12月8日(ブルームバーグ):経済同友会の桜井正光代表幹事はブルームバ
ーグ・ニュースのインタビューに応じ、最近の円高進行について、1ドル=92
円台程度の水準であれば、企業は経営対応が可能だと述べた。その上で、現在
は下落基調にある原油・資源価格が将来再上昇する可能性があることを前提に、
円高を有効活用できる経済構造への転換と企業経営が重要だとの認識を示した。
インタビューは5日に行った。
桜井代表幹事は、「為替の急激な変化には耐えられないことになるが、今の
レベル感であれば、それなりの経営対応ができないということではない」と言
明した。その上で「今のところは耐え得るだろう」とする一方、「100円を切る
のは、厳しいところは厳しい」とも述べた。代表幹事は、企業が為替変動のリ
スクを軽減する手法として、多通貨での取引のほか、通貨取引の「買いと売り
の関係を密にしてバランスを取るようにしてきている」と説明した。
代表幹事は、新興国の経済成長に伴うエネルギー需要を背景に「ベースと
しては資源・エネルギー価格は上がっていく傾向は考えておかなければならな
い」と指摘。また、「円高になれば失望し、円安になれば大喜びという日本経済
もないだろう。そういう日本企業もないだろう」と述べ、「円高を有効に経営面
あるいは内需拡大のため、国の政策としていかにエンジョイ(享受)していく
か、こちらの方面はまだまだやるべきことはある」と語った。
9月中旬に起きた米大手証券リーマン・ブラザーズの経営破たんという金
融危機の衝撃が実体経済に波及、7-9月期の日米欧経済はマイナス成長を記
録。これまで世界経済を下支えてきた新興国経済の成長の勢いにも陰りが見ら
れ、世界景気の急減速と円高の直撃を受けている自動車など輸出型製造業では
非正規社員を解雇する動きが強まっている。雇用情勢の悪化は消費の減退につ
ながり、景気後退を長期に深刻化させる恐れがある。
日本銀行の企業短期経済観測調査(短観、9月調査)では、企業の08年度
の想定為替レートは通期で1ドル=102.82円。インタビューした5日午後の為
替相場は1ドル=92円30銭程度で推移していた。原油先物価格は今年7月に1
バレル=147ドルをつけた後、5日のニューヨーク市場では一時40.50ドルと、
04年12月13日以来の安値を付けた。
賃上げより雇用維持を重視
桜井代表幹事は、政府からの賃金引き上げ要請について「賃金は経営の重
要なファクター」と述べ、各企業の労使の間で解決すべき問題との見解を示し、
政府の要請には「返答しようがない」と説明した。一方、「われわれ企業経営者
は、雇用問題を維持していく方が重要な課題と思う。決して賃金をおろそかに
するわけではないが、最初に雇用問題だろう」と語った。
また雇用を維持するには、「ワークシェアリングも1つの方法として出てく
るだろう」と指摘。今後、経済状況が一段と悪化し正社員の雇用調整まで発展
する可能性については、金融危機に伴い企業環境が「未曾有」であるとして明
言を避けた。ただ、正社員を削減した場合、「企業の人員構成という意味からい
びつな人員構成になる」と述べ、「中長期的にみた場合、人材構成をしっかりす
ることはどこも皆、考えている」と慎重な見方を示した。
非正規社員の契約解除は3万人強に
厚生労働省の資料によると、今年10月から来年3月までに間で、期間満了
などで契約を解除または解除される予定の人数は、全国で3万67人に上り、こ
のうち派遣労働者が65.8%、契約社員が19.2%を占めている。また新卒の採用
内定取り消しは331人(高校生29人、大学生など302人)となっている。前回
の2000年から01年の景気後退局面では、企業は正社員の採用を控える一方で
非正規社員を増やしたが、今回は非正規社員が人件費抑制の対象となっている。
桜井代表幹事は、雇用形態の多様化の中で「非正規社員の方々は、臨機応
変に企業の経営に参加していただける。あるいは、企業は臨機応変に雇用契約
を中止することだ」と述べ、「当然、(それを)織り込んだ新しいタイプの雇用
形態で、ある意味では臨機応変に調整する役割の中でやっている」と語った。
企業は曇り、政治は大雨
代表幹事は、現状の企業の景況感を天候に例えると、「曇りがかっている」
と表現し、「マスコミは大騒ぎして大雨なようなことを言うが、そうではないと
言いたい。また、そう言わざるを得ない。企業までが大雨だといったら救いよ
うがなくなる」と述べた。一方、政治については「大雨だ」と語った。
日本の進路について桜井氏は、「先進国は成熟化してくればくるほど新たな
社会的な課題が出てくる。1つは、少子高齢化によるニーズは医療や介護など
健康関連が大きなニーズになる」と予想。さらに「温暖化防止のためのニーズ、
あるいは資源がなくなるわけだから省資源・エネルギーはグローバルなニーズ
になる」と述べ、2050年までに世界の温暖化効果ガス半減というポスト京都議
定書の目標は「数値目標がついた大きなニーズ。企業経営でもこんなに大きな
明確なニーズはない」と語った。
代表幹事は「こうした長期ニーズを国や企業はどう生かしていくか。問題
を解決するためにどんな支援やサービスをしていくことができるか。これを国
や企業の競争力にどう結び付けるかが、非常に大事だ」と述べ、政府は国家戦
略として低炭素社会の実現を最重要課題として据え、企業は低炭素製品などを
提供し、国民も同様にライフスタイルを変えていくことが重要だと強調した。
また、日本全体が低炭素社会を促進していくことで「技術やノウハウを世
界に供給できる」と強調。日本が直面している少子高齢化・人口減少について
も「健康や医療などでの問題を解決していくと、ノウハウ、システム、技術な
りを世界に供給できる」と自信を示した。
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