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キリンが逆立ちしたピアス このページをアンテナに追加 RSSフィード

G★RDIASでも書いてました。

2008-12-07

[]リアルのゆくえしれず

 東さんの歴史認識について、ネット上で論争が起きていたらしい。*1そして、以下で、東さんが補足として歴史認識について書いている。

東浩紀「歴史認識問題についていくつか」『渦状言論』

私は「4.付録」を読んで「あー、そうなんや」と思ったのだけれど、ブックマークを見ている限り、多くの人は反感を持ったらしい。

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.hirokiazuma.com/archives/000465.html

私はかねてから東さんの発言について、「なんで南京大虐殺?」という疑問があったので、とりあえずその謎が解けて良かった。話の内容自体、当時の熱意ある若者*2だった人の証言として面白かったし、もう少し聞きたい感じだ。

 あとの東さんの「どんな醜悪な意見であっても耳を傾けろ」は原理論としては理解できる。やっぱり、南京大虐殺がなかったと断言するひとであっても、それを理由に投獄されたりしてはいけないと思う。*3だから「南京大虐殺がなかったと考えるなどとんでもない」とは言わない。けれど、人間の耳というのは、うまくできていて、本当に聞きたくないことは、聞こえない。だから、私が「南京大虐殺がなかったと断言するひと」の声は聞きたくないにもかかわらず、「ポストモダニズム系リベラル*4であろうと努力して、「南京大虐殺がなかったと断言するひとの声に耳を傾ける、少なくともその声に場所を与える」ことにしても、私には「南京大虐殺がなかったと断言するひと」の声は届かないだろう。正確にいえば、私に言葉は届くだろうかが、声は届かない。たぶん、そういう事態が起きるだろう。

 こういう事態は、現在進行形でよく起きている。慰安婦の証言集会が良い例だろう。彼女たちは声をあげている、そしてその声に場所は与えられている。けれど、彼女たちの声は、届いていない(ように彼女たちには感じられる)。「場を与える」という問題ではないところで、私は歴史認識をめぐるトラブルは起きているように思う。(もちろん、トラブルという言葉は否定的にだけ使っているわけではない)それで、どうしたもんかと、私はずっと考えている。

 私は「慰安婦はいたと断言するひと」と「慰安婦はいなかったと断言するひと」との間の、これまでの論争は重要だったと思う。が、これから先、必要なのは、国家の公的機関による歴史の実証的調査だろう。「慰安婦が強制だったか否か」「謝罪すべきかどうか」ではなく、「誰に何が起きたのか」を明らかにすべきである。そういう意味では、私は東さんの「歴史家じゃない人が、論争しても泥沼化するだけ」という主張は、これから先の歴史認識をめぐる問題を解決するに向けて、押さえるべき点だとは思う。この問題がナショナルヒストリーの問題である以上、国家がでばってくるしかない。

 一方で、では泥沼の中で起きていることを見ることも重要である。歴史認識をめぐる問題では、歴史認識以外の問題もそこで湧き出てきている。それは派生的に出てきた問題だとしても、それだけで取り上げるに値する問題だろう。具体的に、私が何をしようとしているのか、というのはあまり言えないので、こうしたウジウジした書き方になってしまう。けれど、一筋縄でいく問題でもないだろうから、こうしてウジウジ考えるしかないように思う。

追記

 ブックマークコメントで、id:toledさんの記事を紹介してくださった方がいます。(大変長いです。)

永遠の嘘をついてくれ

この問題に、私は向き合うべきだそうです。私の記事との関連はよくわかりませんでした。ので、単なる感想です。「無知への逃避」を好んで、「嘘」に酔いたがる人がいることはわかります。ただ、私がいつも危惧するのは、その中には必ず「マジ」の人がいることです。そして、良きにつけ悪きにつけ、また、独裁者にしろ革命家にしろ、ことを起こすのはいつも「マジ」の人です。それに煽られる「大衆」を批判することも大事なのですが、やっぱり私は「マジ」の人のすさまじさに関心を持ちます。

*1:私は、id:toledさんのネタ記事(だと思っていた)しか読んでませんでした。

*2:東さんの世代で、こうして歴史的遺物を見て回ろうと考える人は、いまよりずっと少なかったと思う。それに、自分が今年の夏に実際にポーランドに行くことを、検討していて挫折したところだから、東さんが「実際に行ってみろよ」という気持ちはちょっとわからなくもないです。コストかけてみろよ、って言いたい気持ちは。

