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(cache) チュチェ思想による社会主義像
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チュチェ思想による社会主義像
鎌倉孝夫 埼玉大学教授
1、人間生存の危機のなかで
ソ連・東欧「社会主義」の挫折による帝国主義勢力にたいする対抗力の弱体化のなかで、いま資本主
義強国の多国籍企業が、世界中にわがもの顔で進出し、支配を拡大しつつある。しかし、そのもとで生
じているのは、弱肉強食の商品経済的競争による貧富の格差拡大であり、さらには人間の共同・連帯関
係の解体による人間生存基盤自体の解体化である。そして、貨幣だけが唯一の価値だととらえる価値感
が蔓延し、貨幣をふやすことだけを目的としたマネーゲーム、投機が世界的規模で生じ、それによって
各国経済は攪乱され、通過・金融危機がひきおこされている。いまや多国籍企業を中心とする帝国主義
勢力の支配のもとでは、人間の人間としての生存が破壊されるという瀬戸際の状況にある。
ところが、ソ連・東欧「社会主義」の挫折を、社会主義自体の挫折・崩壊だとする認識が民衆のなか
にも広まったことによって、各国の多くの民衆は、−そして民衆を指導すべき政策、インテリに至まで
−、今日のこの人類生存の危機をいかに克服するかの展望を失っている。わたしたちは、この危機を克
服し、人間が人間らしく生活しうる社会をきりひらく展望と確信をもたなければならない。チュチェ
想が確立した人間中心の社会主義は、わたしたちに未来への展望、確信を与えている。帝国主義勢力に
よる反社会主義策動がつづき、しかも大きな自然災害によってきわめて厳しい情勢にあるなかで、朝鮮
民主主義人民共和国が確固として社会主義を堅持し、民衆が固く団結してこの苦難をのりこえているこ
とは、キムジョンイル総書記の指導のもと、民衆がチュチェ思想によって強固に武装しているからであ
る。
キムジョンイル総書記の諸論稿を中心に、チュチェ思想が明らかにした社会主義像の要点を示そう。
2、ソ連・東欧「社会主義」挫折の原因
キムジョンイル総書記は、『社会主義建設の歴史的教訓とわが党の総路線』(1992 年1月3日、朝鮮労
働党中央委員会の責任幹部との談話)のなかで、ソ連・東欧「社会主義」挫折の原因について次のよう
に指摘している。
第一に、「社会主義の本質を歴史の主体である民衆を中心にして理解しなかったため、社会主義建設
における主体の強化と主体の役割の向上問題を基本としてとらえられなかった」こと、第二に、「社会
主義と資本主義の質的な差異をみず、一貫して社会主義の根本原則を堅持しなかったところ」、第三に、
「社会主義諸国の党同士の関係において、自主性にもとづく国際連帯を強めなかったこと」である。
第一点は、社会主義革命と建設の基本要件を示すものであり、第二点は、社会主義建設の根本原則、
そして第三点は、社会主義国際連帯の原則を示すものである。いずれも、スターリンによって通俗化さ
れ、歪められたマルクス主義の歪曲を正すとともに、「社会主義」挫折の教訓をくみとり、新たな基礎
のうえで社会主義の再建と発展をはかるうえの決定的課題を示すもの、といえよう。
何よりも重要なのは、第一点である。キムジョンイル総書記が「社会主義社会は人民大衆が主人とな
った社会であり、一つに統一団結した人民大衆の創造力によって発展する社会です」と述べているよう
に、決定的に重要なことは、革命と建設の主体の確立−人民大衆の主体的意識と力量の形成である。生

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産力の発展や生産手段の社会的所有は、社会主義の客観的条件ではあるが、社会主義の発展は、この条
件を活用する主体の行動いかんにかかわっているのである。客観的条件を第一義ととらえ、主体の確立
を怠ったことによって、ソ連・東欧「社会主義」は挫折したのである。それは社会主義の崩壊を意味す
るものではなく、社会主義の歪曲、修正の誤りを示すものである。
3、人間中心・民衆中心の社会主義
社会主義社会の最高に発展した段階が「共産主義社会」である。 キムジョンイル総書記は、次のよ
うに述べている。
「共産主義社会とは、すべての人があらゆる束縛から最終的にぬけだして自然と社会と自分自身の完
全な主人となる社会であるといえます。共産主義社会では、社会の全構成員が人間の社会的本性にあう
自主的な思想意識と創造的能力を全面的にそなえた完成した社会的人間となり、生産力は社会生活の各
分野で人間の自主的で創造的な活動を物質的に十分に保障できる高い水準に到達することになるでし
ょう。これによって社会関係は、全社会が一つの社会的政治的生命体をなし、個人と集団の自主性がと
もに実現される完全な集団主義的社会関係となるでしょう。一言でいって、共産主義社会は民衆の自主
性が完全に実現される社会です」(同上)
ここで重要なことは、第一に、共産主義社会では、階級分裂・対立が克服され、社会の存立・発展を
担うすべての勤労民衆が、自然と社会と自分自身の完全な主人となっている、ということである。もち
ろん人間は自然法則をなくしたり、無視して行動することはできないが、自然法則の科学的解明と認識
