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【蹴球探訪】

進化途上にあるロンドン世代の実力

2008年9月20日

 来年のU−20ワールドカップ(カイロ)、2012年五輪を目指す「ロンドン世代」の輪郭が徐々に浮かび上がってきた。U―19アジア選手権(10月31日開幕・サウジアラビア)を前に、「牧内ジャパン」が世界と伍する「日本標準」の一端を示した。仙台カップ国際ユース大会(9月11−15日)で、ブラジル、フランス、韓国各代表との前哨戦で披露されたのは、整備されつつある「組織」と攻撃の「個」。チームの進化を後押しするのは、ピッチ内外での急速な「世代融合」だった。(松岡祐司)

日本−フランス戦の後半44分、河野(右)が相手DFをかわして攻め込む=ユアスタ

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光明を見いだせたブラジル相手の敗北

 雨が降り続く中、シュートの「雨」を浴び続けた。9月11日、ブラジル戦。セレソンの猛攻は縦に鋭く、局面で激しく―。ドリブルは柔軟かつ力強い。日本はユニホームを汚しながら、懸命に食らいつく。だが、体を当てても、スルスルと破られた。シュート数は計4対13。スコアは0―2。ピッチ上には、明らかな「差」が浮き彫りとなっていた。

 「こりゃ、エジプト行きは厳しいな」。肌寒いユアテックスタジアムの記者席では、09年のU―20W杯への出場をいぶかる声が上がっていた。

 ただ、奪われた2失点は、ともにセットプレーからだった。「前線から相手を方向付け、組織でボールを奪う守備」(牧内監督)をテーマに掲げる日本にとっては、絶望的な敗北ではなく、光明を見いだせる結果だった。

 牧内監督は「修正点はあるが、組織で守備をするということに関しては、ある程度、成果が出た」と振り返った。ビッグセーブを連発したGK権田(FC東京)は確かな手応えを感じ取っていた。

 「セットプレーは個人、意識の問題。反省点はたくさんあるけど、ブラジル相手に流れの中でやられなかったことは自信になる。DFラインに安定感が出てきたのは、何よりも収穫だと思う」

 前線の2トップは足を止めず、ボランチのMF山本(磐田)、センターバックのDF金井(横浜M)らを中心に堅固なブロックを敷き、抜かれても抜かれても激しく圧力をかけ続けた。守備ラインを押し上げ、中盤をコンパクトに保つと、1人ひとりのチェイスする距離が短縮され、2人目、3人目がサポートしやすい位置関係が構築された。チームコンセプトは確実に消化されつつある。その後のフランス、韓国を連続完封したことが、「守」に関して目星がついた証拠と言っていい。

 最大の課題はいかにゴールを奪うか、だ。

 ボールを奪った瞬間、DFラインの背後を突く。背後を狙う中で、今度はFWが顔を出して前線に起点を作る。人とボールが動き、絡み合いながら、時間をかけず、両ワイドに張り出した攻撃的MFとSBで数的優位を作る。仙台合宿で繰り返し確認したアクティブな攻撃パターンがある。しかし、カナリア軍団には牙をむくことはできなかった。

 ブラジル戦後、MF水沼(横浜M)は浮かない表情だった。心の奥には、怒りしかわいていないようだった。

 「2カ月しかない。もっと危機感を持ってやらないと、課題はいつまでたっても修正されない。いつも出てくる課題は同じ。みんな、考えないといけない」

 途中出場のFW柿谷(C大阪)は攻撃の「スイッチ」となり、その期待に卓越した個人技で応えた。ピッチの局面ではまばゆい輝きを放った柿谷も、理想と現実の歯がゆさに苛まれていた。

 「悔しいですよ。動きが少ないし、パスも消極的なパスばかりだし。みんな、心から代表でサッカーをやることが楽しいと思えていない。そういう選手を多くすることで、この代表が強くなると思うから」

日本−韓国戦の後半2分、先制のゴールを決め喜ぶ村松(中央)=ユアスタ

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急速に進んでいった「世代融合」

 これまで短期合宿や欧州遠征、SBS杯などで試合を重ねてきたが、Jリーグや高校の公式戦の兼ね合いもあり、大枠での選考が続いていた。年齢の垣根を越えた本当の意味での「融合」が、大きな命題として横たわっていた。

