2008年12月08日

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

 
 
自分でつけた記事のタイトルからして、
味の素スタジアムのことを書きたいと思っています。
素晴らしいスタジアムだし、You’ll never ~だって歌ってる。
 
 
だけど、そうじゃない。
 
 
2008年12月6日――。
 
 
12時。新木場駅で京葉線に乗ると、同じ車両に
青と赤をあしらった衣服やアイテムを装着する僕の同胞が5人いた。
それについては、別に何とも思わないのだが
腑に落ちないのは新浦安を過ぎても、西船橋を過ぎても、
海浜幕張を過ぎても、黄色を纏った人たちが皆無だったことだ。
フクアリへ行くのが初めてだったので、
そういうものなんだろうなぁ、と自分の中で処理した。
 
車窓から覗く街並みが、工業地帯丸出しの様相を呈してきた。
本当にこんな所にサッカースタジアムがあるのか、
と不思議に思っている間に蘇我駅に着く。
ふと、野暮用で市原臨海競技場に行った時のことを思い出した。
5年前、市原駅のロータリーに降り立った時、
そこにサッカーの匂いは微塵も無かった。
都心から電車で1時間以上。
「へぇ東京から来たの。競技場で何するの?陸上の大会?」
タクシーの運転手の言葉には度肝を抜かれた。
幸い蘇我ではジェフィとユニフィ、サッカーボールが出迎えてくれたので
失望することはなかったが。
 
 
「千葉が一番嫌がるのは今ちゃんの1トップじゃないか」
「試合終わったら他会場の結果をオーロラビジョンに出すらしいよ」
相変わらず僕の周囲は青赤に身を奉げた者たちがほとんどで、
他愛もない会話に花を咲かせている。
 
それにしてもスタジアムは、輪郭さえ見えてこないが、
代わりに発見したセブンイレブンで暖でもとろうかと思っていた矢先――。
 
 
「オーーーー、オーーーー、オーーーー」
頭の先からつま先まで電気が走ったようだった。
コンビニに目もくれず進んだ先で、やっと姿を現したフクダ電子アリーナからは
千葉サポーター以外の何者でもない歌声が響いていた。
どうりで周りに同胞しかいないわけだ。
 
キックオフまで1時間半。
FC東京サポーター失格だろうか。
と言うか、管理人の涙腺は一般の平均より脆い。
熱くなった目頭を抑えようと下を向いたら、そこにもジェフィとユニフィがいた。
 
 
自分はFC東京サポーターだが、日本サッカーサポーターでもあるのだし。
 
 
キックオフ30分前。
東京サポーターがウェーブを起こそうとしていた。
しかし、アウェーゴール裏スタンドから発生した波は、
メインスタンド中央にも満たないところで消えてしまった。
ならばと、東京サポーターは波を逆方向に向けて場内に回そうとするが
今度はコーナーフラッグを少し過ぎた辺りのバックスタンドで止まってしまった。
フクアリの約9割を占めたジェフサポーターは
ひたすら同じ言葉を連呼していた。
それは彼らだけの世界だったのではなかろうか。
 
 
だがジェフ千葉のサッカーは、サポーターの素晴らしさに比例しなかった。
攻撃は単発。ミシェウには存在感が希薄で、
負傷明けの深井にはいつものキレがない。
1トップの巻と右サイドのレイナウドに攻め手を見出そうとするが、
羽生、長友らの献身的なブロックによって押し返されていた。
彼ら2人に今野、浅利を加えた効果的なビルドアップで
徐々に主導権を握った東京は前半39分、
CKからカボレがヘディングを決めて先制。
僕はというと、いつものようにシブガキ隊のチャントに心を躍らせる。
東京のリードで前半終了。名古屋と川崎が引き分けているので
この時点ではACLには手が届かない。
千葉サポーターはずっと叫んでいた。
そういえば彼らは東京の22番にブーイングさえしなかった。
「俺たちのナオタケー!」と歌っていたのはアウェーゴール裏だった。
 