*3:日本だと、天皇制を合法的に批判するとたまに(はめられて)投獄されることがあるらしいけど。

*4:別にこんなアイデンティティ持ってないですけど。

ApemanApeman 2008/12/08 09:34 一つお尋ねしたいとおもいます(本当は東氏にも問いたいことなのですが)。

>コストかけてみろよ、って言いたい気持ちは。

ある見解が広まるプロセスが「伝言ゲーム」であらざるを得ないのはネット以前も以後も同じですし、いまのネットでは簡単に否定論者になれるのと同じくらい簡単に否定論批判者としてふるまえる、というのは事実でしょう。私自身もその伝言ゲームの列の、平均よりは前の方にいるに過ぎません。
しかし、少なくとも伝言ゲームの先頭の方で、「専門家」でもなんでもない人びとがどれほどの「コスト」をかけたのかを具体的にご存知なのでしょうか? 「専門家」ですら手をつけていないことにとりくんでいる人だっているのですが。

ApemanApeman 2008/12/08 10:08 失礼。「一点」じゃありませんでした。

>が、これから先、必要なのは、国家の公的機関による歴史の実証的調査だろう。

これは具体的にはどのような「調査」を念頭においておられるのでしょうか? もちろん過去の研究史をふまえてのご提言ですよね? また右派が「河野談話」「村山談話」を目の敵にしていることから明らかなように、「公的機関による(……)調査」の結論に激しく異議を唱え続けるであろうことも織り込んだうえでのご提言なんですよね?

font-dafont-da 2008/12/08 11:21 >APEMANさん

コメントありがとうございます。私はこの騒動の全体像がわかってないので、文脈的にトンチンカンだったらすいません。
「専門家でない人がコストを具体的にどれくらいかけているのか、わかるのか?」という問いに愚直に答えるなら「人によってマチマチすぎて量りようがない」ということになると思います。コストをかけている人もいればいない人もいるでしょう。
ただ、この騒動に関しては(ROM専を含めた)圧倒的に多くの人はコストをほとんどかけず、東さんの本すら買わず(読まず)に批判しているように思います。私も含めた若い人は特に。だから、「気持ちはわかる」と書きました。
あと、現場に行ってみるって本当に大事だと思うんですよ、私も……そこで生きられている/いた時間を体感するともののみかたって激変するから、やっぱり私も若いうちにいろんなところに足を運びたいと思っています。物見遊山だし、気恥ずかしい気もするんですけど……。いや、現場主義がもたらす害は本当に多いとも思ってるけど、「素朴に行ってみる」ことの価値はやっぱり否定できないです。
うーん、だから、私の主義主張というよるは「私たちは若いんだからネットだけにこもっちゃまずいんじゃないか」言いたくなるという気持ちが……こういう言説って、他人に言われると腹立つんだけど、やっぱり私の中にもあります。

font-dafont-da 2008/12/08 11:56 二点目については、何を踏まえた上ということになるのでしょうか?
私は1993年の一次調査と二次調査があり、それが河野談話につながった、というくらいしが知らなくて、確かに無知なのですが……私も研究者の受け売りで言うのですが、二次調査では「強制であったかどうか」に焦点が当てられたと聞きます。もちろん、補償をするか否かをみきわめる、という目的が先行していたからです。
それから、15年たち、状況も大きく変わりました。その間、台湾人の元慰安婦たちが何度も裁判を起こそうとしていますが、棄却されています。また、日本人の元慰安婦の問題も指摘されるようななりました。
私は吉見義明さんが提起する、「性暴力が起きるシステム」として慰安所が作られた経緯を明らかにする目的での調査が必要ではないかと思っています。
同時に、元慰安婦への聞き取り調査の実施者にお金をだしたらどうかと思うんですが…私の若い友人たちは、無給で聞き取り調査を実施しています。こうした研究こそ、報われて欲しいと思います。コストどころかリスクを負った研究ですので…
右派についてはよくわかりません。NHKの件は腹立たしいですが。権力がからむと本当に怖いですしね。以前、西野留美子さんが「命がけです」とおっしゃっていて「西野さんが言うとシャレにならんなあ」と思いました。
こんな感じでいいでしょうか。