 仙台市内の宿舎では、何度もミーティングが開かれたという。9月7日。選手間の話し合いの場で、主将と副主将を立候補で募った。真っ先に手を挙げたのはGK権田だった。昨年のU―20W杯(カナダ)に飛び級で選出された実力、立ち上げ期から発揮してきた強烈なリーダーシップ。異論は出なかった。問題は副主将の人選だったが、名乗りを上げたのはチームでは「年下」の水沼、柿谷の2人だった。

 異例とも言える立候補だったが、これを機に、活発な議論と急速な「世代融合」が進んでいった。

 強くなるために年齢、上下関係は関係ない。柿谷はある強い決意を抱いていた。

 「代表での活動が3年前くらいから始まって、(水沼)宏太たちとはずっと一緒にやってきた。代表での雰囲気づくりの大切さとか、代表を1つのチームとして考える時間が多かった。自分の経験はまだまだ浅いけど、初めて代表に選ばれる選手もいる中で、いろんなことをみんなに伝えていけることができたら、チームが1つになるのも早いのかなって」

 U―17W杯(07年、韓国)の経験が、大きな転機となり、糧になっているのだろう。「アジアで優勝したという成功体験を浸透させたい思いがあるんだと思う」。当時、同代表を率いていた城福浩監督(FC東京)は2人の心境をこう分析する。

 城福監督によれば、ピッチ内では自由奔放な柿谷も、ピッチ外では「(チームを)まとめるような選手ではなかった」。攻撃の要でもある水沼に関しても、「どちらかといえば、不言実行タイプ」だった。アジアを制し、「世界」を知った。だから、今度は「世界」で勝ちたい。発言することには責任が伴う。でも、勝ちたいと心の底から強く思うからこそ、「責任」を買って出た。

 柿谷は言う。「誰とでも話せるようなチーム、強くなるために、何でも言い合えるようなチームにしていきたい」

 遠慮しない「突き上げ」はチームを活性化した。激しく要求し合い、意見をぶつけた。できそうでできない当たり前のプロ意識が、そこにはっきり芽生えていた。MF山本は小さな笑みを浮かべ、言った。

 「ようやく気持ちを1つに戦えるようになってきた。選手同士で思ってること、考えてることが分かるようになった。それが一番、大きいかもしれない。これを次につなげていきたい」

日本−韓国戦の後半40分、中央から持ち込んだ河野(左)がシュートを決め、3−0とする=ユアスタ

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目標は「黄金世代」越えのアジア制覇

 フランス戦(14日)の後半20分以降、韓国戦の後半45分間は、まばらな観衆から「ニッポンコール」が沸き起こった。テンポ良くボールが回り、面白いようにサイドアタックがはまった。フィジカルで勝る相手を手玉に取るような「日本標準」の攻撃に、誰もがゴールの香りを感じていた。加速度的な力の結集作業が、時間の経過とともに、明らかにプラスに作用し始めていた。

 SB高橋(浦和)は果敢な攻め上がりを見せ、山本は遠藤(G大阪)のような冷静な球さばきで攻撃の起点となった。特筆すべきは、やはり柿谷だ。1人で何人ものディフェンダーを弄び、ナイフのような鋭いドリブルでえぐった。リスクに対して臆(おく)することなく挑み、その天才的なスキルで攻撃の糸口をつくった。

 しかし、一方で決定力は相変わらず課題として残った。ディフェンスからのフィードや、シンプルにプレーするためのサポートも「ズレがある。精度とともに修正しないといけない」(牧内監督)。

 そして、肝心要の「ピース」が2枚、不足している。A代表のMF香川(C大阪)、同代表候補のMF金崎(大分)。この中盤の雄が並び立ってこそ、「新黄金世代」の真価が試される。目標は、1999年の世界ユース選手権(現U―20W杯)で準優勝した「黄金世代」でも成し遂げられなかったアジア制覇。それだけの人材は、いる。新時代の到来はそう遠くはないかもしれない。

U−19代表で主将を務めるGK権田修一(FC東京)のインタビューはこちら

<https://blog1.tokyo-np.co.jp/fctokyo/community/2008/09/post_149.html>

 

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