 
僕が東京の勝利を確信したのは
後半8分に長友が追加点を決めた事がきっかけじゃない。
確か後半25分過ぎのシーンだったと思う。
東京のロングボールがDFラインを通過して、
ゴールラインを割ろうしていた。
ボールに働きかけようとする千葉の選手はいなかった。
だがピッチにいた22人の中で、ただ1人、
大竹だけが猛然とダッシュすると、ゴールラインぎりぎりの所で
ボールをすくい取り、ダメ押しの3点目を奪うべくゴールへ突進した。
決定機にはならなかったものの、僕は思った。
今の千葉の反応は酷い、これはJ2へ落ちるチームのするプレーだ、と。
 
 
だから、その数分後に新居が一矢報いても何とも思わなかった。
他会場はどうなっているのか。
1本しか立たない携帯の電波と悪戦苦闘していた。
後半30分近くまで、それぐらい東京が主導権を握っていたから。
 
 
新居のゴールから3分後、巻の身体を張ったプレーから谷澤が同点弾。
携帯をいじる手が止まった。
後半15分ぐらいで「5-0もあるな」と思っていたのが
恥ずかしいったらありゃしない。
でもそれだけでは終わらなかった。
火がついた黄色の戦士たちは、さらに3分後、
レイナウドが今野からPK獲得となるファウルをもぎ取る。
僕は似たようなシーンを数年前に見たことがある。
Jリーグの場面ではない。欧州最高峰の舞台。
 
 
2005年5月のイスタンブールで、
ジェラードがガットゥーゾに倒されて得たPKを、
シャビアロンソは1度ジーダに阻まれたが、自らそのこぼれ球を押し込んで
3点のビハインドから同点に追いついた。わずか6分で。
レイナウドがシャビアロンソと違ったのは、
塩田の逆を突いてPKをすんなりとゴール右隅に決めたことだった。
公式記録は後半35分。新居のゴールから6分後の逆転弾だ。
 
「WIN BY ALL」 と叫び続けたジェフ千葉がリバプールと違ったのは、
その5分後に谷澤がもう1点追加したことだった。
イスタンブールで失態を演じたミランのアンチェロッティ監督が
「何が起こったのか分からない」 といった類のコメントをした気持ちが理解できる。
我らの城福監督は「2点リードしてDFラインを上げるのか、下げるのか、
その判断が巧く出来なかった」 とある程度の原因を掴んではいたのだが。
 
 
試合が終了すると、すぐに味の素スタジアムの様子が
オーロラビジョンに映し出された。
「東京V 0-2 川崎」 のスコアに、フクアリが黄色く揺れた。
さらに磐田が大宮に敗れたとの一報が入ると、
東京のウェーブ攻撃にも屈しなかった千葉サポーターの全てが爆発した。
 
 
自分には、Jリーグの試合で涙腺を破壊された記憶がまだ無かった。
まさかそれが味スタでなくフクアリだとは。ほんの少しとは言え。
 
 
確かに今季、千葉の戦いは低調の一途で、
J2降格もやむなし、という状況だった。
東京に加入した羽生を始め、主力選手の流出を防げず、
クゼ前監督の采配もチームにフィットしなかった。
前述のリバプールFCからやって来たミラー新監督は再建を図ったが
それでもリーグ終盤に来て勝ち切れない試合が続き、最終節での
逆転残留は 「奇跡」 という単語で飾らなければならない状況だった。
12.6を迎える以前に、取れる勝ち点を稼いでおけば、
こんな苦労をすることはなかったはずだ。
 
 
言うまでもなく、千葉がいたのは 「優勝争い」 ではなく 「残留争い」 だ。
ただ、例え残留争いであっても、12.6は伝説の試合となるだろう。
10年先も20年先も、「奇跡」 という言葉で彩られ続けるだろう。
もちろん、この奇跡を呼び込んだのはフクダ電子アリーナである。
千葉は 「日本のアスレティック・ビルバオ」 と思っていた僕だが、
どうやら違うようだ。
「日本のリバプール」 とは言わないまでも、
フクアリが、アンフィールドになる可能性が無いとは言えない。
 
 
 
来る時とは打って変わって、
家路につく僕の周りには千葉サポーターしかいなかった。
「川崎や東京との試合は、本当に打ち合いになるよね」
「東京戦は、過去にも0-3から追いついた試合もあったんだよ」
他愛もない話に花を咲かせている。
僕の前には背番号18を背負ったサポーターが歩いている。
本物の背番号18は、
この試合ゴールこそ無かったものの、前線で身体を張り続け
後半40分過ぎにはセンターバックと化して平山に睨みをきかせていた。
感服に値する。
 