toledtoled 2008/12/08 20:03 ウホッ!
font-daさん、読んでくれてありがとー! kmiuraさん、紹介してくれてありがとー。

ApemanApeman 2008/12/09 00:07 お返事ありがとうございます。

>「専門家でない人がコストを具体的にどれくらいかけているのか、わかるのか?」という問い

私の質問は違います。「伝言ゲームの先頭の方で」と限定してのことです。font-daさんが「どのへんに先頭があるか」をご存知なのかどうかも含めての問いですが。

ちなみに「コストかけろよ」という「気持ち」ならネットで疑似科学批判活動を展開している人間や、歴史修正主義批判を展開している人間も共有していると思いますよ。東氏が南京事件論争の実態を知るためにどれほどの「コスト」をかけたのかにも関心をもっています。

>あと、現場に行ってみるって本当に大事だと思うんですよ、私も……

記念館を「現場」とみなすのはずいぶんと素朴だと思うのですが、いかがでしょうか。

>私は1993年の一次調査と二次調査があり、それが河野談話につながった、というくらいしが知らなくて、確かに無知なのですが……

私は文脈上、当然南京事件のことを念頭において発言されていたと思っているのですが、違うのでしょうか?

ApemanApeman 2008/12/09 00:17 まわりくどいことはやめて単刀直入にうかがうなら、
http://www.geocities.jp/yu77799/
http://www.geocities.jp/pipopipo555jp/
http://members.at.infoseek.co.jp/NankingMassacre/
http://www.nextftp.com/tarari/index.htm
http://nagoya.cool.ne.jp/whitecray/
http://t-t-japan.com/bbs2/c-board.cgi?cmd=tre;id=sikousakugo
http://www24.atwiki.jp/ja2047_memorial
あるいは上記サイトの作成者の方々が中心になって作成した
http://wiki.livedoor.jp/nankingfaq/d/FrontPage
といったサイトをご存知かどうか、これらのサイトを構築するためにどれほどの「コスト」がかかるかご想像がおつきになるかどうか、それをふまえて「コストかけろよ」とおっしゃっているのかどうかを知りたいのです。

gensyougensyou 2008/12/09 02:07 はじめまして。
私はtoledさんのエントリの「無法者」を、一種の「マジ」の人として読んだんですが。どうでしょうか。

font-dafont-da 2008/12/09 07:20 >Apemanさん

URLのリストをありがとうございます。またみてみます。東さんと共有できる気持ちがあるなら、分かち合えたらいいですね。

>記念館を「現場」とみなすのはずいぶんと素朴だと思うのですが、いかがでしょうか。

「記念館」というのは、わりとおもしろいんですよ。何を記憶しようとしているのか、が、まさにあらわになりますから。それから、その土地の気候とか大事です。空気の乾燥具合とか、気温とか。あと飛んでる虫とか、鳥とか、それらの声とか。(東さんは違うっていうかも……でも、私はそういうのが知りたくて記念館や記念碑に行くこと多いです。)

>私は文脈上、当然南京事件のことを念頭において発言されていたと思っているのですが、違うのでしょうか?

違いますよ、私は慰安婦問題の記事の文脈で先の発言をしています。伝わらなかったのは、たぶん、私の書き方が悪いせいです……文章下手で申し訳ない。南京大虐殺は、全然追ってないです。なんで慰安婦問題を追いたいか、という理由は、東さん以上に素朴な理由で、個人的な事情です。

font-dafont-da 2008/12/09 07:30 >gensyouさん

私が「マジ」認定した人は、たとえば「ペシャワールの会」の中村哲さんです。もちろん、中村さんは修正主義とかそんなんじゃないんですが、とにかく「あかん、この人はマジの人だ」と強烈に思ったのでした。前に書いたことありますけど↓
http://d.hatena.ne.jp/font-da/20080904/1220526741
関係ないけど、先に亡くなった伊藤和也さんの写真の展示会を浜松で今週末から23日までやっているそうです。↓
http://www1a.biglobe.ne.jp/peshawar/p-news.html
中村さんは、いまもアフガニスタンで活動中なんですね……。

font-dafont-da 2008/12/09 09:38 以下、攻撃的な書き込みと私が管理者として、独断的に判断した場合、削除します。また、はなはだしいものについては書き込み制限をします。