を通してその法則に意識的に適応して、みずからの目的を達成することが可能となる。その意味で人間
は自然の束縛から解放されて、自然の主人となりうる。
より重要なのは、社会関係において人間が真に主人としての地位を占め、それにふさわしい役割を果
たすようになる、ということである。この点では、民衆の自主性を損ない、制約する支配階級や帝国主
義勢力の支配とともに、貨幣や資本による物神的な(Fetish)支配からの脱却を明らかにする必要がある。
このような社会関係における束縛の廃絶によって、民衆は社会の現実の主人となるとともに、「自分自
身の主人」たりうる、すなわち「自己の運命の主人」としての自覚をもって主体的に行動しうることに
なる。
第二に、チュチェ思想は、人間の「社会的本性」を「自主性、創造性、意識性をもち、自己の運命を
自主的に、創造的に開拓していく社会的存在」としてとらえている。この人間の「社会的本性」は、自
然的属性ではなく、社会関係のなかで、社会運動を通して形成、発展してきた人間固有の社会的属性で
ある。チュチェ思想の追求する共産主義社会は、「完成した社会的人間」による人間性を全面的に開化、
発展させる人間中心の社会なのである。
第三に、チュチェ思想は、人間を個々の個人としてではなく集団を形成している人間としてとらえる
とともに、歴史の主体を勤労民衆ととらえている。キムジョンイル総書記は「民衆は歴史の主体であり
ますが、つねに自己の運命を自主的に、創造的に切り開いていく歴史の自主的な主体となるのではあり
ません。…歴史の自主的な主体は、先進的な労働者階級が出現し、かれらの自主的な革命思想によって
勤労民衆が意識化され、組織化されてはじめて…自主的な革命思想をもって、自己の運命を自力で切り
開いていくようになりました」(『チュチェ思想教育における若干の問題について』)と述べている。「意
識化」され「組織化」された勤労民衆とは、革命的な労働者階級の政党に結集した民衆である。この党
組織の指導のもとで、民衆は「歴史の自主的な主体」となる。そしてこの「自主的主体」が全社会的に

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確立された社会を、チュチェ思想は「社会的政治的生命体」ととらえる。
「民衆は、党の指導のもと領袖を中心に組織的、思想的に結束することにより、不滅の自主的な生命
力をもつ一つの社会的政治的生命体をなします」とキムジョンイル総書記は述べている。
「党と領袖の指導のもとに、一つの思想、一つの組織」に結集し統一した「社会的政治的生命体」−
これは領袖・党の“上から”強制して組織されるのではなく、大衆みずからがみずからの欲求として自
主的に形成するものである。というのは、この「社会的政治的生命体」は、そのもとで個々人の自主性、
創意性が最大に保障され、発揮されるのであり、そして領袖−党の基本任務も、まさに大衆の自主性、
創意性の確立とその欲求の実現におかれているからである。
領袖−党−大衆の「革命的信義と同志愛」にもとづく団結、ここにこそ何ものをも恐れず困難にたち
むかい、これを克服し目的に向かって前進する共和国の不滅の力の根拠がある。
第四に、チュチェ思想は、社会主義建設・発展、共産主義の実現は、三大革命と三大改造事業の継続
的遂行によって可能となる、ととらえている。三大革命とは、思想・文化・技術革命であり、三大改造
とは、自然・社会・人間自身の改造である。従来のマルクス主義においては、生産力の発展を基礎とす
る生産関係−その総体としての経済構造−が社会の政治、思想、文化を規定するという経済主義的理解
にたち、社会の発展を生産力の発展を第一義としてとらえた。しかし、経済活動も、政治、思想、文化
と同様に、すべて人間の主体的、意識的な社会的活動である。したがって、人間社会の発展は、生産力
の発展(自然改造)、社会関係の発展(社会改造)と人間自身の発展(人間改造)の調和的な発展によ
っておこなわれるのであり、そのなかで何よりも人間自身の発展−その思想意識の発展と能力・力量の
発展−を基本とするものである。「わが党は…思想意識がすべてを決定するという思想論を示しました。
思想意識がすべてを決定するというのは、人間の行動を決める決定的要因が思想意識であるという意味
です」(『社会主義建設の歴史的教訓とわが党の総路線』)とキムジョンイル総書記は述べている。人間
中心の社会主義は、人間の行動を規定する自主的思想意識と主体的実践にかかっている。
まとめにかえて
ポスト冷戦の今日、各国の民衆を主体とした自主・連帯の世界を確立することは、各国民衆に課せら
れた重大な課題である。 しかし依然人間の、そして各国民衆の自主性を抑圧し破壊する勢力、要因が
存在し活動している。貨幣(マネー)と資本の力のうえに、軍事力を武器として支配をおこなう帝国主
義勢力こそが、自主を抑圧する最悪の勢力であることを、わたしたちは明確に認識しなければならない。
帝国主義勢力との対抗とその支配の排除を通し、各国、各民族の自主と連帯確立に向かって進まなけれ
ければならない。その際何よりも人類の未来の展望がいかにひらかれるかが明らかにされなければなら
ない。チュチェ思想にもとづく人間中心、民衆中心の社会主義像こそ、わたしたちに未来への展望と力
強い確信を与えている。