特集-インタビュー-

鎌田實先生の笑う!人生論

――長年、医師として、普通の人の、普通の生き方を見つめてきて思うことは?


日本人というのは、本当にがんばるのが好きなんだよね。健康になるためにがんばりすぎて、健康のためなら死んでもいいなんて人もいる(笑)。

仕事もそうです。本来、仕事は生きる活力や生きがいへとつながるもの。長野県が長寿であり、なおかつ医療費が低いという、健康長寿の県であることも、高齢者の就労率の高さが背景にあります。高齢になっても、自分ができる範囲で農業を続け、収入を得られるという環境は、人を元気にするんですね。

なのに多くの日本人はがんばり過ぎて、ストレスをため込んでしまう。命をすり減らしてしまう。今、日本人の8人に1人がうつ傾向にあるという状態はどう考えても異常なことです。がんばり過ぎて自分の心や体、人間関係をやせ細らせてしまう生き方に警鐘を鳴らしたくて、ぼくは『がんばらない』という本を書いたわけです。

――鎌田先生が考える、がんばらない生き方とはどんな生き方ですか。


ぼくは医学部を卒業してすぐに、長野県の諏訪中央病院に赴任しました。累積赤字4 億円のつぶれかかっていた病院をどう建て直すか、日本で2番目に脳卒中が多い長野県をどう健康にしていくか、日夜懸命に取り組んだ。「がんばらない」といいながら、実はけっこうがんばってきたのです(笑)。一時は家庭を顧みず、子どもたちから「お父さんなんて嫌い」と言われてショックを受けたこともあった。

それでも、ぼくがストレスに押しつぶされずにすんだのは、35年間1日も休まずに朝早く起きて、自分のために使う時間を持てたからだと思います。誰にも邪魔されずに、好きな音楽を聴いたり、本を読んだり。冬は新雪の降り積もった庭に出て、それを踏みしめる感覚を楽しむこともある。ずいぶんたくさんの本を書けたのも、この時間のおかげです。

人間は、ストレスをため込むと体や心の不調をきたすだけでなく、攻撃的な性格を持つ、自分の中の獣が暴れ出すことがある。ぼくの中にも獣がいる。だからこそ、心を満たしてくれる時間を意識的に持つことが大切なんです。

毎年、ぼくは障害を持つ人たちと一緒にハワイに行くけれど、そのツアーには多くのボランティアが参加してくれています。障害のある人を介助しながら、彼らも一緒に旅行を楽しんで、自分たちの心に栄養を与えている姿が見受けられます。ぼくがイラクの子どもたちの医療支援をし、イラク兵の銃に守られながらも診療活動をするのは、実はぼくのほうが彼らから力をもらっているからなのです。

命は「人と人」「人と自然」「体と心」の3つのつながりに支えられています。人との出会いや自然の織りなす風景に感動し、生きていることを実感する余裕を持つ。それが「がんばらない生き方」になるんじゃないかな。

――ただの長生きではなく、体も心も健康で長生きするために、今すぐにできることは何でしょうか。


日本人というのは、今日を犠牲にする傾向があります。おいしいものを食べても、美しい夕日を見ても、誰かのいい言葉を聞いても、何も感じなくなっている。そんな状態が長く続くと、心を栄養不足にします。そうではなく、ちょっとしたことにも心を揺さぶれるように、子どものころから感性を磨いておくことが大切です。そして、その感性を一生かけて育てていくこと。毎日の小さな感動の積み重ねが、大きな幸せにつながる。ぼくはそう信じているんです。


●鎌田式「がんばらない」健康法10のポイント
  1.  1.筋肉トレーニングを少々。20回のじっくりスクワットがおすすめ
  2.  2.「30m全力速歩→30mゆっくり歩く」を10クール繰り返す
  3.  3.食事は野菜、魚介類、海藻を中心にとる。週5回は魚を食べよう
  4.  4.地域で長年食べられているスローフードを大切にしよう
  5.  5.食物繊維をたくさんとろう。寒天とトマトがいい
  6.  6.「皮つきリンゴ」と「クエン酸入り牛乳」がおすすめ
  7.  7.朝食は必ずとろう
  8.  8.「早食い」は食べすぎの原因。ゆっくり味わい、よくかんで食べる
  9.  9.水分をたくさんとる
  10. 10.今日はダメでも、2日で帳尻を合わせる
鎌田 實

諏訪中央病院名誉院長
鎌田 實

諏訪中央病院で地域医療に携わり、2005年3月に退職して名誉院長に。
日本チェルノブイリ連帯基金(JCF)設立などの国際医療支援により、信濃毎日 新聞賞(国際医療協力)などを受賞。
著書に『がんばらない』『あきらめない』『ちょい太でだいじょうぶ』、最新刊『なげださない』(いずれも集英社)など

他の特集を見る