ApemanApeman 2008/12/09 09:56 どうもこちらの問題意識が伝わらない(声が届かない?)ようなので単刀直入に申しあげましょう。
まず第一に、“ネットなんて右も左も伝言ゲームやってるだけなんで、南京大虐殺なんて議論しても無駄”と主張する東氏について、「彼を批判するならコストかけろよ」とネットで言うのはかなりねじくれた事柄ですよね。東氏には、彼だけがネットの特性を免れる特権的な議論の対象であることを要求する権利などないはずですから。これはもちろん愚痴をいってる東氏にもあてはまることで、だからこそどなたかに「自説を体現してしまった」といった趣旨の皮肉を言われていたわけです。コストかけろよ、という「気持ちはわかる」方ならば、南京事件について知るために「コスト」をかけるつもりがなくまた論争史(ネットのそれを含む)を知るためにそれほどのコストをかけたとは思えない人間に“南京大虐殺なんて議論しても無駄”と言われた時、このイシューにそれなりの「コスト」をかけた人間がどう思うか「気持ちはわかる」でしょうか? そしてもちろん、「コストをかけよ」という要求はあなたにも跳ね返ってくるわけです。例えば

>東さんの「歴史家じゃない人が、論争しても泥沼化するだけ」という主張は、これから先の歴史認識をめぐる問題を解決するに向けて、押さえるべき点だとは思う。

とおっしゃるにあたって、あなたはネットでの「歴史認識」論争の実態を知るためにどれほどの「コスト」をかけたのか?(ちなみに、私は東氏がどれほどのコストをかけたのか、についても懐疑的です) 「これから先、必要なのは、国家の公的機関による歴史の実証的調査だろう」と主張するにあたって、従来の研究史を押さえるためにどれほどの「コスト」をかけたのか? などなど。ちなみに、私が知る限り「従軍慰安婦」という用語法にケチをつける論者こそいたものの「慰安婦はいなかったと断言するひと」なんてのはいませんから。フェミニズム的な観点から「慰安婦」という認識のしかたそのものを批判する意味で「慰安婦はいなかったと断言」した論者ならいたかもしれませんが、そういうことをおっしゃっているのではないですよね?

ApemanApeman 2008/12/09 10:11 >「記念館」というのは、わりとおもしろいんですよ。何を記憶しようとしているのか、が、まさにあらわになりますから。

ええそれはそうでしょう。東氏が訪館体験をもとに南京大虐殺の「記憶」のされ方について考察したのであれば、そのこと自体には誰も異論を唱えなかったでしょう。しかし彼は虐殺の実在性についての「実感」について語ってしまった。だから私は自分のエントリ
http://d.hatena.ne.jp/Apeman/20081202/p1
において東京都復興記念館を訪問することをお勧めしたわけです。font-daさんがもし首都圏在住なら、浅草、深川、両国一帯を「空気の乾燥具合とか、気温とか」「あと飛んでる虫とか、鳥とか、それらの声とか」を感じつつ散策してから復興記念館に行ってみてください。東京大空襲のことを考えながら。そして「ああ、なるほど6x年前にこの辺り一帯で10万人が亡くなったのだ」という「実感」を持てるかどうか、確かめてみて下さい。東浩紀に賛意を示しつつ「現場に行ってみるって本当に大事」だと主張するためにはその程度の「コスト」はかけるべきだと思いますが、いかがですか? ちなみに私は関西在住ですが東京都復興記念館には行きました。

それから

>この問題がナショナルヒストリーの問題である以上、国家がでばってくるしかない

について

>また右派が「河野談話」「村山談話」を目の敵にしていることから明らかなように、「公的機関による(……)調査」の結論に激しく異議を唱え続けるであろうことも織り込んだうえでのご提言なんですよね?

という質問をさせていただいたのですが、もう一つの問いが私の「文脈」についての先入見のために無効だったため無視されてしまったようです。果たして個人としての慰安婦に目を向けて「「誰に何が起きたのか」を明らかにすべき」ということと、「この問題がナショナルヒストリーの問題である」ことを不動の所与とすることとは両立するのですか? 「ナショナルヒストリーの問題」としての慰安婦問題は必然的に「日本軍(政府)がなにをしたか/しなかったか」という水準にとどまってしまうのではないですか? 右派が執拗に河野談話を攻撃するのはそれが「ナショナルヒストリーの問題」として捉えられているからだ、というのはご承知ですよね?

ゲスト


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