ゲストさんログイン

ウェブ検索

最新ニュース! クリックするほどよく分かる

livedoor ニュース

今週のお役立ち情報

マスコミの戦争責任を考える(3)

【PJ 2006年08月17日】− (2)からのつづき。

なぜマスコミは「言論統制」や「新聞統合」に従ったのか
マスコミが戦後、「言論独裁者・鈴木少佐」という虚像を作り上げ、それに対して強烈に批判を繰り返すことで、自らの戦争責任を回避してきた構図はお分かりいただけたと思います。「A級戦犯」「東条英機」「軍部」という記号も同様で、マスコミが自身の正当化の道具として利用しているのではないでしょうか。

 さて、1937年の日中戦争勃発以降、政府は新聞社への圧力を強めてきたわけですが、その方法は主に2通りありました。一つはそれぞれの新聞社への法による「言論統制」、もう一つは新聞業界全体に再編を自主的に促す「新聞統合」でした。前者も後者も一言で言うと、マスコミに対しての「アメとムチ」の政策といえます。これらは今時の言葉で表すならば、政府・軍部とマスコミのいずれも「勝ち組」になれるウィン・ウィンの策略だったのです。つまり、「新聞統合」とは、新聞を統合して情報操作を容易にしたい政府と、新聞業界内の競合他社を減らし自社の利益を拡大したいマスコミの利害が一致した結果だったのです。そこでの「負け組」、泣きを見たのは市民だったことはいうまでもありません。

言論統制で市民の犠牲を横目に、ほおかむりしたマスコミ
 内閣情報部が設置された後、言論統制として厳しい検閲が行われていたことは確かです。しかし、情報部がすべての新聞・雑誌記事を事前に検閲していたのではありませんでした。法を拡大解釈し「示達」や「警告」そして、今現在でも各記者クラブで行われている「懇談」という技法で統制を行いました。これらは政策の「ムチ」の部分です。一般的な言論弾圧史観では、戦前の伏せ字こそが言論弾圧の証しだとする説があります。しかし、伏せ字をされるということは、原文では弾圧をものともしない勇気ある言論が存在していた証拠でもあります。ひるがえって、校正前の事前検閲こそが「検閲の存在すら隠蔽する検閲」であり、より一層悪質な言論弾圧でしょう。

 ただ、当時のマスコミは事前検閲される前に、自ら進んで言論を投げ捨てていたのです。今回の調査では、はっきりした原因はわかりませんでした。察するに、マスコミには社会学者、ミッシェル・フーコーの『監獄の誕生』に出てくるパノプティコンの囚人のような心境があった。つまり、監視されているという意識が常にマスコミ内部にあったために、軍部に対して不利になるような記事の掲載を自らためらってしまうような感覚を抱いていたのかもしれません。多くの市民が戦場でなぶり殺されているのをはた目に、自己保身のためにマスコミが安全な場所でほおかむりしていたとすれば、噴飯ものではすまされません。それこそ、ジャーナリズムをつかさどるマスコミの正統性にかかわる重大な問題です。

紙・カネ欲しさに、市民の命を差し出したマスコミ、
 一方で、政策には「アメ」の部分がありました。マスコミという営利企業にとって、その内部に損得勘定があったことは否定できません。これは、きわめて合理的な感覚です。マスコミは、自らが宣伝するような「公共性」をモットーに常に市民の側にある神聖な組織ではありません。経営的にみれば、新聞社といえども利益の極限化を追求する営利企業であり、その本質は広告媒体です。

 これは、収入の多くを広告に頼った新聞社の収益構造を見れば一目瞭然です。とはいえ、このような数字をなかなか市民が手に入れることができませんし、マスコミ自らが進んで公表することはまずありません。公開企業に財務情報の公開とその説明責任を迫りながら、自らについては戦前から今日まで一切していません。マスコミは自らを「公器」であると吹聴しながら、その実、得体の知れないブラックボックスのような営利企業なのです。

 言論統制といった屈辱的な政府の圧力にマスコミが屈した背景には経済合理的な論理がありました。それは差し止め命令による損失と、政府への協力で得られる利益を秤にかけるという論理です。政府に協力すれば新聞用紙の供給で有利になり、それが企業利益に直結していたのです。

 日本の新聞紙原料のほとんどは輸入に頼っていたため、満州事変勃発ころから、日に日に新聞用紙の枯渇問題が深刻化していきました。新聞各社は新聞用紙の供給を確保するのに四苦八苦していたのです。用紙不足が決定的になったのは1938年からです。こうなるとマスコミ各社はこぞって戦争賛美の方向に傾いてしまいました。マスコミは市民を犠牲にしてまで、自らの利益を確保する方向に暴走し始めたのです。

 例えば1937年の朝日新聞に掲載された中国での戦勝報道を例に取ると、「肉弾突撃敵陣を割る 紅焔の中に日章旗 壮絶種村軍曹の人柱」「死を以て断つ導火線 爆発直前万歳」「おお軍国の父!愛児戦死の悲報を胸に秘めてその職務去らず」といった戦争と戦死を美化する見出しが並んでいました。

 政府の弾圧に屈したというより、マスコミが利益というアメに吸い寄せられたと私は見ています。カネに群がるマスコミの姿は「新聞統合」の内容とあわせて、後ほどご説明いたします。【つづく】

■関連情報
第1回
第2回

引用・参考文献
・有山輝雄著『「民衆」の時代から「大衆」の時代へ−明治末期から大正期のメディア』(有山輝雄・竹山昭子編『メディア史を学ぶ人のために』第4章)、世界思想社、2004年
・飯田泰三著『批判精神の航跡−近代日本精神史の一稜線』筑摩書房、1997年
・有山輝雄著『総動員体制とメディア』(有山輝雄・竹山昭子編『メディア史を学ぶ人のために』第9章)、世界思想社、2004年
・内川芳美著『マス・メディア法政策史研究』有斐閣、1989年
・佐藤卓己著『現代メディア史』岩波書店、1998年
・佐藤卓己著『言論統制−情報官・鈴木庫三と教育の国防国家』中公新書、2004年
・川上和久著『情報操作のトリック−その歴史と方法』講談社現代新書、1994年
・佐藤卓己著『メディア社会−現代を読み解く視点』岩波新書、2006年
・田村紀雄・林利隆編『新版ジャーナリズムを学ぶ人のために』世界思想社、1999年
・小田光康著『「スポーツジャーナリスト」という仕事』出版文化社、2005年
・美作太郎・藤田親昌・渡辺潔著『言論の敗北−横浜事件の真実』三一新書、1959年
※この記事は、PJ個人の文責によるもので、法人としてのライブドアの見解・意向を示すものではありません。また、PJはライブドアのニュース部門、ライブドア・ニュースとは無関係です。

パブリック・ジャーナリスト 小田 光康【 東京都 】
この記事に関するお問い合わせ / PJ募集
関連ワード:
AI  マスコミ  教育  筑摩書房  記者クラブ  
コメントするにはログインが必要です
ログインしてください
投稿

関連ニュース:AI

PJオピニオンアクセスランキング

注目の情報
あなたの適正年収ご存知ですか?
その仕事でこの給料?相場はいくらなの?自分の能力がどれくらい評価さ
れているか。意外に知らないホントの適正年収を60秒でスピード査定
WEB上でいくつかの質問に答えるだけ!パソナキャリアが教えます!


すぐに査定!今すぐクリック!