大切だ。その方法を今回の協議で詰めなければならない。
施設での試料採取を検証方法の文書に明記するかどうかについて、溝は深い。北朝鮮がどれだけプルトニウムを抽出したかの究明に試料採取は欠かせない。北朝鮮には何回も裏切られてきただけに、口約束ではない確実な保証を取らねばなるまい。
さらに、先送りされている重要な問題がある。申告されていない核施設を調べることや、ウラン濃縮と核技術拡散の疑惑解明、そして肝心かなめの核兵器を実際に廃棄させることだ。
これらはオバマ政権下で取り組む重い課題になる。
過去、クリントン民主党政権で米朝関係が好転したこともあり、北朝鮮は「オバマくみしやすし」と高をくくっているかもしれない。
だがそうはなるまい。クリントン政権時の米朝枠組み合意は、北朝鮮の新たな核疑惑で崩壊した。オバマ次期政権の外交チームが、その苦い経験を忘れるはずはない。