 
 
 
今回、改めて知らされたことが2つ。
 
 
一つ、サポーターは量も大事だが、それよりも何よりも質である――。
 
一つ、だからサッカーはおもしろい――。
 
 

posted by tacleau7 |16:40 | ■ Jリーグ/国内サッカー | コメント(10) | トラックバック(0)
みんトピに投稿 このエントリをlivedoorクリップに登録 このエントリをはてなブックマークに登録 newsing it! このエントリを Buzzurl に追加

トラックバックURL
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.plus-blog.sportsnavi.com/takuro7/tb_ping/105
この記事に対するコメント一覧
(事務局では、サービス全体の雰囲気醸成の為、全コメントをフィルター/目視チェックし、削除等しております。見逃し等も有りますので、ご不快な思いをされた場合は、事務局宛 support@plus-blog.sportsnavi.com にご意見頂けると幸いです。)
アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

ジェフサポです。
俺は、このブログに涙腺を破壊されそうになりましたよ。
素敵なエントリーをありがとう!

posted by ありがとう | 2008-12-08 17:28

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

銘文です。
ずっとジェフサポでしたが、試合参戦は今シーズンが初、そしてサッカーで泣いたのも初、ブログを読んで泣きそうになったのも初です。
こんなにサッカーが、サッカーに関わるものが面白かったなんて気付かなかった。

posted by Orb | 2008-12-08 17:40

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

バーロー!    すげえいい内容すぎて感動しちまったよ! 

ちなみにサッカーで泣いたのはカンプノウの奇跡以来だった。

posted by パパス | 2008-12-08 20:20

Re:アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

お邪魔します。 埼玉の赤いところのサポであり、同じく日本サッカーサポです。
こちらの記事を読んで私も目頭が熱くなりました。

そして、最後に書かれてあるひとつめの言葉、胸に痛み入ります…
今年は激動のリーグ戦でしたが、また来季、どんな感動が待っているのか楽しみです。

posted by 赤ぷる子 | 2008-12-08 21:11

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

素晴らしい文章ありがとうございました。瓦斯サポの方もこんなに感動されてるなんて思いもしてませんでした。はるばる蘇我までお疲れ様でした。来年も是非フクアリへ!

posted by ヴァレンティーノ・パスクチ | 2008-12-08 22:08

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

このBLOGを読み、思い出して泣いているところです。
本当に感動する試合でした。

来年も、負けませんよ!
パワーUPするフクアリに、また来て下さい。

posted by しばっち | 2008-12-08 22:25

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

現地で参戦した東京サポです。

最後巻選手の挨拶の時には不覚にも同じく涙が出ました。悔しくてたまりませんでしたが、千葉の選手達には拍手を送らずにはいられませんでした。

そして千葉サポの素晴らしさ。。
たしかに羽生の選手紹介のとき、ブーイングひとつしなかった事には感服でした。

なんだかんだ、千葉サポさんが他サポ達から愛されている理由が分かった気がします。

posted by 下高井戸 | 2008-12-08 22:35

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

すばらしい文章ですね。
また、すばらしい試合でしたね。

それぞれのチームのサポであると同時に
日本サッカーサポーターという
サッカーを愛する気持ちに違いはないのだという主張には
心から同意します。

posted by yokopi | 2008-12-08 23:05

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

はじめまして。ジェフサポです。

>本物の背番号18は……センターバックと化して平山に睨みをきかせていた。
 感服に値する。

ここまで読んで、あの時の彼の表情を思い出し、涙が出そうになりました。
足元の技術が無いと批判される18番ですが、彼の強い気持ちは何物にも代えがたいジェフの武器だと思っています。
そんな彼に対して「感服に値する」は、最高の褒め言葉です。
良い文章をありがとうございました。

posted by 通り雨 | 2008-12-09 00:28

アンフィールドを超えていけ ~千葉×FC東京~

いや~、試合もさることながら、文章も読みやすくて、
この間の興奮が蘇る感じがします。
負けた側ですが…。
ただ、同じチームのサポーターのことを同胞って言うのはちょっと…。
なんか隣の国の民族団結思想っぽいので、あまりお勧めできないような気がします。

posted by okk | 2008-12-09 01:16

コメントする